複雑・ファジー小説

Re: AnotherBarcode アナザーバーコード ( No.31 )
日時: 2020/12/07 17:05
名前: ヨモツカミ (ID: 6fVwNjiI)

【コラボ】 No.03 枯れたつぎばはそれからだ


ジン「はい、本編が殺伐としててしんどいってことで、If時空の空気感で和んでほしいってことで。今回は作者であるヨモツカミの別作品の宣伝も兼ねて、主人公ズコラボ企画をやることにしたよ。つぎばの代表はもちろん、主人公たる僕。作品としても一番長いし、金賞2回取ってる作品の主人公ってことで、まあ? 他の作品の主人公よりも年季が違うってことだよね。
……あ、今回、ツッコミ入れてくれるヒトもいないんだよね……。もうさっさとゲスト呼んじゃおうか。
『まあ座れ話はそれからだ』より、主人公の唐洲世津那からすせつなさんと、『枯れたカフカを見ろ』より、ロベリアを呼んでいるよ。じゃ、ゲストの2人、部屋に入ってきて」

 こんにちは、と軽く会釈をしながら入ってくるのは、黒く艷やかなロングヘアをふわりと揺らす、やたらと顔の整った女の子。まあ座れは埼玉県にある川越市の高校が舞台の作品なので、ワイシャツと赤いネクタイ、黒のカーディガンに赤チェックのスカート、と、よくある制服姿だ。
 それからもう1人、硬い表情をして入ってきたのは、赤い髪と紫の大きな瞳の……少女だろうか。真っ赤なセーラーワンピ、とか呼ばれる服をまとってるから女の子なのだと思ったが、何故か断言できない、気がする。枯れカフの舞台はややファンタジーな寄宿学校的な施設、ということなので、一応あれも制服姿なのだろうけど、黒髪の彼女のものと比べると可愛らしすぎるような。
 何よりもジンが気になることとしては、2人して非常に顔立ちが整っていることだ。あれ、僕だけ目つきが悪いクソガキ、みたいな容姿設定してて、顔立ちは平凡かそれ以下だし、イラスト描くときは目つき悪すぎて可愛くないからアイプチして目元盛ってから描かれてるし。

 そう、気づいてしまった。ジンは他作品主人公に、顔で負けているのだと。

 どうぞ座って下さい、と自然に2人に声をかけたが、内心苛立ちと嫌悪感しかない。
 なんで僕だけ平凡顔なんだ? 黒髪の女の方は薄く微笑んで座っているだけなのに絵になる。すごく可愛い高校生って感じだ。
 赤毛の方は少し緊張しているのか表情は硬いし……よく見たら目元に隈があって、顔色悪いのに美人だってわかる顔をしている。何こいつら? まつ毛僕の3倍くらい長くない? 肌も白いし、美白じゃん。
 そうだ。二人とも制服姿、ということは、僕のように毎日誰かを殺さなきゃとか、殺される心配とか、そういうものと無縁の生活をしてきたに違いない。
 多分、こいつら僕ほど苦労してない。だから肌もツヤツヤ、髪もツヤツヤ、まつげバサバサ、服もオシャレ、キャラデザも顔も良い。ふざけんなし。僕の初登場時なんて、血塗れだぞ。このやろう。

ジン「……ようこそ」
世津那「はじめまして。今回は楽しそうな企画に呼んで下さってありがとうございます。私はまあ座れ話はそれからだ、長いのでまあ座れって呼んでますけど。その作品の主人公をさせてもらってる唐洲世津那です」

 完璧な笑顔で微笑む世津那。この容姿の良さで、礼儀までバッチリだ。完璧美少女かよ、このやろう。

ロベリア「えと、私は枯れたカフカを見ろ、これも長いから枯れカフと呼ぶけれど。本当に最近連載し始めたばかりで、レス数も少ないから、私がここにいていいのか心配なんだが……枯れカフの主人公、ロベリア……です。よろしく」

 キャリアの差で引け目を感じているから控えめな態度を取っているのだろう。ロベリア、こいつもまず座っている姿勢がめっちゃきれいだし、顔がいいから何をしても許される感じだ。このやろう……。

