複雑・ファジー小説

Re: What A Traitor!【第1章ⅩⅨ更新】 ( No.21 )
日時: 2018/09/16 12:33
名前: 日向 (ID: T0oUPdRb)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=image&file=6184.jpg

ⅩⅨ

 あれから二日が経とうとしている。
 最後の追っ手は精密に処理した。顔面に膝を入れてやった男も処理した。
 追っ手三人の死体は人通りの少ないストリートを通り抜け、特に隠すようなこともせずにそのまま山に遺棄した。大人三人分の亡骸は腹を空かせた野犬が好きなように持って行っただろう。肉片はおろか骨も残ってはいないはずだ。
 ホセは相変わらずの曇天を見上げて一息吐く。今日は特別気温が高かった。
 呆気ないな、とは思った。
 不敗神話をも有する【アカプルコ・カルテル】の構成員と戦った実感は今になっても無い。ホセを殺せと命令された彼らが見せた焦燥。正直なところ、あのレベルの追っ手ならばこれから幾らでも撒くことが出来るだろう。
 彼は汗で額に張り付き、自身の目にかかる真紅を払った。
 このストリートではない何処かに行くのには理由が必要だろうか。深層意識に打った楔が自身をこの路地に留めているのだろうか。考えても考えても見えない解はひたすら自身の首を絞めていくだけで、決して真理には辿り着けない。
 ふと首に手をやると二連のネックレスが小さく音を立てた。まさか完全に自分の好みで選んだ筈なのに、とホセは自嘲気味に笑うしかない。黒色の【それ】はまるで二重の首輪のように感ぜられた。
 首から手を離し、目を閉じる。せめて今は何も見たくないと視覚情報をブラックアウトさせた。
 思い出せない確執と狂信が脳裡を過ぎる。学の無い脳味噌で幾ら哲学したって答えなんか一生出やしないだろうと奥歯を噛み締める。
 しかし刹那、硬質な違和感が彼を襲った。
 ホセは息を呑み、短い眉を顰める。
 彼は焦ること無く瞼で視界を覆ったまま砥いだ聴覚で音のみを捉えるよう試みる。コンクリートの路地壁は彼の聴覚を補助した。長年の路上生活により反響音を聞くことで何処に何があるか、又は物体の迫るスピードや音源の大きさを捉えられるようになっていた。
 硬い音が路地壁に打ち返る。薄汚れたストリートには決して耳馴染みの無い音。良く鳴る音だ。恐らく底の減っていない革靴だろう。靴裏が打ち下ろされるスピードは速く、音は長く重い。その正体は成人男性で確定する。
 状況把握の為に目を開けると、鬱陶しいほどに流れ出る汗が滲みた。恐ろしく暑い。際限なく溢れる汗でシャツが張り付いて気持ち悪い。空気は湿気って酸素が足りない。
 凝らした視線の向こう、くゆる陽炎の間を縫って件の人影が全貌を現す。
 逆光で顔は分からないがホセよりも二回り高い背丈。こんなにも暑い日だというのに着崩し一つないスーツ姿だった。
 アスファルトから立ち上る熱気に揺れる人型は端的に発した。

「ヨォ、チワワ犬」

 低い男の声。ほんの数個の単語で構成された文章だが耳につく訛りが確かにある。
 未だ正体が掴めない声の主だが、気怠げな間延び以外にもその息遣いには悠々とした余裕を感じられた。
 チワワ、メキシコ原産の世界最小の愛玩犬。その名で呼ばれたのかとホセは怒気を抑えようともせず牙を剥いた。

