複雑・ファジー小説
- Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下【完結】 ( No.409 )
- 日時: 2021/02/10 17:29
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r9bFnsPr)
〜あとがき〜④
†第五章†──淋漓たる終焉
第一話『前兆』
アーベリトに帰ってきたトワリス。様変わりした街並みに驚きつつも、リリアナやサミル、ロンダートなど、懐かしい面々に再会します。
そんな中で、初顔だったのがリオット族のハインツ。
筋骨隆々としたいかつい見た目に反し、気が弱い若干十四歳の少年です。
リオット族たちは、若い男衆を中心に都市部に進出してきていますが、彼らは基本ルーフェンを介して、商会に属し働いているので、アーベリトが主な勤務地ではありません(★詳細は上巻で!ラッセルさんやノイちゃんたち、女性やお年寄りは南方に残ってたりもします)。
ですがハインツくんは、ノーラデュースから助け出された時に、唯一「ルーフェンの元で働かせてほしい!」とお願いしてきた子でした。
とはいえ、当時はまだ8歳だったので、しばらくはラッセルさんたちと暮らしていたハインツくん。
それから6年経った今でも、ルーフェンの力になりたいという気持ちが変わらなかったため、アーベリトにやってきました。動機としては、トワリスと近いものがありますね。
リオット族の中でもずば抜けて力が強く、頑丈に成長したハインツくんは、能力的には魔導師としてルーフェンの下で働いても問題なさそうですが、なんせ引っ込み思案な性格なので、時には非情さも必要な仕事をこなせるとは思えません。正直、頭も回る方ではないです(笑)
ルーフェンは、自力で魔導師になったトワリスですら、「危ないからやめたほうがいいんじゃない?」って心配してたくらいなので、内心ハインツくんをアーベリトに引き入れることにも反対だったんじゃないかなぁと思います。
それでも、ルーフェンが彼を下に置いた理由は二つ。
一つは、ハインツくんが自分の強すぎる力を持て余していた故に、他に合いそうな居場所がなかったこと。
もう一つは、完全に裏設定なのですが、ハインツくんが亡きアレイドくん(ルーフェンの弟)に似ていたからでした。
アレイドはシェイルハート家の四男坊で、上巻の序盤ではルーフェンに付いて回ってた気弱な子ですね。
鬱陶しくて、当時のルーフェンは邪険に扱ってましたが、シルヴィアさんに兄弟たちが殺されてから、もうちょっと仲良くしておけば良かったと後悔しているような描写があります。
ルーフェンが意識してそうしたのかはわかりませんが、内気なところ、ついて回ってくるところが、なんとなく弟に似ていたので、ハインツくんのことを拒否することはできなかったんじゃないかと思います。
人混みを歩いているだけでビクビクするハインツくんですが、そんな彼に、トワリスの友人であるリリアナが惚れました(笑)
三章三話で、まだ孤児院で暮らしていた頃のトワリスとリリアナが、恋バナ?的なことをしているときに、リリアナは「早く運命の王子様に会いたい」的なことを言っています。
ハインツくんは、王子様っていうタイプでは全くないと思うんですが、普通より食べられるからなのか、あるいはギャップに萌えたのか、リリアナはフォーリンラブしたようです。
リリアナは夢見がち暴走特急列車なので、トワリスは
基本的に引いてますね。
この辺の話は、特に深い意味はないので、解説することは特にありません。
アーベリトの現状を紹介しながら、閑話休題のつもりで書きました!
