複雑・ファジー小説
- Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-1 更新】 ( No.28 )
- 日時: 2018/04/27 19:25
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: 2rTFGput)
- 参照: http://明日忙しいので
第二限「ゆびきり」-2
-西軍、播磨海のコテージ
一夜が過ぎた。朝が来たが、皆碌な目覚めを迎えなかったのは確かだろう。
中には一睡もできなかった、なんて人物もいたかもしれない。
そして彼らはまた同じように、播磨の部屋に集まっていた。
「——深呼吸をする度、軽い切り傷や疲労、少し不安定になった精神程度なら瞬時に回復。本人はそれを生かし何日も起きたまま働き続ける、まさしく再起動≪ハードワーカー≫の名前がふさわしい。
……結構、大當寺先生は生き残ると思ってたんだけど」
そう言って、羽馬は大當寺亮平の名前が刻まれた能力レポートを机に置く。もう使うことはないだろう知識をいつまでも持っておく意味はない。
四つ得たレポートの内、既に一人が死人で、残るは東軍三枚。無所属に対しての情報が少ないか、と彼女は思ったに違いない。鳥海の溶血性漆黒病≪ペインツ・オブ・ブラックブラッド≫、榊原の名前と詳細は不明だが音関係で暴走の危険性がある能力。
残る二つはなんだ、そう思うのはごく自然なことだっただろうから。
「さて、そんな彼の死亡を知らせてくれたのは無所属の……幾田君。だったよね?」
「はい。血まみれでいきなり入ってきて、あと左腕に大っきなハサミが生えてて……」
「ハサミ……か、特殊能力なしだと分かりやすくていいんだけど」
「……」
昨日集まった時のムードとは正反対、部屋に入っても軽口一つも言わずにうつ向くばかり。
頭数は一人減っての四人、負傷者も一人。無事な三人の内男子二人は俯いていて碌に言葉も発していない。
負傷者であるはずの羽馬が話を振っても反応は鈍い。特に……播磨は今は何も耳に入らないという振る舞いだ。
羽馬は叱るべきか、と考えたが彼の辛さを推し量るとどうしても口先が閉じてしまっていた。
だがしばらく話を進めている内に、播磨が姿勢を正す。
どうやら、何か言いたいことがあるようだと気づいた三人は会話を止めた。
「……栂原さん、僕——」
「いーい、言わなくていーよ」
彼がゆっくりと口を開きかけた時、栂原は直ぐにそれを止めた。
謝りの言葉が続くのが分かったからこそ、栂原はそれを言わせたくはなかった。
それでも、少年は止められなかった。申し訳なかった。
仮にも近接戦闘において最強の一角に立つ彼がとどめを刺しに向かえば……そんな後悔。
その断言は決して驕りから来るものではなく、播磨が持つ『能力』によるもの。
当然、周りの三人も彼の持つ能力は知らされているし、もしかしたらと考えはついているだろう。
けれど、栂原はその後悔がお門違い、場違いのものだと思っていた。
「でも、僕がもっと注意を払ってれば……!」
「それ言うなら灯夜も同じだって。むしろ年上はアイツだったんだからさ……」
けれど今更気にしたところでしょうがないし、そもそも彼がそこまで気負うものでもないということだろう。
上級生は、光原だった。播磨は命じられた通り前衛として影の猛攻を防ぎ切った。
そんな彼を責めてもしょうがない。
それもまた、播磨を除く西軍の共通見解。
少年の罪は薄いと、栂原は励まそうとする。
だが、
「それに、そんなこと言うならなら俺が付いてれば、とかになるって。結局のところ、あと少しで油断した灯夜がわる、い……ったく」
栂原は言い切ろうとして不意に、脳裏に友人としての光原が浮かんだ。一夜を越して、乗り越えたられたと思っていた感情が再浮上する。
愛想笑いが多く、本気で笑うことは少ない人物だった。
栂原が入学してから直ぐに話しかけた人物だったが、真に打ち解けたのはその二週間後だった。そこからおよそ一か月と少し、この殺し合いに巻き込まれるまでの日数はたったそれだけ。
だがしかし、光原灯夜は確かに栂原の友達だった。何かとお節介が好きで、口では面倒事は嫌いだとのたまう。薄い人付き合いをしているように見せかけて、其の実人をよく見ていた。
素直に気持ちを出せない彼の、友達だったのだ。
このおかしな世界の中で、彼の人となりをよく知っていたのは、栂原だけであった。同時に、栂原の事をよく知っているのも彼だけだった。
そんな大切な人物を喪失した悲しみ。
「……そうだな。悪いのは、俺か」
友を失ったのは、自分がいまいち本気になれなかったせいだと栂原は思い至る。
もっと早く異変に気が付き、下に降りていれば……それかそもそも友の意見を聞かずに着いて行けばよかった。その思いがあった。
「っ、違います! 僕が——」
彼の自責に、播磨は我慢できずにまた懺悔の思いを……、言う前に一つの音が場を鎮めた。それは手と手を合わせるだけで簡単に響く音、拍手。
「はい、おしまい! ウミ先輩もオサム先輩も、そうやって落ち込んでる暇はない、ですよねシーちゃん先輩!」
「……うん、意見のぶつかり合いもいいとは思うけど、このまま平行線やられるのは勘弁願いたいな。まだまだやることはあるし、後悔しているなら次に生かそう」
「そうです!」