「あ……? んだよてめえ」

 熱風に溶ける人影はホセの目の前にて初めて鮮明になった。
 褐色人種。漆黒の巻き毛に一切の光を拒む三白眼、整えられた顎髭。そして左頬の袈裟懸け状の瘢痕が印象的だった。
 その殺気は巧妙に隠されている。悪意と殺意に囲まれて育ってきたホセでさえ男が眼前に現れるまで一切感じ取れなかった。それを知覚した瞬間に背筋が凍る。
 しかし決して隠しきれない刃物を思わせるような鋭利さをを纏っている。それは二日前の男たちとは全く別物、異次元を放っていた。
 須臾しゅゆに肌が粟立つ。
 危険予知、カラーはレッドサイン、エマージェンシー、全身の細胞が逃げろと五月蠅く警報を鳴らす。

「一週間経っても下のクソ三人が戻ってこないモンでヨォ。ケツまくって逃げたのかとも思ってたガ」

 男はホセの質問に答えようとはせず、気怠げに路地壁に囲まれたストリートを見回すだけだった。
 そして肩まである長い巻き毛を弄びながらホセに視線を滑らせる。
 底無しの闇を湛えた猛禽の瞳とタイムラグを伴う心臓を鷲掴みにされたような感覚が襲った。

「まさか。組織がマークするような売人がこンなこまっしゃくれたガキだったとはナ」

 男は不器用に左頬を吊り上げた。
 そして細い目が更に鋭角を強める。心臓を穿つような獣の眼光。
 人生史上類い希なる異常警報が脳内で唸りを上げる。しかし何て悲劇か、足が竦んで逃げられない。

「ま、ガキの始末すら出来ねえヤツらの運命なンざ決まってただろうがナァ……? ヤツラにとっちゃあ死に場所が違うだけダ」

 男は全てを言い終わる前に汗で張り付いた前髪を掻き上げ、襟首から黒い紐を引っ張りだした。
 紐の先端には彼の瞳にも似たどこまでも深い黒を閉じ込めた石が結われている。凝縮された闇の欠片には数本の白い縞が奔っていた。夜を湛えた縞瑪瑙とその波紋がホセの瞳に映り込む。
 男はそれを指先でもてあそぶようにしてホセに再度視線を滑らせた。
 広げられた襟首から鎖骨と逞しくもしなやかな筋肉が覗く。そして男の首元や胸には幾多もの裂創が奔っていた。そのどれもが鋭い刃物で深く刻み込まれたような傷で重なった古傷は隆起した瘢痕に変わり果てている。男に刻み込まれた裂創は潜り抜けた死線の数と数多の歴戦を物語っていた。
 男は縞瑪瑙の筋を指先でなぞり、にたりと笑う。

「ククク、別に報復じゃねえヨ」

 ホセは生唾を飲み込んだ。
 一刻も早くここから逃げなければ。虚仮の闘争本能ではなく生物としての生きとし生けるものとしての逃走本能が叫んだ。
 逃げ果せる勝算は存在した。正体不明の男が相手だろうが全てを知り尽くしたこのストリートならば上手く撒けるかもしれない。あの路地を通って、あの板を倒して、右に曲って、直進して、再度右に曲がって、最後の突き当たりを左に行って、そこで体勢を立て直す。
 瞬時に脳内で生存確率を高める確実なルートを作り出し、高速でシミュレートする。
 これで何とかいけるはずだと息を短く吐き出した。
 意を決し、ホセは半歩身を引く。
 音も立てず。動作を視認出来ないほどに。それでいて五指全てに力を蓄える。
 しかしその瞬間、男の不敵な笑みが消えた。男から目を離さず好機を伺っていたホセの顔からも血の気が引く。
 今の予備動作すらも見切られていたのか。馬鹿な。
 しかし今更戻れない。ホセは溜めた力を全解放し地を蹴った。早く早く速く早く。トップスビードに、海から吹き上げる風に乗ってくれ。研磨され鋸状になった奥歯を欠けるほど噛み締める。
 そして初速を抜け出し最高速に達した瞬間。
 肩を掴まれ、異常な膂力に引き戻された。
 状況を把握出来ないうちに飛び上がった身体は地面に引き摺り下ろされる。
 髪を掴まれ、熱されたアスファルトに顔面を擦り付けられた。そして肩を締め上げられ二度と飛ぶことが出来ないように捕縛される。頬を襲う摩擦熱と落とし込まれた絶望。関節を絞められ情けない悲鳴を上げるしかない。
 理解不能なほどの反射速度だった。