シリアスばっかだと読み手も書き手も疲れますからね(笑)
長くなると思って根こそぎ削っちゃいましたが、トワリスがアーベリトに帰ってきてからの閑話休題パートは、本当はもっと色々書く予定でした。
リリアナのことだけじゃなくて、ハインツとトワリスの関係とか、ハインツとルーフェンの関係とか(気が向いたら外伝とかで書きたいですね)。
ハインツくんは、ルーフェンに恩があって、彼のために頑張ろうと決意してアーベリトまで来た点はトワリスと共通していますが、彼は彼で、また成長を遂げて別の道に行きます。
人の後ろに隠れて震えていたハインツくんの成長物語も、またアルファノル編あたりでちょびっと紹介したいなーと思います。
リリアナの弟のカイルくんは、終始ぶっきらぼうでした。
ミストリア編では、リリアナの身の安全のために、ユーリッドとファフリに「さっさと出て行け」ときつい言葉をかけてきます。
まあ彼はトワリスたちと違って一般ピーポーなので、今まで育ててきてくれたお姉さんを守るためにも、お人好しな振る舞いばかりしていられない、ということなんでしょう。
彼はすごくしっかり者なので、将来は沢山働いて高級取りになって、お姉さんに楽させてあげようとするんじゃないですかね。
リリアナが孤児院時代に、「カイルが結婚したら寂しい!」みたいなこと言ってますが、万が一リリアナのほうが先にゴールインしてしまうようなことがあれば、カイルくんのほうが寂しくて死ぬ気がします(笑)
リリアナさん、看板娘やってるくらいのでモテそうですし、そこそこ可愛い設定です(ただしハインツくんはリリアナのことが苦手です)。
最後は、張り切りまくったトワリスが、ルーフェンに仕事の報告をして終わります。
基本的にルーフェンは褒めてくれる(というか慇懃)ので、そのせいでトワリスは熱血仕事人間に出来上がってしまった気がしないでもないです(笑)
どうでもいいことですが、この時のトワリスは短髪です。
外伝にて、ルーフェンがトワリスに三つ編みを教えてあげる話を大昔に書いたんですが、似たような設定が本編にも適用されていて、トワリスが髪伸ばした理由はルーフェンにあります。
ここら辺になってようやく、ルーフェンが軽口言ってトワリスがキレる、みたいな、ミストリア編であった主人公コンビの温度差に近づいてきたので、作者的には「やっとここまで来た!」と感慨深かったです。
第二話『欺瞞』
配属先不明だったサイくんが、実はアーベリトにいたことが分かりました。
トワリスは、サイがサイコパスなんじゃないかと疑いつつも、以前のように仲良くやっていこうと思い直します。
この話から、いろんな勢力が本編に出てきますね。
読者さんもいよいよ混乱してきたんじゃないかと思いますので、ざっくり解説させて頂きます。
まず、大事件として、軍事都市セントランスが旧王都シュベルテを襲撃します。
ここで主だって動いていた勢力が以下です。
①旧体制の魔導師団と世俗騎士団
……シュベルテの主戦力、旧王家カーライル家に忠誠を誓う、サーフェリア一でっかい魔導師団と騎士団ですね(★シュベルテに従属する他の都市の治安維持も担当してます。魔導師があちこち派遣されてるのはそのため。ハーフェルンなんかもその一つですね)。
ジークハルトやトワリス、アレクシア、サイ、皆が所属しているところです。
一応総括者は召喚師ですが、ルーフェンは今アーベリトにいるので、召喚師をトップに象徴としたシュベルテ運営の武人集団っていう表現が正確かと思います。
最近、反召喚師派の教会側に寝返っていく魔導師や騎士が増えてきたのが悩みです。
どう対処しようかと考えていたところで、セントランスからの襲撃を受け大ダメージ。
壊滅寸前まで追い詰められ、ジークハルトはだいぶションボリ。
なんとか教会やセントランスに打ち勝って名誉回復したいところです。
①ー1 旧王家カーライル一族
……長年サーフェリアを総括してきた旧王家、現在はシュベルテを治める公爵家です。
現在生き残っているのは領主バジレット・カーライルとその孫シャルシスです。
