複雑・ファジー小説
- Re: エデン ( No.1 )
- 日時: 2018/01/05 22:55
- 名前: 三森電池 ◆IvIoGk3xD6 (ID: Uj9lR0Ik)
Mysherryという五人組のアイドルがいる。
201X年、彼女達は彗星のごとく現れ、ほぼセルフプロデュースながらアンダーグラウンドを制圧し、地上波へと乗り出していった。その活躍はめざましく、TVを見れば可憐な女の子たちが笑顔を振りまいているアイドル戦国時代に、彼女達は頂点に立った。今や、Mysherryの名を知らぬ若者はいないだろう、と言ってもいいほどである。男性向けに商売を展開しているものの、メンバーのルックスや楽曲の共感性から、女性ファンも多く付いている。
私もそのうちの一人だ。Mysherryが地下で活動していた頃から、追いかけ続けてきた。Mysherryは五人とも魅力的で、私はいわゆる「箱推し」というものをしている。グループのリーダーで、ひたむきな頑張り屋の園宮アリサ、頭の回転が早くメンバー思いの天瀬乙葉、ルックスの良さで多少のわがままも武器にしてしまう星野純華、おっとりした上品な雰囲気を持つ守谷静穂、天真爛漫なムードメーカーの柳ひなせ、この五人全員が、お互いに尊敬しあって、ここまで歩んできたのがMysherryであり、そう考えると、私は一人に絞って応援することはできなかった。地下で見ていた頃からずっと五人は心から信頼しあっていたし、それはメジャーデビューしてからも絶対に変わらない。
その日私は仕事帰りに友達と会う約束をしていた。学生時代の友人で、もともと口数が少なく引っ込み思案な私に懲りずに付き合ってくれた恩人である。約束の時間まではまだ少しあったので、駅の改札を出て、近くのタワーレコードに寄った。目が痛くなりそうな黄色い看板の奥で、流行りの音楽が大々的に宣伝されていた。
その少し横に、MysherryのCDもあった。やっぱり今回も、センターは星野純華だ。ジャケットの真ん中で優しく微笑む彼女は、悔しいほど正統派の美少女で、アイドルというものの模範のようであった。飾られたポップには、「紅白出場濃厚! 新鋭アイドル」と書いてある。
足を止めて、流れる音楽に耳を傾けながら、私はそれを見ていた。
地下の安い劇場で、初めてMysherryを見た時、客は五人程度しかいなかったのに、よくここまで成長したな、と思う。それは嬉しいのか悲しいのか、今の私にはわからない。応援していた大好きな女の子たちが、華やかなステージへと上り詰めていくことは素直に喜ばしいことだし、もしもまったく売れなかったとしたら、今頃Mysherryは解散していたかもしれない。
だけど、なんとなく、「もう絶対に手の届くことのない女の子たち」になってしまったMysherryが、なんだか悔しいと思う。こんなんじゃファンとしてダメだな、と無理やり思い直す。そして歩き出す。コンサートだってあるし、TVでいつでも見れるんだから、Mysherryが遠くなった訳では無い。私は、ファンたちは、彼女達が笑顔で活動できていれば、それで幸せなのだ。
店を出て、そろそろ時間だろうか、友人を待たせてはいないだろうかと、鞄からスマホを取り出してホーム画面を開いた。友人から通知はきていなかったが、何やら適当に入れていたニュースアプリが、緊急速報を出している。地震でもあっただろうかとタップし、トピックを開く。
そこには、「人気アイドルMysherryのリーダー、自宅マンションで首吊り 自殺の可能性」と書いてあった。