世津那「ジンくん、でしたよね。なんだかさっきからイライラしているように見えますけど、私何か失礼なことしちゃいましたか?」
ジン「あー。したかしてないかで言えばしてないし、作者の責任だから、君は悪くないよ。ほら、早く作品の紹介でもすれば?」
ロベリア「いや、司会進行役がその態度なのはどうなんだ……? 何に苛立ってるのか知らないけど、そんなふうに接されると、私達も少しやり辛いんだが」
ジン「はぁ? 新参者が調子乗らないでくれる?」
世津那「ジンくん。新参とか、キャラデザの気合の入り方の違いとか、作者からの扱いとか、そういうの気にするのはやめましょう? 私はジンくんやロベリアちゃんと楽しくお喋りがしたいです」
ジン「なっ……」

 確かに僕の態度は最悪かもしれない。でも、どうしてもこの扱いの差には、作者の悪意すら感じる。それが悔しくて苛立っていたのだが、世津那にはそれをサラリと言い当てられた。
 この女、顔と性格がいい上に、察しがいいのか。まじで何なの。なんかもっとムカついてきた。

ジン「僕だって最初は普通にお話する気だったさ。でも、2人とも制服なんて着ちゃって、髪も肌もツヤツヤで、僕みたいに命を狙われるとか、狙うとか……そういうのとは無縁なんだろなって思うと、なんか……。どうせ君たちはヒトを殺したことすらない平和で安全な環境でのうのうと暮らしてるんでしょう? いいね、そういうの。僕も憧れるよ。川越とか江戸の町並みが残ってる風情のある観光名所なんだってね。そこ行ってみたいし、僕もカッコイイオシャレ制服とか、着てみたかった……。友達とお昼ご飯食べたり、授業中にうたた寝して先生に怒られたり。……してみたかった」
ロベリア「ジン……」

 なんだか、段々つぎばの世界観で主人公やってる自分が惨めに思えてきてしまった。どうして僕ばかり、そんな苦労をしなければならないのか。今だって本編で身近な知り合いが命を落としたばかりだし。2人に打ち明ける気はないけれど、僕だけ100年も生きているし。もうおじいちゃんだし。老人に主人公やらせるとか、作者正気か? 僕だって、ヒト殺してばっかいないで、学生になりたい。
 しょぼくれる僕を見て、ロベリアがそっと手を伸ばしてくる。顔を上げると、柔らかい手が僕の頭を撫でていた。

ロベリア「作品の世界観の違いとかは仕方ないだろう? 私はジンが普段どんな環境にいるかは知らないから、寄り添ってあげるとか、同情とか上手くできないけど……そうだな、制服なら貸してあげられ、」
ジン「いや、君の借りてもただの女装ショタが完成するだけだから!」
世津那「似合うと思うますよ。なんなら私の制服も貸します」
ジン「どう足掻いても女装ショタだ! ……でも、なんか、その、泣き言言ってごめん。連載開始から4年も経ってるのに、今更何喚いてんだって感じだよね」
ロベリア「急に嫌になることもあるんじゃないか? 辛いことがあったら、私はいつでも相談に乗るから」
ジン「ロベリア……(泣)」
世津那「ロベリアちゃんは優しすぎるんじゃないですかね。まるで自分だけ苦労してる、みたいな言い方して、私達の作品のことよく知りもしないで勝手なことを言ってきたジンくんのことについて、怒ってもいい立場ですよ?」

 そう言った世津那の目は酷く冷ややかで、陶器の人形に嵌め込まれた硝子玉のように無機質だった。

ロベリア「え? いや……実際、私も主人公だから大変な思いは多少しているけど、かと言って生死に関わるような問題ではないから……」
世津那「生きるとか死ぬとか。殺すとか殺されるとか。当然そういう状況に身を置き続けるジンくんは大変でしょうけど、ロベリアちゃんだって、“カフカさん”のことや性別、家庭内環境で辛い思いをしているじゃないですか。無性別なのに、女として生きることを強いられてきて、そのあとご両親とは、」
ロベリア「待って……なんでそんなに知ってるんだ? 私はまだ自分の作品の紹介してないのに。ああ、もしかして、読者??」
世津那「そんなわけないじゃないですか。あなたがたの目に映るとおりの私は“ワタシ”ですよ。何の変哲もない、見た目がいいだけの高校生の女の子です」

