複雑・ファジー小説

Re: 守護神アクセス ( No.36 )
日時: 2018/04/12 00:41
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: hgzyUMgo)

「こんなになってても、まだ俺に出るなってのかよ!」
「当たり前や。先に知君は送り出したしそれでええやろ」
「間に合うかよ!」

 彼らの応援に駆け付けるため、知君は数分前にここを出た。現地に着くまでは車でも後数十分かかるだろう。それだけの間、彼らが持ち堪えられるとは到底思えなかった。

「俺ならすぐだ! 早く行かせてくれ!」

 知君が出ていく前から、出動しようとする奏白と、それを拒む琴割との間で言い争いが繰り広げられていた。あくまでも、琴割としてはここで奏白を失う訳にはいかない。敵があまりにも強大である以上、最悪替えのきく第4班の幾人かを見殺しにして、奏白を温存するべきだと踏んだのだ。
 しかし当然、奏白がそれに納得できる由も無い。これだけ、大画面のモニターで、音声もそのまま伝えられて、じっとなどしていられなかった。同じ警察、捜査官、対策課の面々が、ただ生傷を増やしているだけの様子に、自分の心まで抉られた気分になる。
 はやる心を押さえつけながら、またモニターの方へ視線を戻す。かかしに殴り飛ばされる太陽の姿が見えた。吹き飛び、苦しそうにむせる。ずっと敬意を以て接している先輩が、ただ痛めつけられているのを見て、またすぐにでも飛び出してしまいそうになる。
 だがその意志は、琴割によって強制的に拒絶され続けていた。彼の守護神ジャンヌダルクの能力は、自分にとって気に入らない全ての事物を否定できる。死も、老いすらも拒絶する。その能力を利用して、奏白がすぐにでも飛び出そうとする意志を拒絶し、その場に縫い付ける。しかし彼本人の性格に依るところから、またすぐにでも駆け出していきそうになる。
 ほんまに、生粋の正義漢やなあと、琴割は彼のことが羨ましくなった。困っている人を見つけたら頭より先に体が動くタイプ。青臭くて見てられへん。そう思う。けれども、そんな正義の心が欲しくて欲しくてたまらない。自分が大昔に失ってしまった大切なものを、この男は未だに持っている。

「俺はまだ、あっこにいる先輩たちに、いろんなこと教わった恩義を返せてねえんだよ! 行かせてくれよ……こんなところで、死なせてたまるか!」

 それに、ドロシーだって可哀想だ。あの子自身は悪人でもない者を殺すだなんてきっとしたくないだろうに。アリスの憔悴し、今にも泣きだしてしまいそうな表情を思い出す。被害者となる人間もそうだが、加害者となってしまった守護神だって悲しんでる。一生消えない深い心の傷を、背負わなきゃいけない大きな十字架を、彼女らに負わせたくなどない。

「知らんわ。信じて待っとりゃええじゃろうが」
「信じるとかそんなレベルの話かよ! 俺たち何人失ってんだよ……。これ以上奪われていいものがあってたまるもんかよ」

 信じたい、彼らならば大丈夫だと。しかし、奏白は子供ではない。現実を知っている。あそこにいる者たちでは、おそらくドロシーには敵わない。一人一人の実力があまり変わらない前提であれば、多人数同士の争いは数が多い方が有利だろう。しかし、個々の実力に差があればあるほど、誰かを思いやる気持ちが強ければ強いほど、その優しさが足枷になる。かばい合う、なんて言葉を使いながらお互いに足を引っ張り合う。このままだと、いつかあっさり全滅してしまうことだろう。
 画面の向こうでケタケタとかかし達が笑っている。嗤っているというべきだろうか。その顔は、例の赤い瘴気に取り込まれて、歪んでいた。お前たちは馬鹿なのかと、臆病者なのかと、何も感じてないロボットなのかと、彼らは揃ってあの場に居る第4班の捜査官たちを罵倒した。
 ふざけるな。近くの扉をおもいきり殴りつけた。開けたいのに、開けられない。振り返ってその扉に向き合いたいのに、足はピクリとも動かなかった。これが琴割 月光の、ELEVENの力。
 行かなきゃダメだ。我慢はもう、限界をとっくに超えていた。決定打は当然、彼らを罵倒したかかしの、ライオンの、木こりの言葉だった。
 全身が熱かった。馬鹿にされたのは自分ではないのに、涙さえ流れてしまいそうだった。だが、辛いのは俺では無いと必死にその涙だけは堪える。震えた拳、握りしめたその指先が、掌を貫いてしまいそうだった。それでもなお溢れそうになる力に、肘から先がわなわなと震える。
 普段はへらへら笑って、端正に見せられるよう表情すら管理しようとしている彼も、そんな事忘れてしまっていた。奥歯を強く噛み締め、歯茎が剥き出そうなほどにその激情を磨り潰そうとギリギリ呻らせる。しかし、それでも全くこの焼けた鉄のような強い想いは、落ち着きそうにも無かった。

