複雑・ファジー小説

prologue「強制入学 Live or Die」 2/2 ( No.2 )
日時: 2018/07/07 20:21
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: wooROgUa)

prologue「強制入学 Live or Die」 2/2

 十五人目、幾田が来た道から黒一色の服装の女性がやってきた。彼女もまた、首輪をしていたことから、全員がそれをつけられていることが分かる。
 それにしても、一人だけ随分と遅く来たなと幾田は思う。どこかで寄り道でもしていたのだろうか。

鳥海とりうみちゃんまで……」

 その際、既に集まっていた内の一人がぼそりと呟いた気がしたが、幾田はその発言者を見つけることができなかった。女性だろう、という見当だけはついたが。
 一方、恐らく鳥海という名前なのだろう彼女は特に気にするそぶりも見せず、そのまま誰と目も合わせずに立っていた。
 他十四人全員から離れた位置を取っている彼女は、決して話しかけてくるなという雰囲気を出している。

『……15人、ようやく揃いました。それでは皆様、今から何が行われるのか説明に入らせていただきます』

 スピーカーから機械音声が流れ出る。
 音の主はようやく、十五人に対して状況説明を始めるようだ。ようやく謎の緊張が終わるのか、そう思いかけた幾田だが、直ぐにそれが勘違いだったことを悟ることになる。

『——殺し合いです』
「……は?」

 六文字、たったそれだけの言葉。脳が理解を拒否する。
 その声は誰のものだったのか、幾田のモノだったのかはたまた別の人のモノだったのか。機械音声は特に気にすることは無く続ける。

『私の名前はAI(アイ)、この学園での殺し合い管理を担当するものです。
皆様、武器でも能力でも仕掛けでもなんでも、殺しあってください。この学園ではルールなんてありません。
非道でも、王道でも、とにかく貴方達ができる最大限の方法でその数を減らしてください。さもなくば……』

 最後の言葉と同時だった、十五人の首輪が一斉に警報を発する。
 僅かな振動は肌によく伝わり、着けている者に危機感を感じさせるには十分だった。何が起きるのか、勘のいいものはそれだけで気が付き青ざめる。
 だが、しばらくすると警報は鈍い音へと変わり、ゆっくりとそれは止んだ。

『……皆様にはめさせていただいた首輪が爆破します。
本日の午前10時よりカウント開始で24時間、それがタイムリミットです。死人が1人出る度にカウントは1日分増えます。また、条件が満たされた場合はカウントがストップ。爆破の心配はなくなります』
「……条件は?」

 十五人の中で唯一の教職、先ほど幾田が話しかけようとした人物が口を開いた。
 しかし彼は頭の中である程度想像ができているようだ、それは聞くというよりは、確かめるといった意味合いが強かった。

『いい質問ですね……大當寺さん。最後の一人、もしくはチームになることです。そうすれば元の生活に戻れますし、更には優勝賞品としてなんでも一つ、願いをかなえてあげましょう』
「……チームってのは、勝手に組んでいいのか」
『いえ、既にチームは決められています。チームは二つ、それぞれ西軍、東軍と称することとし、今から名前を読み上げます』

 大當寺と呼ばれた教師は、臆することなくそのままAIに話しかける。
 その様子を周りの生徒たちは心配そうに、あるいは興味深く見守っていたが、いきなり何かされる話ではないようだ。見せしめに爆破される、という最悪の事態だけは免れた。
 それとも単に説明が捗るということで放置されているのかもしれないが。
 幾田はその読み上げは心して聞いていた。彼は能力者のカテゴリーに入ってはいたが、酷く非力でもあった。
 殺し合いなんて馬鹿げたことに従う気は毛頭なかったが、それでも周りの人間がどうかは分からない。もしこのまま惨劇が発生してしまうというのであれば、少しでも強い、安全なチームがいい。
 そう思うのが自然であって、いつの間にか拳を固く握っていた。

『西軍、三星 アカリ(みほし),播磨 海(はりま うみ),栂原 修(とがはら おさむ),光原 灯夜(みつはら とうや),羽馬 詩杏(はば しあん) 、以上五名』
「はい!え、えっとよろしくおねがいします?」
「……よろしく、だけど多分そういうことは求められてないと思うよ」
「あっ、俺? けど灯夜いるしよかったわ」
「栂原。君も結構勘違いしてるでしょ」
「…………」
 