 世津那は口元を歪ませる。それすらもとても美しい整った笑顔に見える。のに、何かがおかしい。一瞬、世津那の瞳が赤く煌めいたように見えたが、キャラデザと作中の描写は別物。まあ座れの世界観は現代日本なので、そんなカラフルな目の登場人物なんて、いないはずなのに。

ジン「世津那──君は……いったい?」
世津那「ふふ。じゃあ少しだけまあ座れの作品紹介をさせて頂きましょうか。
ここに来たのですから、主人公は勿論私です。でも、私の視点でストーリーが語られることは一切ありません。私以外の四人が、私を語ってくれるんです。あるときは女の子が好きな女の子に興味を持たれてしまう、学年の誰もが憧れる、“完璧な女子高生”。あるときはちょっとヤンデレ気味な幼馴染に執着されてしまう、優しい女の子“せっちゃん”。またあるときは引きこもりニート男に命を狙われる──“化物”」

 化物、と聞いて少しだけピンとくる。唐洲世津那。この女は、ただの普通の女子高生ではない。

世津那「これ以上言わなくても、ジンくんならなんとなく私とワタシの境遇を理解してくれたんじゃないですか? これで理解できないなら、あなたの百年とその命はファッションなのかなあ、って思っちゃいます」
ロベリア「? ひゃくねん?」
ジン「…………」

 僕はまだ、自分の年齢を明かしていないのに。最初から全て知っていたのか。彼女の薄い笑顔の下に潜む、何かの片鱗が。見えるようで、見えない。
 その薄気味悪さ。ずっと彼女を見ているうちに、大きな違和感を抱く。気持ちが悪いのに、惹き付けられるような、どうしてか目が離せなくなる。

ジン「君のことが、もっとよくわからなくなったよ」
世津那「ふふ。それでいいですよ。あなたは私のこと、ただの恋愛小説か何かの主人公だとでも思っているみたいでしたので。……ただの恋愛小説なら、良かったんですけどね」
ロベリア「世津那さんは恋でもしたいの?」
世津那「そうですね。普通の女の子みたいに、普通に誰かを好きになって、普通に振られたり、普通に悲しんだり、それを普通に慰めてくれる友達がいたり。そういうのなら、よかったなあ」

 ほんの一瞬。不気味でもなんでもない、年頃の危うくて脆い、そんな16歳の少女が見えたような気がした。でもそれは目の錯覚レベルのもので、彼女はまた、完璧な薄い笑顔に覆い隠されてしまう。

世津那「そもそもですよ、私達の作者には人が死なないお話を書くことはできないんですよ。ほら、私の世界では私は命を狙われていますし、ロベリアちゃんの世界はこれから明かされていくことが多いですけど、作者の傾向からして誰か死ぬような気がします。ジンくんの世界は言わずもがな、殺し、殺されの世界ですからね。私達はあの作者のもとに生まれた時点で、常に命の危険に晒され続けるんですよ」
ジン「作者クソでは?」
世津那「あと、ジンくんは私達が学生だから命を狙うとか狙われるとかと無縁の世界で生きて、楽しくのうのうと日々を消化していると思っているみたいでしたね? 確かに私達は謎フラペチーノ啜ったり、変なテーマパークでねずみ耳のカチューシャつけて、絶叫マシン乗り回してますよ。でも、それが本当に楽しいことかと言われたら、そんなこともないんです」
ロベリア「ああ、なんとなくわかるよ。楽しいことをしているはずなのに、何故か楽しくない感じ」

 友達と遊園地に行くとか、カロリーが高いだけの甘ったるい変なドリンクを飲むこと。それをSNSに載せたり、友達と共有したり。僕からしたら、それはとても幸せなことのように感じるのだが、世津那もロベリアも、苦笑いしている。

ロベリア「何をするかじゃないんだ。誰と一緒にいるか。それが何よりも大切なことなんだ。一緒にいたい心地よい友達と過ごせる時間なら、どんなことをするのだって幸せに感じるんだよ」
世津那「逆に、別に一緒にいたって楽しくない方とテーマパーク行ったって、心から楽しめませんよねえ」
ジン「……そういうものなの?」