「もっかい言うぞ、今はあかん、奏白。『いつか』そのイップスが治ったら、その怒り発散してこい」
「…………………………いつか、か」

 諭すような琴割の言葉、それを受けた奏白との間に、とても長い沈黙が訪れた。静まり返ったその時間に、琴割の主張と、己の激情とをもう一度奏白は見直した。組織のトップとして、彼が下した結論は十分に理解できた。
 それだけ期待されているということが誇らしくて仕方ない。イップスが治るまで待っていてくれると言うのもきっと、優しさに近いところからきているのだろう。
 それなのに奏白には、知君と二人で食事をとった時から燻っていた、『いつか』の三文字が突き刺さった。
 いつか、って。
 言ってしまえばもう、来ないような気がしてならないから、怖いんだよな。

「なあ、教えてくれよ」

 そのいつか、ってのはいつ来てくれるんだよ。奏白はそう尋ねた。小さく、静かな声だったけれども、大声で出させろと主張するだけのさっきまでの声よりも、ずっと力強い。

「西暦何年の、何月何日何曜日の、何時何分何十何秒だ?」

 その声に、どうしてだか警視総監のその男は気おされた。百有余年生きてきたというのに、二十七歳の若造に、どうして反論できないのか、琴割には不思議でならなかった。それは彼の中にもまだ、青臭い正義感が根付いていた故、同じ青さの奏白を止めたくないと願ってしまったということを、彼すらまだ知らない。

「答えらんねえだろ。多分知君にも分かんねえよ。だってな、その『いつか』ってのは来ねえんだよ、絶対にな」

 いいや、違う。すぐさま首を横に振って、言ったばかりの言葉を自ら奏白は否定した。その『いつか』の答えを、俺はもう知っているぞと彼は言う。琴割には分からなかった。長い事人の世を見てきたが、この議題だけはどうしても、まだまだ若くて乳飲み子と変わりないように見える奏白の方が、よほどよく理解しているような気がした。
 反論もせず、茶々も入れず、その言葉を止めようともせず。彼の答えを聞き届けようと耳を貸す。

「その『いつか』っていうのは今なんだよ。今この瞬間を試されてんだよ。今できないことが、近い未来になんてできる訳ないんだ」

 今ここで、例えば王子 太陽を亡くしてしまったらどうする? 行けなかった無力を恥じるか? いつか必ず敵を討つか? それで俺は本当に満足できるのか?

「そうだよ! 俺は『今この瞬間に』行けるか行けないか試されてんだよ! 今日この瞬間行けないから、明日出向きゃそれでいいって、満足できる訳がねえんだよ! 今日の代わりなんてどこにもねえんだよ、だから行くんだ、だから立ち向かうんだ!」
「せやけどなお前、イップスどないするつもりなんや」

