複雑・ファジー小説

Re: 【短編集】蓼食う虫は好き好きで ( No.3 )
日時: 2018/02/23 01:34
名前: 彼岸花 (ID: hgzyUMgo)

【問答】


「爺さんが死んだ、遺産相続についての話し合いをしようと思う」
「ちょっとお兄さん、まだお葬式も終わっていないのにお金の話なんて……」
「あらあら、じゃあ和子義姉さんは要らない、ということでいいのかしら」
「そ、そんなこと言ってないじゃない!」
「ふふふ、現金ですね」
「あなたが吹っ掛けたんでしょ! 私を意地汚い人間のように言わないでくれる?」
「ちょいとお前さん達や、仏さんの前でそんな話……」
「婆さんは黙ってろ。ようやく親父が死んでその土地やら金やらが俺たちのもんになるんだ。何、婆さんの分もちゃんと残すから安心しろ」

「私は、私が最も多くの遺産を相続する権利があると思うわ」
「あら和子義姉さん面白い話ね、それはどうして」
「だって私が一番、お父さんの介護をちゃんとやってたわ。30の頃からずっと、ずっとよ。寝たきりになってからは下の世話だって食事の補助だって、全部やってたわ」
「それは……」
「ほら、言い返せないでしょう。ですから、遺産の六割は私が」
「いや、それは違う」
「何が違うって言うのよ兄さん」
「お前はずっと介護に勤しんだんじゃなくてそれしかやることが無かっただけだろう。30の頃からずっとと言っているが、それはお前があの男に逃げられたからだろ。いい年して結婚詐欺なんかに引っかかって、会社も辞めて。お前が払えなかった借金は結局爺さんや婆さんが返したんじゃないか」
「でも、仕方が」
「その後就職しようともせずに、のうのうと実家に居座り続けたのは誰だ。それを誤魔化すために介護という道を選んだだけじゃないのか」
「か、介護だって大変だったのよ!」
「それは分かる。だが、自分が負った借金を親に返済しようともせずに、のうのうと引きこもり続けた事実は変わらんぞ」
「ぐうっ……」

「それなら言わせていただきますが、私達が最も多くのお金をいただけると思います」
「ろくに帰省もせず、連絡も寄越さないような奴らが何を」
「聞けば宗助実家から援助らしい援助をしていただいておりません。大学に行くのも、アルバイトで貯めたお金と奨学金だけでやりくりし、就職してからそれも全て自力で返済いたしました」
「むっ、それは……」
「ええ、先ほど言っていた、和子義姉さんの一件が原因です」
「だが、それだけでは理由に……」
「その頃義兄さんは何をしたのですか。和子義姉さんにも援助をせず、あくせく毎日をやりくりする宗助さんにも仕送りの一つも寄越さず。聞けばその時期豪遊するばかりでその様子を宗助さんにわざわざ伝え聞かせる始末。何度宗助さんがあなたに援助を頼もうとして、言葉にせず諦めた日が幾度あったとお思いですか」
「ぬぅ……」
「待って、花」
「いえ、このお二人にはこんな時ぐらい言っておかないと」
「いいんだよ、もう」
「けど宗助さん」
「確かに母さんも、優斗兄さんも和子姉さんも何もしてくれなかった。けど今、ちゃんと僕は生活できている。君だってお金が欲しいというより、僕の代わりに二人に怒ってくれてるだけだろう? 僕はただ、父親に線香をあげにきただけだ」
「でも」
「いいね?」
「……分かったわ」

「それじゃ、長男の俺が一番多くもらうことでいいか」
「それはないですよ優斗兄さん」
「兄さん、ふざけないで」
「厚かましいにも程があるでしょう、義兄さん」
「一番脛かじり続けたあんたが何言うとるんじゃ、ろくに孝行もせんと貯金も貯めとらんドラ息子が」

「それにお前さんらが何と言おうがどうするかはもう決めとる」
「えっ」
「そうなの、お母さん?」
「ああ、どうせこんなことになるじゃろうとは思っとった。宗助が要らん言うたのが以外じゃったが」
「まあ、意外かもね」
「どうせお前らもこんな金なんぞ無くても生きてけるじゃろうと、爺さんは予め遺産のほとんどを慈善事業に寄付しとる」
「なっ、ふざけんなよあのくそじじぃ!」
「性根がくそなのはあんたじゃろが。そういう訳じゃ、帰った帰った」
「くそっ、くそっ、ならせめて土地だけでも……」
「爺さんの遺言で土地は儂が半分、残りをお前らで三等分じゃ」
「そんな……俺の、俺の借金は……」

 自業自得じゃ。膝をつき放心した長男を無感情に眺め、婆さんは淡々とそう言ったとさ。




〆あとがき

練習です(またしても)
今回は、セリフだけでどんな風に書けるのかの挑戦。
ストーリーには目をつぶり、各台詞の発言者が誰であるのか、スムーズに分かればいいなと思いました。
ついでに登場人物同士の関係性、家系図的なものも最終的に分かるようになっております。
一人称、そして二人称だけでも台詞の主が誰なのか示唆することは可能なのです。
以上。