複雑・ファジー小説
- Re: 【参加型】神世ノ描画≪参加神募集中≫ ( No.7 )
- 日時: 2017/12/06 20:14
- 名前: 雲梯 ◆3M7/fLURow (ID: quLGBrBH)
vol.1『猫獣人の町』-2
次の日、僕は木々を切り開いた場所で教鞭をとっていた。その周りには目を輝かした幼い生徒たち、ちょっと離れた場所ではケシーさんが少し心配そうに見守っていた。記念すべき魔法の勉強第一回目である。
さてここで僕は告白させてもらうことがあるんだ。
実は僕、魔法を教わったのは数年だけでエルフとしてはすんごい短いんだ。しかもその後は独学でといっても旅する間の暇つぶしぐらいだったから魔法はそれほど得手ではない。
だから僕が今からここに書く魔法の訓練の仕方とかは学者さんが見たらお笑いかもしれない、そんな認識でお願いしたい。あとこのやり方をするときはくれぐれも室内とかではやらないほうがいい。
まず魔力を感じること、これが一番大事だと個人的に思っている。魔力は多かれ少なかれどんな人も持っていて、それが普段は体内をめぐっている。これを先天的に感じ取れる人もいるけれど、大体は言われてもわかんないんだ。
「それじゃまずは皆の体の中にある魔力を感じ取ることから始めよっか」
だから分かりやすい程の魔力の塊、これをぶつけることで無理やり感じさせるんだ。もしかしたらもっとわかりやすいやり方があるかもしれないけどとにかくこれが僕のやり方。
魔法にすらしない魔力の塊は無害だけれど、あまり当てすぎると何が起こるかからない。だから僕はとある属性の魔力ならばと考えていた。
簡単に言えば、大成功だった。僕の属性である「火」の魔力を体中から放出してみるとみんな、一度は慌ててしまったけれど多くの子が魔力の感覚をつかみ取ることができた。生物として恐怖の対象である火、危機察知能力が高い獣人ならばもしやと思っていたんだ。
「あの、一応注意を促してからお願いできませんか?」
とはいえまだ幼い子が多くて泣き出してしまった子もいて、ケシーさんに怒られたけど。
とりあえず感じ取れた子にはそれを体内で意図的に動かせるように、まだの子には今度は水の魔力を放出してみた。
けど水が怖いっていう猫獣人が多くてもっと泣かれてしまった。本当にごめんなさい。
本当はもっとゆっくりやりたかったんだけど、午後からは親の手伝いをする、っていう子が多かったからちょっと粗雑になってしまったかもしれない。
くれぐれもまだ魔力を体外に出そうとしないように、そう言い聞かせてその日の授業は終わった。
あとは自由時間であるため、一人森を歩きながら物思いにふけらせていただいた。
獣人が魔法をあまり得意としない、そんな世間一般の常識についてだ。だからこそ彼らは身体能力の高さや嗅覚などの能力にだけ目を向けられることが多いが、授業の成果を見るにもしやと。
ではなぜ、色々と勝手な憶測を建ててみても納得いくものはない。皮膚を覆う毛皮が魔力の放出を防いでいるのか、それとも魔力量が全体的に低いのか、旅なんてしていなければ研究してみたいことでもある。
そんなことばかりしていたからか、森の深い場所まで来てしまっていた。辺りは薄暗く、更に迷い込むのも待っているように見える。
「……あーいるねこりゃ」
魔物がいる、ようやく周りに気を配り始めた頃に一匹、近くにいることに感づけた。
生憎戦闘は得意ではない、だからすたこらさっさと帰らせていただこうとしたが……案の定魔物に襲われてしまった。
こちらの得物は弓矢と魔法、一人で戦うのは少々不利だった。しかし、幸運にもケシーさんが助けてくれ大事なくすむ。彼女はどうやらこっそりついてきてくれていたらしく、素晴らしい瞬発力と鋭い爪で魔物を翻弄していた。
援護する暇もなく魔物は地に堕ちた。とてもいい手際だった、そう言うと彼女は照れ臭そうに返り血を振り落とした。
仮に彼女が魔法を使えれば屈強な戦士になること間違いなしだった。
この後の数日間、森に猪を狩りに行ったり子供たちに初歩の魔法を教えたりした。最初はケシーさんが特別なのかと思ったが、この町の大人たちは比較的高い戦闘能力を有している。狩りの際もかなりの少人数で挑み、僕の弓なんていらない程に安定している。そもそも狩りの多くは日が沈み暗くなった後で行われたため夜目が利かない僕はお荷物だ。
魔法の授業の方は順調で、既に殆どの子供たちは火や水、そよ風に土玉を出せるようにまで成長していた。これは種族的に苦手とは言い難い成果だ。子供だから成長しやすいのか、それとも……。
本来ならばこれから攻撃系統だったりと色々教えていくのだろうが、元々初歩だけという話だ。僕自身も教えたい気持ちはやまやまだった、がケシーさんに早く町を出ることをお勧めされてしまい、おとなしく離れることにした。
聞いたところによると、そろそろ森の魔物が増えて活性化する時期らしい。そんな時、魔法が使えるエルフがいれば駆り出されるのは自然だそうだ。
先ほども書いたが、僕は魔法を使うエルフとしては未熟者。少々危険な目に合うのは必然だろう。
ケシーさんの気遣いに感謝しつつ、彼女らに怪我がないようにと祈り町を出た。
今は少し離れ開けた場所に座り込み、ペンを握っている。今回の旅も色んなことがありとてもいいものだった。最後は逃げるように旅立つことになってしまったが、出来ることならもう少し彼らの成長を見届けたかった。
もし今後獣人の町に行くことがあれば、暇を見つけて魔法を教えてみようと思う。魔法は素晴らしい力だ、簡単なものでもみんなが使えればきっと豊かになるに違いない。
そんな時が来るのに備え、次の収入は魔法の教本につぎ込んでみることとしようと決め、僕はこの原稿を相棒の梟に持たせ空に放つ。
最初ということで何を書いたらいいかわからなかったが、出来ればこれで打ち切りにならないことを祈っている。