複雑・ファジー小説
- Re: 【コメ募】ありふれた異能学園戦争【第二限-5 更新】 ( No.32 )
- 日時: 2018/09/08 17:03
- 名前: 通俺 ◆QjgW92JNkA (ID: dDbzX.2k)
第二限「ゆびきり」-6
さて、どうしたものか。塚本ゆりは少し首を傾け思案する。
別に、人を取って食らうほどの策を生み出せるわけでもない。
事実、虚言癖≪ライアー≫なんて強力な能力を有していたにもかかわらず、彼女がしたことは逃走用の時間稼ぎ。そしてその後狙われることを防ぐための嘘一つだけ。
だがそれでも効果は絶大だったのか、その日の死者には東軍が入っていた。何故か教師も死んでいたが、まあ止めようして巻き込まれでもしたのだろう。そう結論付けて、彼を思うことを止める。
罪悪感はないのか、と言われたらゼロではない。
しかし、常人の感性と比べれば薄いものだ。何せ、原因ともとれる彼女が吐いた嘘は「西軍が東軍襲うと言っていた」のみ。東軍はその後碌に調査もせずぶつかった、もしくは嘘から出た実だったのかは不明だが……実際に手を下したのは彼らである。
──もっとも、彼女は実際に殺し合いを、あまつさえ死体すら見ていないからこそというのもあるが。
では塚本はどうするべきだったというのだろうか。殺し合いを提唱され揺れ幅が小さくとも混乱し、いつもするような行動で精神の安定を図った。そうしたら敵とされる東軍に出会ってしまった。無表情でいたが、誤魔化さなければとは考えていた。
そして、二つ目の嘘をつかなければ東軍、西軍…もしくは無所属さえもが無所属の人間を襲うという最悪の事態になっていた可能性も。
そう思いついたから出した、その場しのぎの生存策だ。長くはもたないだろうとは思った。
「……なんで?」
かなり離れた建物の影、そこに身を隠しじっと自分のコテージのほうを見る。東軍と思わしき数人が囲んで、何やら作業をしているのが見えた。流石に声は聞こえないが、十中八九よくないことだろうというのは彼女にもわかる。
西軍と話し合いでもして、そんな計画を立てていないことに気が付いたのかもしれない。それにしたって、塚本の「5人揃って対等」という発言は生きているはずなのに。頭上に疑問符が浮かぶ。
まさかたったの一日で襲撃しにくるとは思っていなかったのだ。
能力レポートなんて嘘つきを殺すためにあるかのような存在を、彼女は知らなかった。知っていればもう少し、恨みを買いにくい嘘でも選んでいただろうか。
「(塚本のこと、誰か知ってたのかな……)」
西軍につく、という行動はできない。東軍が塚本の嘘を看破した可能性がある限り、西軍に伝わっていると考えたほうが自然だった。
彼女が包囲されず、こうしていられていたのは上手な経路選択、そして運の良さからだろうか。
図書室から拝借した本だけでは生きてはいけないと気が付き、食料をとるため購買棟へ。
人に極力出会わないように道とタイミングを図り、見事に成し遂げて見せた。そうして手提げかばんいっぱいの食料を持って帰った所、怪しい集団が動いているのを一方的に見つけることができた。
少しでも違えば、彼らの手によって磔の刑にでもされていたかもしれない。
「……わ。そこまで、やる……?」
一人がドアの前に陣取ったかと思うと、直ぐ傍に黒色の何かが伸びて扉を切り始める。そこそこ頑丈だと思っていたそれが破られるのに、時間はそこまで要さなかった。
──塚本は知る由もないが、日が落ちておらず、更には伊与田の服によって覆われた影より出される未知数領域・反転旭暉。光原の命を奪った際のものと遜色はなかった──
二人、ゆっくりと部屋に踏み込んでいく後姿を見て、そろそろ動かないとまずい事に塚本は気が付く。扉が破壊されてしまったからにはもうあの部屋は使えないだろう。
幸いにして、二,三日は食いつなげる程度の食料があるし、まだまだ読みかけの本も手持ちにある。どこか、身を隠せる場所へ行くべきだ。
「(校舎……ダメ。購買棟、論外。体育館……ここにはない。グラウンド端の小屋……まだまし)」
思考がまとまり、グラウンドに向かうためコテージに背を向ける塚本。ベレー帽を深く被りなおし、その場を離れる。出来れば寝具のようなものがあるといい……そう思いながら。
「……」
彼女が動いてしばらくした後、外で待機していた深魅は覗いていた。
塚本が隠れていた建物の方を。じっと。
◇
どういった縁かは分からないが、ちょうどそこから反対側の建物に彼らは隠れていた。
西軍、播磨と三星だ。
塚本とは互いに死角になる位置におり、またコテージの方に注視していたため彼らが塚本に気づくことは終始なかった。
西軍は一人でも数が欲しかった。塚本は両軍がぶつかる一因だったが、そんなことは西軍は知らない。コンタクトさえ取れれば彼女は、西軍と手を組む確率が高かっただろう。
ただ、出会わなかった。それだけだ。
そんなifの事を知る由もない二人は、コテージに東軍が入っていく様を見ていた。
「……あれ、大丈夫なのかな」
「悲鳴の一つも聞こえてこないから、留守かもね」
