複雑・ファジー小説

Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-3 更新】 ( No.30 )
日時: 2018/04/23 16:30
名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: AwQOoMhg)

第二限「ゆびきり」-4

-校舎一階・玄関前


 両軍の会議が始まる前にまで時間は遡る。
 事は済んだ。想定外の事が起きてはいたが……それでも、問題はないだろう。幾田はそう結論付けて、校舎を出た。

「(……西軍の人たちがもう迎えに来てたのか? まぁでも、うん……俺に埋められるよりかは全然ましだろうな)」

 結果だけを言えば、光原灯夜の死体はすでに消えていた。廊下には血だまりのみが残され、どこに引きずった跡もなかった。台車でも使ったのだろうか。
 死体を埋めることに感謝を示していたAIの話し方からするに、あちら側の仕業ではないだろう。
 では、無所属か、東軍か……死体を使った能力があるとは考えづらく、必要性も感じ取れない。
 ならば西軍しかない。一度撤退したかに見えた彼らが、幾田が大當寺の死体と穴掘りに掛かり切っている間に戻ってきたのだろう。そう推測するしかない。
 じゃあ、次は……そう思考に入った時だ。
 AIの言葉の最後──アドバイスとやらがリフレインする。

『お暇になったら一度、自室に戻るといいでしょう。意外な発見があると思いますよ』
「……」

 それに乗れば、AIの掌だというのは分かっている。しかし、しかし……気になってしまう。何がある、何を見つけさせる気なんだ。
 そして、それを無視した時……結果的に悪くなってしまうんじゃないだろうか。

 彼の死体を運ぶということが無くなった以上、もう血だらけの服でさまよう必要はなくなった。着替えに、体を洗うには最適なタイミングともいえる。
 見た目もともかく、血が固まって来たためか非常に動きづらくなってきていた。異臭もするだろう……誰かと協力をしないといけなくなった時、勘違いされる恐れもある。
  
 彼は、自分のコテージの方を向いて歩きだす。シャワーでも何でも浴びて、服を着替えたらさっさと戻って来る。
 例え、部屋に何が隠されていようがいまいが、関係ない。そう強く誓って。

 ……直ぐに、意外な発見とやらは見つかった。けれどそれが何を意味するのか、彼には全くと言っていいほどわからなかった。




 走り、走って戻ってくる。タンスから出した真新しいシャツの上に、前のとよく似たパーカーを羽織り、そこに立っていた。
 深呼吸を今一度、大きく息を腹に詰め込んで駄目な自分を吐き出す。
 精神,体力回復……再起動≪ハード・ワーカー≫の発動条件だ。

──それじゃあ今は空っぽだな

 不意に沸いた自責の言葉を鎮める為に、またも深呼吸を一つ。碌な減速もせず、急に立ち止まって吸ったことで腹部に痛みが走ったが……その程度はもはや彼を戒めるための要素でしかない。
 気分が高みに向かう傾向を感じ取る。だが同時に、その効力は真に誰が恩恵に預かるものだったのか……地の底に沈める力が働き、プラスに働いたかもわからない。
 どうせ、幾田は心に深い傷を負っているのだ。浅い部分だけでも変化がもうなくなれば上々
と言えた。

「……ふぅ」

 幾田卓は、今度こそ事を成さねばいけない。AIに言われたから、という訳ではないが……再起動を使いこなし、彼が望んだであろう生徒同士の争いを止める。
 その為にも、悲しき犠牲で生まれた二日の猶予で黒幕を探し当て、捕らえる。
 では、一体全体黒幕はどこに潜んでいる。自室で着替えをしている途中も考えたが、皆目見当がつかなかった。

「(この空間自体か能力の産物なら……そもそもいない可能性すらあるのか……!?)」

 幾田は能力に精通しているわけではない。AIの放送からいつの間にか管理者がどこかに居ると思い込んでいた節があったが、仮に思考の通りだとすればもはや抗う術はない。

「違う、違う……きっと、なにかある」

 それを否定し、幾田は首を振った。
 もしそうであれば、救いがない。大當寺の思いは、努力が無駄になる。あると信じて、走り回るしかない。
 まずは、この学園内で昨日と変化がある場所がないか、本当に全部探したのか怪しくないところも徹底的にチェックする。能力で出来た物ならば、どこに隠し扉の類が存在していても不思議ではない。