「痛ッ——!?」

 一層低い声が鼓膜に牙を突き立てた。

「うるせえ。報復じゃねえつってンだろ。無え頭働かせやがれカチート」

 どこまでも黒く深淵を湛えた瞳と視線が交錯する。
 相見える男の瞳の奥で垣間見えるのは絶望。ホセの縞瑪瑙は怯えでその波紋を曇らせた。

(こ、こいつ……)

 唯、速かった。
 ストリートで磨いてきた軽業と動体視力、その全てを持ってしても叶うことない圧倒的な力の差をまざまざと見せつけられた。
 しかし速いだけではない。トップスピードに乗ったホセの身体を一本の腕のみでその疾風から引き剥がし、地面に墜落させてみせた。
 現在も圧倒的な力に抑え付けられ、身動き一つ取れない。報復ではないと言っていたが下手に動こうとすると何をされるか分からない事もまた彼の恐怖を煽った。顕著な体格差と力の差。男にとってはホセの足の骨を折ることも容易いだろう。その気になればきっとホセの細い首など簡単に捻じ折られてしまう。
 徐々に締まっていく肩が肉ごと軋んで新たな激痛を生む。逃れられない絶望と精神肉体両方の疲労。気力も体力も尽きかけている。
 男はホセが抵抗しない様子を見ると満足げに鼻を鳴らし、彼の耳元で囁いた。

「ブエン=ニーニョ(いい子ダ)。よしよし、可愛い子犬ちゃんにオジサンが噛み砕いて教えてやるヨ。ま、今日来たのは他でも無え。平たく言えば人員補充に回されてるってトコかネェ……。最近はつまンねえ縄張り争いに駆り出されることも多くてナァ、一人死に、二人死にで【onyx】本来のオシゴトが回らねえンだ」

 ホセは息を呑んだ。
 この男いま【onyx】と言ったか。痛みと困惑の中でもそれだけは聞き漏らさなかった。
 ストリートに住まう人々の噂する【アカプルコ・カルテル】の擁する【特殊高火力殲滅部隊「onyx」】。その不敗神話が頭の中で何度も反響する。
 それが真実ならばこの先は地獄でしかない。ホセは祈るように男の二の句を待った。
 相変わらず巻き毛の男は絶妙に外れたスペイン語で言葉をゆっくりと紡ぐ。その不器用な片言が余計に不気味だった。

「下っ端とはいえオメエはその拳と粗悪銃で大の男三人をファックしたンだ。霞の花束を送ってやっても、賞賛してやってもイイ」

 文法のせいか発音のせいか自身の疲労のせいか男のジョークが一切分からない。
 訳の分からないうちに、ホセは掠れた無声音で男を遮ってしまった。
 正常な判断が下せず疲労した中枢でも思う。もしかしたら選択肢を誤ったかもしれない。しかし宙に投げられた言葉は麻薬とは違ってもう回収のしようがなかった。

「下っ端……てえと、オレが殺ったのはアンタの部下か……?」

 暫しのが二人のあいだに訪れる。割って入る数秒の静寂しじま
 しかし意外な事に殺されることも余計な痛みが襲うことも無かった。男はただ愉快そうに腹を震わせてホセに応えた。

「アァ? アイツらが【onyx】の訳がねえだろうがヨ。ククク……笑わせンな。あの部隊が出てきてみろ、一瞬も要らねえ。オメエのドタマの風通しは良くなるヨ」

 男はホセの汗ばんだ額を指先で軽く叩いた。
 筋張って無骨ながらも繊細さを持ち得る指先。今この男が銃を手にしたならば、自分の眼球を抉ろうとしたならば。
 ホセは男の指が描くその動線を睨み付けることしか出来なかった。

