複雑・ファジー小説

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第一限6/9 更新】 ( No.16 )
日時: 2018/02/26 18:36
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: UFZXYiMQ)

第一限「嘘つきと早退者」7/9
 

 何か、嫌な予感がした。

「……ん」

 目を覚ませば、うす暗い天井が目に入る。部屋の暖房が入っていなかったせいか、少し硬くなった体を感じつつも無理やりベッドから少年は起き上がった。
 鳴り続けていた目覚まし時計を止め、眠い目をこする。ナポレオンを見習っているかのような睡眠時間だったが、それでもあと半日動き続ける程度には回復しただろう。
 なぜ彼が睡眠をとっていたのかといえば、それは衛材フロアから大量に発掘された武器の数々、それを折半し大當寺と自分の部屋に隠した後のことだ。

『夜になったら忙しくなるから、今のうちに休んでろ』

 そう言われた彼は少々の不満を見せつつ、目覚ましをセットして瞼を閉じた……そこまでが幾田の記憶に残っていた。
 どうやら彼が思っていたりもずっと疲れがたまっていたのだろう。流石は教師、生徒の体調を把握するのもお手の物らしい。
 顔に水をつけて目を覚ましつつ、彼は外に向かう準備を進める。大當寺から言われた約束の時間が迫っているのだ、早くせねば申し訳がないといったところだろう。
 早く、早く、バタバタと音が立ちそうに慌てながら彼は玄関の扉を開けようとして——、

「……っ」

 ふと、立ち止まった。
 ついで自分の頬に冷や汗が一つ、流れていることに気が付いた。まるで、この先に向かえば何かが起こると彼の体が感じ取っているように、奥歯がカタカタと震えている。
 何がある、いったいこの先に。
 恐怖は渦を巻く、気が付けば安全地帯は今立っているその場だけになる。下がっても地獄、進んでも地獄、彼の最善はその場でずっと立ちすくむことだと見えない自分がささやく。
 それでも、

「——ふぅ」

 深く、一度深呼吸をして、恐怖を押し込めた。大當寺先生のように、彼は会ってから数時間の間ではあったが、その動作をたびたび見せていた。だからこそ、一個の状況で一番頼りになっている人物と同じ動作をすることで彼のように強靭な精神をと思ったのだろう。
 だが、結果は芳しくない。当然のことだがリラックスすればその分無防備になるというもので、あまり精神の強くない彼が真似るものではない。
 それでも、深呼吸したのだから……一種の勘違い、彼は恐怖を克服したつもりになって、ドアを開ける。
 時刻はすでに夜、アナウンスまではあと数時間。これから幾田は走り回って今度こそタイムリミットの解除、もしくは主催者を見つけ出さねばならない。

「……いくぞ」

 自分に言い聞かせながら、彼は一歩を踏み出した。





「よし、みんな覚悟はいいかい?」

 折れ曲がり地面に横たわっていた電波塔、校舎の屋上。すっかり日は落ち屋上には弱い月明りしかないためか、彼らの顔色をうかがい知ることは難しい。
 自分の靴紐を結びながら、羽馬は周りの確認を行う。闇夜に紛れるためか、全員がそれぞれ持っている中では暗い色合いの服に着替えていることから、彼がこれから行うことはすぐにわかることだろう。
 闇討ち、決して西軍の最初に纏っていた雰囲気からは想像できないほどの現実的な案。塚本の東軍への襲撃に関しての証言は本当だったのだろうか。

「はいっ、準備できてます」
「……はい」
「俺は偵察役でいいんだよな? というかマジでやんのかこれ」
「俺も同じようなものだ……うん、大丈夫。死にたくはないからね」

 団結し和気あいあいと仲間意識を持てたからこそ、彼らはその作戦にしたのかもしれない。
 木刀が入った長い巾着袋を肩から下げている播磨、軽く手のひらをグーパーと広げては調子を確認している三星。腰から下げられたポシェットを軽く触りながら周囲を警戒している羽馬、そして彼女に対し改めて作戦の確認をしている栂原。
 その四人から少し離れた位置に立っている光原、これが彼らなりの陣形であった。