 名前を呼ばれ、まるで出席の様に明るく返事をした赤毛の少女、それに突っ込む眼鏡の少年。幾田に話しかけてきていた男、栂原は間の抜けた声を出し、彼の友人と思わしき光原に咎められた。
 唯一西軍で一人、年長者でもあった羽馬のみは西軍以外の人間に視線を送り、周りが騒ぐ中じっと黙っていた。
 その騒ぎ様に、他に人はどこか気が抜けるほどであったが、直ぐにAIが仕切りなおす。

『……東軍、岩館 なずな(いわだて),鴬崎 霧架(うぐいすざき きりか),伊与田 エリーズ(いよだ),千晴川 八三雲(ちはるがわ やみくも),深魅 莉音(ふかみ りおん)』
「じょ、冗談でしょ?」
「大丈夫? ゆっくり呼吸をして……」

 岩館なずな、東軍の中では最年少であった彼女がよろめくと、それを受け止め介抱する女性。伊与田はその背中をさすりながら心配そうに声をかけている。
 灰色の髪の少年、鴬崎も同じようなことをしかけたが、位置的に近かった伊与田が対応してしまったので、空いた手をどこか居心地悪そうにしまい込む。
 千晴川、深魅は少しそれを冷めたような目で見ていたが、その内心は推し量ることができない。

『これでチーム発表はおしまいです。それでは……カウントは10時からですが別に今初めても構いません』
「お、おい!」

 10人の名前を呼び終えた音声はそのままやめにしようとする。だが、まだ名前を呼ばれていなかった幾田は慌ててそれを止めた。
 一斉に彼の方へと視線が集まる。
 彼は声を出した後、自分が危ないことをしたということを自覚したが、西軍の無法地帯ぶりから見て、やはりいきなりどうにかはされないだろうと勇気づける。

『……なんですか、幾田 卓くん』
「あ、いや……えーと、まだ俺含めて呼ばれてない人が何人かいるけどそれは?」
『——無所属です』
「え?」

『ですから、無所属です。幾田 卓,榊原 伊央(さかきばら いお),塚本 ゆり(つかもと),鳥海 天戯(とりうみ あまぎ),大當寺 亮平。貴方達五人はチームではありません、生き残るためには他14人と殺し合い、最後の一人になるしかありません』

 幾田は、膝から崩れ落ちる。突然の殺し合いの提示だけでも限界だった彼はその非力さが故、ただ一人で生き残ることなど不可能だということに瞬時にたどりついてしまう。
 つまりは、AIに死ねと言われたような物であった。
 
『以上で質問はありませんね? これ以上の質問は各自の部屋、のスピーカーに話しかけてください。なお、回答は毎日夜11時、その日の死亡者と同時に行います。
改めまして皆様、この異能学園に入学おめでとうございます。ご健闘のほどお祈りしています』

 音声が切れると、辺りは静粛に包まれた。
 既に、チームとして発表され仲間とされたものと、そうではない者の間には溝が出来上がろうとしている。
 殺し合いなんて起きるわけがない、協力し合おうと提案できる人物はいない。もしくは居たしても、この場で叫んでも効果がないと理解していたのだろう。
 仮に彼らが全員、見知った人間であればもう少し軽くなったかもしれないが、ここに来る前、平和だった異能学園は全国の能力者を一まとめにしているマンモス校である。
 更に言えばこの場には中等部の一年から高等部3年、更には教職も一人混じっている。顔を知っている、程度ならいるかもしれないが……横のつながりはとても薄かったのだ。

「……」

 自然に、東軍とされた五人が歩きだした。岩館に肩を貸している伊与田を中心として、残る三人は無言でその場から居なくなる。
 続いて、無所属組とされた塚本、鳥海が顔色一つ変えず来た道を戻っていく。それを見て、この場に取り残されることを悪しとでも思ったのか、榊原が白く長い髪を揺らして駆けていった。
 西軍はやはりどこか気が抜けるような会話を幾度か繰り返しながら、それでも気を緩めない3人が先導して残る二人を連れて行った。

「……」
「……」

 結果、呆然として動けもしなかった幾田。考え事でもしていたのか、途中から完全に黙していた大當寺のみがその場に残されたのであった。


-prologue「強制入学 Live or Die」 END


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