 大切なヒトと過ごす時間なら、どんなことも幸せに感じる。そう言われて頭に浮かぶ何人かのバーコードのことを考えて、すぐに苦しくなる。幸せだった。楽しかった。でも、それは長くは続かない。この手で、殺すしかなかった。それはきっと、これからも。

世津那「ジンくんの世界は広すぎて、私達には理解しきれません。私やロベリアちゃんは井の中の蛙なんです。でも、蛙にとっては井の中が世界ですから。世界を守るためなら、何でもしちゃうんですよ。法律だの、世間体だの、そんなものも気にしていられないほど、追い込まれてしまうんですよ。世界を守るため、刃物を手にすることさえ迷わないんです。迷えないんです。生きるために、守るために」

 僕は目を剥くばかりだ。ただの学生だと思っていた彼女もロベリアも、強い光の灯った目をしている。
 僕だけじゃなく、2人も確かに主人公なのだ。世界観がどう、なんて言って舐めていたかもしれない。見た目がどうとか扱いがどうとか、関係ない。同じ主人公として生まれたなら、苦しいことも幸せなこともやらなければならないことも、等しく重たい使命だ。

ジン「世津那、ロベリア。ごめん。僕は、SFダークファンタジーの長編作品主人公だからって調子に乗っていたかもしれない……」
世津那「そのようでしたけど。わかってくださったなら何よりですよ」
ロベリア「ジンに悪気があったわけじゃないのは私達もわかってるから、そんなに気にするなよ」

 顔も性格もいいなんて、本当に最高の主人公達だ。なのに僕は、自分ばかり辛いと思いこんで、最低なやつだ。本当に。

世津那「ああでも、私やロベリアちゃんはジンくんの境遇に比べたらやっぱりマシです。ジンくんの世界はかなり厳しいものでしょうね。だから、ジンくんが私達学生にヤキモチを焼くのも当然のことだと言えるでしょう。きれいな服がきられて、おいしいごはんが食べられて、友達と授業を受けて、将来に夢も希望もあるんですから。ジンくんは辛い中でよく頑張ってますよ」

ジン「世津那もロベリアも、僕のことはもういいから。作者は主人公なんて作品を読者にわかりやすく伝えるための案内人みたいなもの、って考え方で、主人公より他の登場人物ばかり魅力的に書いてしまうヒトだから、辛い役目を渡されつつも作中一愛される存在にはなれないっていう、ひたすらにしんどいものなんだよね……うちの一番人気は多分クラウスかトゥールだし。最近マリアナとかメルフラルって意見も聞くけど、僕の名前は上がらないからね」
世津那「確かに、一番作中で頑張ってるのは主人公なのに、一番人気とは行きませんよねえ。うちもちるちゃん……木村散帝亜きむらちるてぃあがダントツで人気です。ツインテールの女はモテるんですかね……」
ロベリア「こっちはまだ始まったばかりだしキャラデザくらいしか見るものないけど、カフカはかなり人気だな。やっぱり私のカフカは見た目も麗しいから」

 自分の事のように喜ぶロベリア。今こいつ、私のカフカという言い方をした。まだ謎の多い作品だが、タイトルにも組み込まれているカフカという存在とロベリア。何か一言では語れない関係が結ばれているのかもしれない。

ジン「……さて。文字数も結構ちょうどいいし、ここで一旦休憩を挟んで、別のお話をしようか」
世津那「いいですね。休憩後の話題ですが、作中の裏話なんてどうですか?」
ロベリア「あまり作品の話をしたらネタバレになるしな。特に関係のない部分についてダラダラ語っていくのもありだと思う」
ジン「おっけい。じゃあ、次回の『枯れたつぎばはそれからだ』は、各作品の裏話コーナーということで。次もよろしくお願いします!」


***
というわけで複雑ファジーで連載中の別作品の宣伝を兼ねたコラボ企画でした。興味があったら是非読んでください。完成度の度合いではつぎば<まあ座れ<枯れカフ、といった感じなので、つぎば以外の2つのほうが自信作です。