 戦闘の最中、突如眠気が押し寄せるあの症状。確かに、もう数回あれには苦しめられてきた。だがしかしそのイップスは、体が原因なのではない。弱い心が、あの時の自分を恥じるように、何度も何度も苦い経験をリフレインしているだけだ。乗り越えようと思えれば、きっと越えられる。しかし、そう思わなければ絶対に越えられない。
 いつかだなんて言い訳してたら、一生引きずったままなんだよ。
 知君の言葉が蘇った。
 いつまでも、格好いい奏白さんで居て下さいね。
 そうだ、だから俺はその期待に応えるんだ。誰より優しくて誰より強い、ちっちゃい体に責任って重たいもん乗っけて、俺よりずっと笑っているあの男の期待と羨望に応えるために。
 だからこそ奏白は、吠えた。静かに説き伏せるその力強い声のまま、腹の底から魂を震わせるような雄たけびを。部屋どころか、そのフロア、建物全体に響き渡りそうな声で、奏白の覚悟を込めた叫びが響き渡った。

「イップス一つ乗り越えられず、いつかなんて言い訳してる奴はなぁ……カッケー手前ぇになんて、一生かかっても絶対になれやしないんだよ!」

 目の前の男が、拒絶の能力を持っていようが、誰より強い守護神、ELEVENの力を持っていようが、関係ない。

「俺の進むこの道は、琴割 月光! あんたにだって拒ませやしねえよ!」

 誰もが恐れるような、人類最強と言って間違いないその一角、琴割。その男に対し、こうも真っすぐに思いをぶつけて反抗する男が今まで現れただろうか。強いてあげるとするならば、付き合いの長い知君だろうが、彼と奏白では事情が異なる。上司でもあり、歯向かうことはどう転んでも自分にはよくない方面に傾くと言うだろうに。それでも、彼は立ち向かった。
 現実的に考えると、奏白が琴割の能力に逆らって出動するなど不可能である。しかし、彼の言葉は、その人類最強の男、彼の胸中に響いた。男の中にわずかに残されていた、人間臭い部分が、大きな若い火によって、再び灯りを点す。とっくに捨て去ったと思っていた正義、それがまたしても己の中で、大切なものとして鎮座していることを琴割は実感した。
 こいつはほんまに生意気やなぁと、悪態を吐きながらも彼のその覚悟を認める。今の彼ならば、イップスなど簡単に乗り越えてしまえそうに思えた。だからこそ彼は、奏白の行く道を阻んでいた、ジャンヌダルクの能力を解除した。確かに儂には、お前の歩みを妨げられへん。そんな言葉はどことなく悔しくて、声に出さずにしまっておいた。
 そして奏白は、胸ポケットから端末を取り出した。守護神アクセスに必要な媒体、phone。それがこんなに軽く感じるのは、今日が初めてのように思えた。

「じゃあ行こうぜ、音より速くぶっちぎって。誰より早く駆け付けてやる。とっとと来いよ、アマデウス!」

Re: 守護神アクセス ( No.37 )
日時: 2018/09/11 12:22
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: EnyMsQhk)

