複雑・ファジー小説

Re: リワールド・ストレス ( No.1 )
日時: 2018/03/02 21:30
名前: ネオン (ID: KE0ZVzN7)

◆オンリースタート◆


想像してみてほしい。
今貴方の目の前には、非現実だと嘆きたくなる何かで溢れている。

爬虫類の様な鱗で体を覆った、火を吐く巨大な竜。
まるでSF映画を観ている気分になれる、空を舞う円盤。
腐り果てた皮膚を引きずりながら地を這う、大量のゾンビ。
神々しい光と共に純白の翼を揺らす、美しい天使。

四方八方、どこを見渡してもそこには何かがいる。
ありえないと決め付け、想像上だけの概念に抑えつけていた事象達が。
人間如きの空想に留まるつもりはないと、そんな嘲笑の意も込めて尚。
あくまでも世界を壊す為に非現実を現実にしてみせ、戦い続けている。
くだらない妄想を押し付けられ怒りを抱いているのか、それとも有り余る力を放出しなければ我慢出来ないのか。はたまた、突然見知らぬ世界に迷い込み困惑しているのか。
思いは違えど、行動は一貫している。
簡単な事だ。生きる為には、それ以外を壊せばいい。それだけの事だ。

核戦争など鼻で笑われる勢いの戦闘という名の破壊は、突如として始まり恒久に続いている。
何の力も持たない人間は、醜く生き足掻いているのだろう。
ただただ怯え、殻に閉じこもる人間も現れるだろう。
哀れにも気を狂わせ、狂気に犯される者もいるだろう。
欲のままに動き、食い寝て時には人を襲い快楽に浸る者も絶対に存在する。

絶望的状況に追い込まれた時の人の行動は、いとも容易く想像できる。
それは人が、数だけに特化した本来は『無能』な生物であるからだ。
資源が溢れる地球に誕生しなければ、一瞬で滅んだ筈。
今もどこかで争い続け、自らの首を絞め続ける愚かな生物。
より良い方向へと足を進め、世界を置き去りにしていくその姿は、滑稽極まりない。
そんな人間の前に人間より優れた生物が現れれば、人類の絶滅は確定した未来となる。

「その通りだ。人間はとても愚かで醜い」

──ああ、そうか。そうだよな、実際そうだからな。

「争い続け、資源を無駄にし、数だけ増えていく人間など地球上からいなくなってしまえばいい」

──ごもっともな意見だ。人間がいなくなったら地球はさぞかし素晴らしい星になるんだろうな。

「だから、我々人間はこのまま素直に滅ぼされるべきだ」

──歯向かうだけ労力の無駄だもんな、それが正論だ。なんて正しくて都合性のある発言なんだろう。


「クソすぎて、反吐が出るわ。お前らそれでも人間か?」

地球上にいなかった生物達は、それぞれの思いを胸に生き残る為力を振るう。
地球上を支配していた人類は、急変した世界に飲み込まれそうになっている。
そんな世界でただ一人、青年は不敵に笑みを浮かべている。
壊す事しかできない力だけの無能を嘲笑い。
考える事を放棄した無能中の無能も嘲笑う。

「人間は愚かで醜い?人間は滅ぶべきだ?そんな正論で人間を語るんじゃねぇ。人間を一言で言い表そうなんざ、一生無理なんだよ」

そう。愚かで醜いと言っておきながらも、結局美しさを装って生き続けている様に。
そう。人間は滅ぶべきだと分かっていながらも、何度も過ちを繰り返し続ける様に。
矛盾だらけの人間を省略するには、矛盾だらけの人間では無理な話なのだ。

「突然核兵器並みの力持ったバケモン共が戦い始めました。だからもう生きる事を諦めます?アホか。地震やら噴火やら竜巻やらにも負けを認めなかった図々しい奴らが、何簡単に諦めてんだよ?」

目の前で物理法則を無視した力を連発する怪物達と、気象災害が別なわけが無い。
大地を揺らし世界を壊す地震、超高熱のマグマや超高速の岩で人を襲う噴火。
余裕で大陸を破壊する竜巻、いずれも地球を破壊している。
そんな災害を前にしても屈しなかった人間が。
ちょっと手強くなっただけで、どうして諦める事が許されるのか。
生き延びる為に温暖化まで発生させた愚かな人類に、諦めるという選択肢は残されていない。

「愚かなら愚かなまま生きろよ。醜いなら醜態さらせよ。分かってんならそれなりに生きていけよ。そうやって今まで何億年も俺達は生きてきたんじゃねーか。それと何も変わらない。地球に依存してみっともなく生きていく、それが俺達人間だ」

何故二十も満たない青年が、ここまでして人類を語るのか。
それは彼という存在事態が、人類の中でも際立って異質だからである。
誰も真似できない、誰にも真似させない、彼だけの生き方。

「それに気付けないんだったら、俺が気付かせてやる。俺だけにしかできないやり方で、目を覚まさせてやる」

壊れた世界の真ん中で。
今まで『人』を作り出し人類の愚かさを訴えていた神を前にして。
信じられない程軽い口調で、とりあえず青年は目標を口にした。

「そんなわけで、いっちょ世界征服してみますか♪」

たった一つの生き方。
『セカイ』のオンリースタート。