「そういやこれ……」

 幾田はポケットから一つ、銀色の鍵を取り出した。
 気が動転していて全く気が付かなかった、初日からテーブルの上に置かれていただろう封筒。それを漸く彼は見つけたのであった。
 間違いなく、校舎にあるロッカールームの鍵。それを使えば参加者の誰かの能力レポートが手に入り、もっと運が良ければ……東軍の様に重火器を手にすることも出来る。
 当然、彼もまたロッカールームに立ち寄りレポートを直ぐに手に入れる……訳にはいかない。

「どこに使えるんだ……」

 入学してからの日数は栂原といい勝負、部活に所属もしていない彼。それがロッカールームの鍵だとは少しも気が付いていない。
 ロッカールームは大當寺と一緒に探索こそしたが、当時はまだ誰も開けていない時である。
 開かない場所が数か所であれば怪しみ、無理にでもこじ開けたかもしれないが……全てに鍵がかかっていれば流石にどうにもならなかった。

「取り敢えず、片っ端から刺そう」

 そんな非効率かつ頭が悪い作戦が打ち立てられたが……これしかないと思ったのだから仕方がない。
 「もっとやっていれば」、そんな後悔を消しておきたい、幾田はそう思ったのだろうか。鍵をフードの横ポケットに仕舞いなおし、校舎に入っていった。

 また同じように、怪しい箇所が見つかった。昨日の探索との相違点が一階にあったというのもあるが……やはり視覚的違いだったのが大きいのだろう。
 図書室の本棚の欠け、そして──

「美術室の鍵が、無い?」

 鍵ケースに校舎内、あるいは野球場などの施設の鍵が掛けられているのに、どうしてかそれだけがない。いや正確に言えば昨日、大當寺が取り出して行ったのだろう屋上の鍵もないのだが。
 酷く、怪しい。
 昨日の探索の時点では美術室は開いていた。誰かが美術室に用事があって、持って行ったのか。だとしたら何のためにだ。
 今この校舎で一番に探索すべき場所が決まった瞬間だった。





 美術室は校舎の二階、階段を駆け上がれば迷う必要もない。昨日は簡単に開き、中には価値もよく分からない美術品や画材などが置いてあった。
 しかし案の定と言えるが、扉は閉まっていた。誰かが鍵をかけたようだ。
 何度かガチャガチャと揺らし、確かめるがビクともしない。中々に頑丈なようだ。

「……絶対、なんかありそうだなこれ」

 扉のガラス部分から覗いてみても、何も変わらない部屋が映るのみ。いや、もしかしたら物の配置が換わっているのかもしれないが……少なくとも今は分からない。
 流石にAIが潜んでいる、とは思わないが何かを隠していると疑うのは当然だろう。
 幾田達が衛生材料売り場から見つけた武器類を自室に持っていったように。しかしその前例を考えれば、増々これが自室ではない意味が分からない。
 彼は試しに銀の鍵を入れてみるが、勿論合うことはない。

 気になる、見過ごさない方がいい気がする。そう思った時、自然と左腕の痣から銀色のハサミが浮かび上がった。
 ── 一見、今は袖に張り付いているように見える。だが服を脱げば今度は自然に腕に張り付くのだから何とも不思議なものだ──。
 ともかく、ガラスを破るにはちょうどいいだろう。
 深呼吸を一つし、ゆっくりと左腕を肩の後ろにまで引く。一発では無理かもしれない、なら何度もぶつけるだけだ。その後はそこから腕を入れて鍵を開ける。

「……よしっ!」

 一定の行動を頭に思い浮かべれば準備は完了だ。
 踏ん張るために足に力を入れその一撃を──

「何をしてるんだい?」

 後ろから掛かる女性の声が止めた。


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