 もう、何分抵抗を続けただろうか。戦力差に絶望し、覇気も無く逃げ惑うようにドロシーと戦いながら、太陽はそんな事を考えた。幸いにも、こちらに死者は出ていない。ただ不幸にも、敵方には戦闘不能者どころか、負傷者すら出せていなかった。多少疲れが見えるとはいえ、傷などほとんど負っていないドロシーの三人の仲間が自分たち五人と対等以上に渡り合っていた。
 親父がいねえととっくの昔に終わってただろうな。既に三度ほどウンディーネの能力に助けられている彼は、そんな事を思った。自分が守護神アクセスを継続できる時間も、もうそろそろ限界が近づいてきている。
 何とかして相手の動きを鈍らせようと、ドロシー達の立つ領域に過重力空間を発生させる。ガス欠気味で、彼らに降りかかるその圧は、初めよりもずっと弱くなっている。今よりずっと強力な重力をかけていた、戦闘開始時でさえ自在に動いていた三人の護衛達が、その程度で屈することは無い。少々動きが鈍くなれども、それ以上に疲弊した自分の体が重い。
 これが最後だと、自分の中の気力のようなもの全てを振り絞る。狙いを定めた、狭範囲の過重力空間、そこには今まで奴らに浴びせてきたものよりも、ずっと強い重圧が、ほんの数秒だけ降りかかった。
 この隙に決めてくれと、大げさな身振りで周囲の班員たちに太陽は伝える。声を出すだけの空気が勿体なかった。その意図を汲んでか、すぐさま全員が総攻撃に移る。父の能力による、全てを飲み込む濁流に、他班員による攻撃が乗る。守護神ジュゼッペによる電撃と、アムンセンの能力により生成された氷の刃が乗る。
 これで決めきる、そのつもりで放った攻撃。かかし達は指一本動くことすらままならない様子であった。この全霊の総攻撃に踏み入るのが、あと一歩早ければ結果はどう変わっていただろうか。あと少し、彼らの眼前にまで、体を引き裂く透明な刃と、身を焦がすほどの電流を乗せた洪水の大反乱が全て呑み込もうとしたその時、太陽の守護神アクセスが切断された。活動の許容限界を超えたのが原因とみて間違いない。
 彼らを押しつぶす勢いでその身体に降り注いでいた、過剰な重力は途端に消えた。普段通りの質量へと戻り、体が自在に動くようになる。能力発動を示していた、地面を塗りつぶす黒も消えて、灰色のアスファルトに戻っていた。
 調子が元通りになった途端に、彼らはすぐさま動いた。かかしはその身体を目いっぱい振り絞り、両手を振るって水流を弾き飛ばした。木こりはと言うと巨大な斧の一振りで薙ぎ払い、吹き飛ばす。ライオンも腹の底から振り絞るような怒号一つの勢いで、迫りくる水流を消し飛ばした。まるで奏白だな、満身創痍の太陽が笑う。
 すぐさま、彼らは一斉に太陽の元へと跳びかかった。それも当然かと、スローモーションみたいに流れるその光景に、彼も納得する。体は、ピクリとも動かない。能力も使えなくなった俺をまず始末するのは容易く、今後障壁となることも無くなるからな。
 もっと強く、なりたかったなあ。そう嘆いた彼はと言うと、音より速く駆け付けた影に、すぐに気が付くことはできなかった。
 地平線の彼方まで響き渡りそうな爆音が轟く。振り下ろされた獅子の爪が、ブリキの男の斧が、かかしの鞭のような鈍い殴打が、己を襲ったのだろうと、そう思った。それなのに痛みは無い。これが死というものだろうか。
 だがしかし、それは間違いだとすぐに悟った。急に、壁に阻まれたようにしてこちらに迫っていたはずの三つの影は、後方へとはじけ飛んだ。悲鳴のようなものを短く上げて、地面に打ち付けられた後、すぐさま体勢を立て直す。

「てめえら好き放題言ってくれやがって」

 現れたその男に、太陽は目を丸くした。救援など来ないと思い込んでいたせいでもある。

「奏白?」
「王子先輩、大丈夫っすか?」

 声をかける奏白の声はひどく落ち着いていた。最近あまり調子がよくないと噂で聞いたが、本当に大丈夫なのだろうかと疑問に思う。

「後は任せて下さい、俺がやるんで」

 第4班の五人全員を制して、前に出る。まだ四人残っているとはいえ、疲弊している彼らでは庇うべき者として足手まといになってしまう。それを直接言わない辺り、奏白らしいと言えるだろう。
 天才だっていうのに、それを開けっぴろげにして人を蔑まない。たまに自慢げにしているが、それは道化じみている時だけだ。

「俺はお前らの言葉を聞いてここまですっ飛んで来たんだよ。耳かっぽじってよく聞きやがれ」

 ドロシーを指さして、奏白は鋭く糾弾するように言い放つ。その声は珍しく、怒りに揺れていた。いつだってその激情は露わにせずに、自分が馬鹿にされようと後ろ指さされようと笑みを絶やさぬその男の昂る姿に、太陽は感慨を覚えた。