「改めて確認するけど、多分まだ死者はでてないだろうからアナウンスでは死者は0って言われる。そうなるとそのうち皆焦ってきて、死を恐れた人たちが出歩くようになる。私たちはそれを発見次第、奇襲をかける。
以上だけど、注意事項のほうは覚えてるかい?」
「えっと、テイサツはオサム先輩とシーちゃん先輩に任せる。あとアナウンスで死者が一人でもいたら即帰る……でしたっけ。あ! あとアタシの能力は攻撃よりもユードーに使う!」
「頼むよアカリさ、アカリ」
「ははっ、海君は中々慣れてないみたいだね」
「ウミ先輩、呼びづらいならどっちでもいいよ?」

 東軍でも無所属でも、やる気になって外に出てきたら相手をする。それが西軍の方針である。彼らがそこまでやる気になった理由、それは西軍の中には死に対して諦めを持つようなものが居なかったこと、また倫理観が強いものがいなかったことがあげられるが……一番の理由は別のところにあった。
 羽馬は、ポーチから折りたたまれた書類を取り出し、もう一つ携帯ライトを取り出しては内容を確認し始める。
 そこには、東軍が所持していた物と同じように顔写真、そしてその人物が所持する能力についての詳細が書かれていた。顔写真はすべて参加者のものでそれぞれ、鴬崎,深魅,千晴川,大當寺が写っていた。

「……四枚中三枚が東軍かぁ、しかも有名どころじゃないのは二つだけ。結構つらいかもね」
「しかし、東軍三人の能力が細かく分かるというのは大きいと思います」
「そうだなぁ、東軍とうちが今んところ最大勢力だろ? しかもあっちがこっちの能力知ってる可能性もあるしな」
「東軍となら先に鴬崎さんって人を狙うべきかと。回復が出来る人を放置すると後々きついですし」
「ならアタシは千晴川って人で! アイショーいいです」

 己の能力についての書類、それを少なくとも一つは東軍は所持しているはずである。であれば無所属は、そう考えたとき彼らは後手に回るよりも先手を打ったほうが早いと思いついた。
 次に襲う相手はどうするかとなった時、人数の差を考慮し無所属を襲うべきだというのが共通見解ではあった。だが、彼らも人である。自分が生き残るためとはいえ、ハンデを背負っている無所属をというのは流石に、しかし綺麗ごとを言っていては死んでしまう。
 そう悩み、「やる気になっている人間なら関係ないのでは」ということになった。
 決まってしまえばあとは早いものである、ロッカーの中には簡単な武器が入っていることもあり、彼らはしっかりと武装をしたうえで待ち伏せをしようとしていたのであった。

「双眼鏡があればよかったんだけど……おや?」

 羽馬はライトをしまい、屋上のフェンスに寄りかかって辺りを確認する。屋上はともかく、校舎の周りや購買棟の近くには最低限とはいえ街灯がある。
 それでも、屋上からでは目視は厳しい。やはり敵の殺意を消すことができる栂原や、羽馬が偵察をする必要がある……はずだった。
 偶然にも、彼女は暗闇に動く影をとらえた。

「——皆、東のほうから来てる」
「東、えっと」
「こっちだよ……どこですか?」

 羽馬の知らせに驚きつつも、四人とも東側のフェンスに近寄る。だが、それがいけなかった。
 弱い月明りよって出来た人影、それが屋上で動く姿を彼らもまた地上からそれを捉えたのだ。
 複数の人影、屋上という高台の位置。当然平和活動をしているわけではないことはすぐわかる、否例えしていたとしてもここまで来れば行動せざるを得ない。
 そこからの彼女の判断は非常に早かった。

——直後、銃声が響く。

 それ静粛を保っていた学園に響き渡る、そしてコテージにこもっていた者たちは確かに感じた。
 殺し合いが始まったのだ、と。



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2/26 更新予定日のずれ、投稿するものの数字を間違えておりました。この場にて謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。