上巻にて、シルヴィアさんに王位継承者を殺されまくり、このままじゃ国を統治できへん!ということでアーベリトに王権を一時預けました。
基本は魔導師団&世俗騎士団側ですが、バジレットさんは魔導師や騎士たちが政権を握ろうと動き始めることを危惧し、統治権を守ってます。
実際、王位継承者が死にまくった時に、騎士団がまだ赤ちゃんのシャルシスを即位させて、日本で言う摂政的ポジションにつこうとしてきました。
つまり、シュベルテ内では、カーライル旧王家vs騎士団&魔導師団の一部の過激派vsイシュカル教会、という三つ巴の争いが水面下で起きてるわけですね(笑)
②イシュカル教会および新興騎士団(修道騎士会)
……世界を四つに分断した女神イシュカルを崇める、反召喚師勢力です。
かつては急進派が暴れまくってたので、世間からは狂信者集団扱いされていましたが、ルーフェンがリオット族を王都に引き入れたり、アーベリトへの遷都を強行したりして、近年召喚師一族に対する不満が高まってきたので、信仰者数UP↑して勢力が伸びてきました。
大司祭を務めるモルティス・リラードは、イシュカル教徒であることを隠して、事務次官として王宮に潜り込んでましたね(実は上巻にも結構出てるよ!)。
ひっそり悪さしながら、ルーフェンが不在なのをいいことに、イシュカル教会によるシュベルテ乗っ取り大作戦を決行する機会を伺っていました。
そして、時は来たり。セントランスの襲撃により、騎士団と魔導師団が潰れた瞬間を見計らって、新しく発足させた修道騎士会の名を掲げ、戦災難民を救助しました(自分たちは戦ってないのがセコいところ)。
教会「ほら皆、美味しいご飯と温かい寝床を用意してあげよう。頑張ってる皆をイシュカル様は見捨てないZE☆」
人民「きゃー!イシュカル様ばんざーい!魔導師団と世俗騎士団まじ無能じゃん!」
ってな具合で民意を勝ち取り、旧王家率いる魔導師団と世俗騎士団を陥落させました。
③バスカ・アルヴァン率いる軍事都市セントランス
……サーフェリア編上巻にて、王位争奪戦でアーベリトに敗れた街ですね。
あれ以来、王位の譲渡と遷都を行ったカーライル家と召喚師一族、つまりは協定を結んだ三街(シュベルテ、アーベリト、ハーフェルン)をめちゃめちゃ恨んでました。
今まではハーフェルンやアーベリトに刺客送ってただけでしたが、満を持してシュベルテを攻撃!
「しかも俺たち、召喚術使えるようになっちゃったもんね!」と高らかに笑いながら宣戦布告しました。
さて、そんな殺伐としたシュベルテですが、とりあえずピンチ!ということで、アーベリトも早速救援活動に参加します。
怪我人を受け入れ、宣戦布告してきたセントランスをどげんかせんといかん、と動き出しました。
(★怪我人受け入れついでに、シルヴィアさんまでアーベリトに避難させました。この話はまた他のページで)
どげんかせんといかん、と言っても、シュベルテが落ちた今、セントランスに勝てるとは思えないし、国王のサミルさんは非戦論者なので、なるべく宣戦布告には応じない形で事態を収めたいと考えます。
そこで、ルーフェンがとったのは、セントランスのスパイ——サイ・ロザリエスを逆に利用する方法でした。
サイくん実は、シュベルテへの襲撃を手引きしたり、召喚術の行使方法を探るための、セントランスからのスパイだったんですね。
アーベリトが「戦うのはやめようよ!」と親書を出したところで、セントランスは聞いてくれません。
でも、サイからの連絡ならセントランスもちゃんと読むはず……ということで、ルーフェンは、サイに色々と情報を吹き込みます。
といっても、サイもめちゃくちゃ切れ者なので、ルーフェンの言うことは常に疑ってかかってました。
サイは、ルーフェンに、召喚術についての探りをいれては、その答えを更に自分でも調べあげ、その結果のみを信じていました。
この辺りは本編でも細かく書いてるので、読んで頂ければお分かり頂けるかと思うのですが、要はルーフェンは“見聞きしたもの全てを疑い、最終的に裏が取れた情報のみを信じる”サイのやり方を、逆手にとって利用しました。