「だったらまだマシなんだけどー……」
希望的観測を一つ、立ててみる剣士。それがいいと賛同しつつも、その裏で最悪を想定する少女。今目の前で、無所属が一人殺された、と。
もう少し近づけば分かるかもしれないが、今はこれ以上近づけないのがもどかしい。
仮に全員揃っているのだとしたら無所属とその場で協力、或いは乱戦に持ち込むなんて発想も出来たかもしれないが……生憎と今は二人しかいない。
「……先輩たち、遅いね」
「門前払いされてないってことだ。一番可能性低かったらしいけど、案外そうでもないのかな」
そう言って、一番端。方角的には東軍よりのコテージを見る。
無所属、鳥海天戯の部屋。
そこへ一人、羽馬は交渉すべく入っていったのだ。四人全員で行けば警戒される。ここは年上に任せてと彼女は栂原を連れて行ってしまった。
では自分たちは榊原さんたちの方へ、と行ったはいいがいくらノックをして呼びかけようと返事はなかった。留守だったのか、はたまた警戒されたのか。
停戦を呼び掛けていた平和主義、幾田卓は協力してくれる可能性が無いと判断、選択肢から外された。
鳥海勧誘の結果を聞いてから、再びこれからどうするか決める。
それを待っていれば、遠くの方から東軍がやってくるのが見えて、隠れた。そういう展開だった。
東軍が鳥海のコテージを襲う、ということではなく本当に良かったと三星は一息ついた。
「……ところでウミ先輩」
「なんだ?」
「気張りすぎだと思うんですけど」
ここに来て、三星は播磨の状態を指摘した。彼はずっと腰に下げた木刀に手を構えており、いつだれが来てもいいよう臨戦態勢、とでもいうべきか。尋ねれば返してくれるが、それ以外では警戒を怠っていなかった。
彼女は少し反応が欲しくいつもよりも更に砕けた言葉遣いもしてみたが、特に反応もない。
「いや、護衛の仕事を任されたからね……」
「まあー、守ってくれるのはうれしいんですけど」
気負いすぎではないか、そう暗に仄めかす三星の言葉を受けて播磨は少し喜んだ。そうか、今は気負っていると見えるほどに頑張れているか、と。
リラックスしているように見られるよりはよっぽどいい。
「能力的にも、こっちのほうがいいのさ」
「ウミ先輩の能力って、警戒しなくても対応できるってやつですよね?」
超反射≪リーフレクス≫、それが彼の能力。三星が最初の説明を聞いた限りでは、そこまで警戒をする必要がないと思えた。なにせ、漢字の通り反射神経を異常強化する力。更に言えばそれが常時発動だというのだから驚きである。
だが、播磨はその認識が好きではなかった。漸く顔を三星の方に向け、自嘲の笑みを浮かべる。
「……あくまで反射ってだけさ。考えて対応できるわけじゃない。例えば、銃弾なんか飛んできても知覚してから避けるまでの時間が足りない。反射してもそれに対して動く体が追い付かなきゃ意味がないんだ」
「あ、だから剣道やってたとか?」
「……いや、確かに向いてると思ったから始めたっていうのはあるけど」
深魅の拳銃ならば素早さが足りない。伊与田の様に手数で攻められれば体一つしかない播磨はその対応に追われる。
無意識に動く体にも限界がある。それ故に彼が能力を生かそうすれば、求められるのは染みついた技術、身体能力の向上だ。
しかし、それだけのために剣道を始めたのか、と言われれば違うと播磨は思っていた。何より、剣道が反射神経だけでやっていける競技でもない。
「上手くなった自分を誇る気持ちもあったけど、一番はやっぱり。
相手の動きを読んで、それが上手くいって……勝った時の達成感が好きだったからなのかな」
「あ、それなんとなくわかります」
同じくスポーツである、ハンドボール部の彼女はその気持ちを肯定した。能力に関連しているかどうかは重要ではない、それが楽しいかどうか。そういうことなのだろうか。
「逸れちゃったけど、超反射を生かすなら武器は常に手元に。
……特に、味方を守る時なんかは自分にも危害が及ぶような位置に居た方がいい」
反射的に動いた時、他人の方を優先して動くのはとても難しい。腰に武器があるということを忘れ、無手で動こうとする傾向がある。
ならば、警護対象の近くにいて、武器を構えているのが確実だ。そんな考えから導き出された行動であった。
「──信用ならないと思うけど……任されたからには今度こそちゃんと守るから」
「……」
光原の時の様な過ちは繰り返してはならない。彼は固く誓っていた。
言い切って、彼はまた顔の向きを戻す。相変わらず、木刀には手が添えられたままではあるが、そう言われては三星も止めるわけにはいかない。
少々、立ち直り方が歪つな気もしたが……これでいいのだろうと彼女は流すことにした。
本人がやる気を出してくれているのだから、それが一番いいのだ。
「……じゃあ、約束ですよウミ先輩! 今度戦う時があったら、もうノーガードってくらい突っ込んでいくから!」
「それは……なかなか難しそうだね」
播磨は、呆れながらも了承を返した。
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