手を叩いたのは三星。それに続いて、羽馬が二人をたしなめる。彼女たちの声は少々わざとらしくも明るいものになっていた。
その際彼女の左肩に痛みが走ったのか、少しだけ顔を歪めたが直ぐに元の微笑みに戻った。
その変化に気が付き、三星は心配する。
「シアン先輩、やっぱり肩がまだ……」
「ははは、大丈夫だよ。左腕に力は入らないけど……アカリちゃんのおかげで血も止まったからね」
そう語り、包帯を巻いている肩を自慢げに見せた。問題ないと言いたいのだろうが、その痛々しさに栂原達は息をのむ。
幸いにして彼女は当たり所がよかった。肩の肉がえぐられた影響か左肩に力が入りづらく、時折激痛が走る……だけですんでいた。
そんな彼女の顔色が悪いのは、止血をするまでにしばらく血を流しすぎたせいだ。
動く分には影響は微小なものだが、気分もかなり悪くなっているだろう。
「けど、愉快な仲間達≪ユーモラス・フレンズ≫は私の状態をコピーするから……つまり分身たちも左腕は使えなくなった。それで……栂原くんの脅威消却≪キャンセリング≫は使えそうかな?」
「……多分だけど、東軍の奴らみたら自信がねーなー」
「つまりは私たちは現在、戦力が大幅にダウンしている状態なんだよ。無所属は4人、西軍も4人いるけど能力に不備が出たのが二名、しかも一人は怪我人だから実質三人ぐらいかもね。
人手の数で言えば、かなり危ない場面だよ」
「……ヤミクモ先輩は大火傷にしたけど、多分回復されてるよね。回復役がいるのずるい……」
三星はそう言って、ファイルから一枚の紙を取り出す。東軍、鶯崎の名前が書かれた能力レポートだ。
そこには見出しとして能力の名前、皆乍回復≪リザレクション≫。後ろに文字から想定される通り、回復系統の能力者。
怪我人の状態によって能力者の消耗も変化するというデメリットが記されているが、まさか回復しないという選択肢はないだろう。千晴川の復帰は確実だ。
東軍は生存五人、鴬崎が代償としてダウンしても四人。次に東軍が襲撃してくれば、西軍が押し負ける可能性がとても高い。
その現実を認識した西軍には、生存戦略を立てる必要があった。
悲しみの感情をひとまず他所に置くことが出来た栂原も参加し、議論を進めていく。
「俺が東軍なら、今のうちに数の差で西軍をつぶしに行くな……。
それで、どうするってんだ? 東軍の奴らを闇討ちして各個撃破、とかか?」
「理想としてはそれがいい、けど流石にあっちも警戒するだろうね。少なくとも一人になる、なんてことは絶対にしないはずだ」
「うーん……あ、シーちゃん先輩が言いたいこと分かりました!
たぶん——」
三星が閃いたとばかりに手を挙げる。だが同時に、播磨がまた黙りこくっていたことに気が付き彼の顔を見る。
気持ちは分かる、三星も直ぐ近くで人が撃たれた時は衝撃を受けたし、止血の処置をする際にした事は彼女のトラウマになりかねない。
けれど、その空気を抱えたままではまずいのだ。勝負は——殺し合いはまだ始まったばかり、へこんでなんていられない。
「ウミ先輩! 次にいかせって言われたじゃないですか、そんなにウジウジしない」
「……わかっているよアカリさん。けど、僕は結局光原さんを守り切れなかった。それが……」
立ち直らなければならない、それは播磨も分かっている。普段ならば大失敗した後でも負けるものか、と奮起……或いはその場面で戦うことを諦め別の事で勝てないかと模索するのが彼だ。
しかし、命が失われた。同時に、彼からは自信に近い何かが失われていた。
守り切れなかった。仕留め切ったと気を抜いてさえいなければ間に合った。その事実が何度も彼を責め立てている。
三星は何となくそれが分かっても、どう言えばいいのかが分からない。勢いで播磨にきつく当たってしまった、完全な見切り発車。
「——なら、海君の次のミッションはアカリちゃんの護衛で」
「えっ?」
このまま空気が悪くなっていくのかと思われたが、羽馬が助け舟を出した。
自信が失われてるのなら、出来る事からコツコツと。彼の能力を高く買っているからこそ、ここでつぶれてもらう訳にはいかない。
完全に復帰することが難しくても、仕事を与えれば少なくとも考えが紛れるだろうと思ったのかもしれない。
三星も別に拒否する理由がなくそれに乗る。
突然の事に驚き、暗かった表情が一転困惑に変わったのを見て、畳みかけるべきだと思ったのだろうか。
「えーと、じゃあよろしくおねがいしますウミ先輩!」
「いや、頼むって言われても……そもそも護衛って。作戦もそうですけど、今日はまず校舎に光原さんの遺体を迎えに……」
「いや、勿論そうだけど。それが終わった後に二手に分かれる可能性が高いからね」
「二手……?」
ますます意味が分からないと播磨、ついで栂原も困惑する。この状況下で二手に分かれて、いったい何をするというのか。食料などの調達……にしても分かれる必要はない。
播磨が三星につくというなら、羽馬は自分と……先ほどまでは人手が足りないと話をしていた。
まさか、と先に気が付いたのは栂原だ。
「まさか詩杏、あんた——」
「そう、西軍として無所属に……一時休戦を持ちかけよう。東軍を倒すまでは協力しあおうって、かなり可能性は低いけど……生存戦略としてやるしかないと思う」
と、いう訳で修君は私と一緒だ。よろしく頼むよ。
彼女は上がらぬ肩を庇いながら、彼に笑いかけた。
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