「要するに、ダ」

 不意に拘束が緩む。
 今日日きょうびの熱を孕んだ潮風が男の巻き毛を揺らした。傷の入った唇が不器用に言葉を紡ぐ。

「ホセ=マルチネス。【オレの部隊】に入レ」

 唇の左端、崩れた肉の継ぎ目が喜色を含んで痙攣するのを見る。
 ボキャブラリ、グラマーイディオムの何一つ成型されていない文章だがこの時ばかりは明確に捉えることが出来た。否、鷲掴みにされた心臓に直接言葉を擦り付けられたような、半強制を孕んだ知覚だった。
 神話と語られし部隊の長。南米をその手中に収めしキリングマシンを【オレの部隊】と豪語するその姿。風格、疾手、膂力と男の全てに合点がいった。
 ホセは諦観の色濃い縞瑪瑙で男の三白眼を力無く見上げる。

「ここで犬死にするカ、漆黒のオニキスになるコトを選ぶカ……。ヤクの横流しも【アカプルコ・カルテル】の構成員をバラしたのも小便みたく水に流してやるって言ってンだヨ。どうだ悪い取引じゃねえだろ……ン?」

 男の瞳に宿る小さな深淵が此方を覗いた。しかし伺うばかりではない、迫り、広がり、ホセの柔い顎門を今にも喰い千切らんとする。
 左頬の肉ごと抉られたような裂傷に目を奪われる。汗腺まで根刮ぎ奪われたであろう傷口はアスファルトからの照り返しで皮膚との境目を際立たせていた。
 しかし一弾指、アスファルトから乱雑に引き起こされ襟首を掴まれる。
 ホセの首に巻き付く二連の黒い環が小さく音を立て、螺旋状を成し彼の首に絡み付いた。

「チワワ犬。オマエがこの生ゴミ集積場に何を遺し、何に祈って生きてきたのかなンざ、オレぁ野郎の尻程にも興味は無え」

 遺贈と祈念。
 地の底から響くような声が呼び水となり、閉じ込めた記憶に波紋が生まれては消えていく。
 抑え付けてきた記憶の欠片は透明な泡沫のようで、しかし一度弾けると赤黒く血飛沫を上げた。

「この掃き溜めで腐っていきたいちっとばかしの特殊性癖は否定しねえがナ」

 笑みと再度の軽口。
 しかし男は掴んでいたシャツの襟を離すと、反動を利用すると共にいとも容易くホセの首根っこを掴んで地面に叩き付けた。
 玩具のように弄ばれる身体、そして遅れてやってくる物理的な痛みに奥歯を噛み締める。

「オジサンも暇じゃねーし、優しい方じゃねえからヨォ」

 紫煙に焼けたような声色へと変わる。
 抗うことすら思考の範疇にはもう無い。

「選べ。残機なンざ無え命の使い方を」

 緊迫、鼓動すら止めてしまいそうなほどの。
 男の灼けた声はホセの心臓に迫った。

「今からオマエは自由ダ。もう一度【アカプルコ・カルテル】に噛み付くナラ……懐に仕込んだいつ何時暴発するかも分からねえサタデーナイトスペシャルに手をかけナ。オレの手で地獄を見せてやる」