「まずはてめえだよ、かかし野郎」

 向き直り、さっきまでドロシーに指していた指をそのかかしの方へと向けた。かかしはというと、動かない表情で、何を考えているかも理解させてはくれなかったが、奏白の言葉に耳を傾けているようだった。

「先輩たちは馬鹿じゃねえ。てめえと一緒で脳みそがある。物事考えることぐらいできんだよ。ただ、逃げらんねえ理由があっただけだ」

 淡々と告げ、次なる獅子へと視線を移す。奏白を遠くから威嚇して、その爪と牙とを研いでいる。確実に、仕留められるようにと。

「先輩たちは無謀でもねえ。臆病者なんかでも断じてねえ。逃げらんねえから、立ち向かうって決めたんだ。どんだけお前らが強くても、後ろにいる奴護るって決めたんだよ。そのために戦ったんだ。誰より勇気に悩んだお前が、他人の決意を馬鹿にすんじゃねえよ」

 段々と語調が荒くなる。彼らの発した、侮蔑の言葉が許せない。最後の一人、ブリキでできた体を軋ませて、木こりは再び斧を手にした。

「最後にてめえだ、ブリキ男。俺たちが何も感じてない? ふざけんな」

 自分より強大な何かに立ち向かうなんて、怖いに決まっているだろう、誰かを失えば悲しいに決まっているだろう。誇りを冒とくされて悔しいに決まっているし、悲しいに決まっている。憎らしくて怒りをまき散らしたくてたまらなくなる。
 それでも、そんな感情全部押し殺して、脅威に向き合うと決めたのだ。

「俺たちはな、護りたいって心が何より熱くここで滾ってんだよ! そのためなら何だって乗り越えられるんだよ、怖くても、苦しくてもな。自分の頭振り絞って、考え抜いて決めたんだ、勇気出して自分の逃げ出したい気持ちを乗り越えたんだよ」

 胸元を親指で示し、炎はここにあると奏白は言う。目も眩むほどに眩しい、誰かを救いたい、助けたいと願う優しい心。
 そして再び、奏白は思い返した。ガラス張りの部屋の中で、かつてしてしまった行いを悔いる、一人の少女の姿を。目の前のドロシー達を、決して同じ目に合わせてなるものかと決める。敵であろうと助けてやる。
 なぜならきっと、彼女らの本心は助けを求めているだろうから。

「さっさとこんな茶番終わらしてやるよ! 全員まとめてかかって来やがれ」

 挑発。理性を失っているフェアリーテイル達は、その挑発に容易く乗った。目の色が変わり、先ほどまで相手をしていた第4班の面々などもう、歯牙にもかけていないようである。その視線は真っすぐに奏白に向けられている。

「おい、ほんとに一人で大丈夫なのか?」

 洋介が、奏白が一人で逸ってはいやしないかと気にかける。だが、その心配は無いと、その目を見て、声を聞いて、太陽は悟っていた。昔からそうだった、どことなく、肝が据わったように落ち着いて話している時の奏白は……どれだけ高い壁だって越えてきた。
 だからきっと、今回も。
 問題ないっすと、奏白は振り返り、太陽の父洋介に告げた。もう充分ここまで時間を稼いだだけで、第4班の五人が限界に達しているのは奏白が一目見ただけでも明らかだった。事実、太陽はもうアクセスが終了してしまっている。
 おそらく他の面々も、まだ辛うじて持ち堪えているだけで同じような状況であろう。それぐらいは知君でなくても分かる。彼らの心音や呼吸音を見るに体はとっくに限界だろう。
 だから今度は俺の番だ。首だけ後ろに向けた奏白は、その場にいる者を安心させるために、屈託無く相好を崩した。ウインクを一つするその姿は、まるでどこかのアイドルのように思えた。流石、この男は絵になるなと、気が抜けたような溜め息を太陽は一つして。
 後は全部、俺に任せて下さいと奏白は引き受ける。やはりこの男には爽やかな笑みが似合う。その笑顔にどれほど多くの者が、安堵を覚えることだろうか。

「何たって俺は、『天才』、奏白 音也っすから」