つまり、今回の場合、単なる偽の魔語で記された呪詛を、召喚術だと偽り、サイの力でそれを調べあげるように仕向け、最終的にはサイ経由でセントランスが呪詛(偽の召喚術)を使うように誘導したんですね。
サミルさんからの「戦うのはやーめよ」っていう親書をすり替え、サイは、セントランスに「これが一般ピーポーでも召喚術を使える方法だよ!」と情報提供します。
セントランスはそれを信じ、術を行使しますが、それはルーフェンが使うよう仕向けた呪詛(魔語記載だから呪詛かどうかなんて見分けられない)なので、結果的にセントランスの魔導師たちが自滅します。
こうして、戦わずして、アーベリトはセントランスを陥落させたわけですね。
しかも、これにより親書をすり替えたことがバレたので、サイがスパイだったことも露見しました。
こういう切れ者同士の心理戦みたいなの、私は好きなんですが、分かりづらかったら申し訳ないです^^;
召喚術チャレンジに失敗し、スパイであることまでバレたサイ。
彼がサイコパスであると疑っていたトワリスは、「危ない考えは捨てて罪を償え」と、ある意味での救いの言葉を投げかけますが、サイは頷きません。
サイは、確かにサイコパス感ありますが、その実、魔術に興味があるわけでもない、抑圧されて育った現代っ子みたいなキャラでした。
魔術が好きだから、というわけではなく、たまたま得意だったから、自分を評価してもらうための手段として魔術を学んでたんですね。
サイは、養父であるバスカ・アルヴァンに否定されて育ったため、自己肯定感が低く、自分の意思を持たない、強い自己主張ができない人間に育ちました(バスカは、悪い人間ではありません。自分が脳筋スポ根の叩き上げ世代だったため、自分にも周りにも常に厳しかったんですね)。
そんな自分に疑問も持たず生きてきましたが、養父の命令で魔導師団に入ったサイは、夢を持って邁進していく周囲の若者たちを見て、衝撃を受けます。
言われた通りにしか生きてこなかったサイには、目標のために一心に頑張ってる人間が、ひどく眩しく映ったんじゃないかなぁと思います。
こういう人、現実にも結構いますよね。
進路決めるのに、将来の夢がある人は志望校に向かって頑張って勉強するけど、やりたいことがない人は、なかなか頑張れない……みたいな。
サイに関しては、スペックはめちゃめちゃ高いんですが、夢なんてものがなく、何かのために努力しようと思った経験がありませんでした。
だから、元が文字も読めなかったのに、アーベリトの役に立ちたい一心で魔導師に上り詰めたトワリスのことを見て、色々思うところがあったんじゃないかなと。
初めて会った時に、サイはトワリスに対し「ずっと努力家だなぁと思って見てた。トワリスさんと話したくて……」的なことを言っています。これはスパイとして近づいた意味もありましたが、案外本心だったのかもしれないですね。
また、皮肉なのが、サイは卒業試験の時に魔導人形ラフェリオンに出会っています。
ラフェリオン、ほぼ人間でしたよね。その生き方を見比べてみたときに、サイのほうがよっぽど操り人形のようで、ラフェリオンのほうが人間らしく思えます。
唯一得意な魔術ですら、召喚師のルーフェンには敵うはずがないし、セントランスを出たサイが見てきたものは、全てが劣等感を助長するものばかりでした。
しかし、最期の最期に、サイは今までの闇の系譜の根底を覆すほどの、ビッグイベントを起こして亡くなります。
なんと、召喚術を使っちゃうんですね!
召喚術については謎が多かったんですが、『召喚師一族にしか使えないもの』というのは、ミストリア編からの共通認識でした。
しかし、実はそう世間に思い込ませることで、召喚術という危険な魔術を使おうとする者が出ないよう、秘匿とされていただけだったんです。
召喚術を一般でも使えるという認識が広まったら、大変ですからね。色んな国が核爆弾もってます、みたいな事態に陥ります。
五章二話の段階では、サイが召喚術を使ったことで、ルーフェンだけがこの事実に気づきます。
本当は召喚術って誰でも使えちゃうんだ……ということは、絶対に隠さなければなりません。
かなり物語の確信に迫る話でした。