 緩い懐に仕込んだ銃すらもとっくに見抜かれていたのか。絞められた頸動脈に爪が食い込むのを意識の深い所で知覚する。

「だが全てを受け入れるナラ——」

 男はそう言うとホセの拘束を解いた。
 頸動脈の走る首から手を離し、締め上げていた肩関節も解放した。
 傷だらけの首元で黒瑪瑙オニキスが鈍く光りを放った。

「そのままオレに跪いてろ」

 長い巻き毛が熱風を纏い、ホセの視界を遮る。
 そして耳朶を噛み千切られそうなそうなほどの至近距離で囁かれた。

「今よりかは、ちったぁマシな地獄を歩かせてやる」

 もし何かの間違いで男が丸腰でこの路地に来ていたならば。もし男が完全に油断しきっていて一瞬の隙を見出せたなら。もし銃に弾を込めていなかったなら。
 
 しかしそれは甘い愚問に過ぎなかった。

 今日まで幾つもの甘い幻想に縋って生きてきたのだろうか。
 そんなものが今更通用しないことなどお前が一番知っているだろうホセ=マルチネス。
 悔恨と狂気に汗が止まらない。
 ホセは刃毀れしそうなほどに上下の犬歯を衝突させた。最大の圧力が掛かった奥歯が根幹から軋む。噛み裂いた口内で鉄錆の味が広がった。
 そして、ホセは両手をアスファルトにつき、両膝を地面に付け、動かなかった。
 矜持と誇りを犠牲に穢れた生命を首の皮一枚で繋ぐか、紛れもない死の恐怖に目眩を起こしたか。それとも男の言う依り代の無い【マシな地獄】に目が眩んだか。
 しかし頭は上げたまま、ホセは新たにげ変わった神に充血しきった目を見開いた。
 波紋をぎらつかせた凶刃と形容されるに値する縞瑪瑙と男の深淵がぶつかる。

「——はッ! ……いいねェいいねェ。オメエよォ、なんつー目してやがンだ」

 男は肩を震わせながらスーツの胸ポケットから煙草を取り出した。
 そして濡れた赤い舌で唇を舐め、ゆっくりと犬歯で吸い口を迎える。

「嫌いじゃねぇヨ」

 男はそう言って口角を吊り上げると、急に踵を返し、背中越しに未だ犬のように四つん這いのままのホセに語りかけた。

「オレの名前はディンゴだ。子犬ちゃん、勿論付いてくンだろ? 」

 疑問符を前にようやくホセは地に手をついて立ち上がった。路地の泥で汚れた手でシャツの埃を払った為、ゼブラ柄のシャツは薄く煤を被ってしまった。
 返答を待たずに歩みを進める男。しかしもう数歩行くと肩越しにホセを振り返った。
 野犬にも似た鋭くもとっぷりと夜闇を湛えたその瞳。動かないホセを無感情に射貫いた。
 だが彼は立ち止まったままで、先を行く男の三白眼を睨み付けるのみだった。そして生唾を飲み込んでから、細く長く息を吐く。

「ああ、もうオレは逃げも隠れもしねえ……でもな、てめえの言うこんな掃き溜めであと一つやることがある」
「——ン?」



「こんなに?」
「ああ。いらねーんだ、もう」

 今日は約束の日だった。ホセに麻薬類を託した少年は約束通りこの路地裏にやって来た。
 ホセの応に少年は不思議そうな表情を浮かべ、首を傾げる。
 見誤ってどん底まで堕ちるか、逆境の中手にした好機で上がるか。金を渡した後に果たしてこの少年がどうするかは最早認知の外だった。
 今までの事といい無責任だろうか、否、それはもはや存ぜぬところでしかない。 

「それと、オレもうここには来ないから」
「え。ね、それってどういう——」

 ホセは少年を遮り、一言だけ送った。

「仲間、大事にしろよ」

 そしてホセは少年に背を向け、歩き出す。
 もうここには戻らない、と楔を打つ。
 不可解な程に何の感慨も情さえも湧かなかった。実感を取り戻そうと軽く拳を握るが、リングのかち合う音が路地壁に反射して鼓膜に届くだけだった。
 重い蓋をした記憶に今度こそ錠が掛かってしまったのだろうか。
 通りを抜けると髭面の男、ディンゴが腕を組んで壁に凭れていた。

「ククク……酔狂なこったヨ」
「うるせえ」
 
 ホセは縞瑪瑙にも似た瞳でディンゴを一瞥すると、生まれ育ったストリートを背に歩き出した。

ⅩⅨ