複雑・ファジー小説

Re: 二人を分かつその時に ( No.4 )
日時: 2018/04/07 22:34
名前: 凛太 (ID: aruie.9C)

 目眩がするほどの朱色の空に、気が狂いそうになる。無人の遊園地は永遠と続いているように思われた。機械的に明滅するネオン達を横目に、私たちはひたすら進む。
 早瀬さんは、何者なのだろう。私を知ってる人。けれど初めて会った人。考えていたって、どうしようもない。少なくとも、早瀬さんは私を助けてくれたのだ。今は、それでいいじゃないか。頼る他術はないのだ。

「足、疲れてないか」
「……大丈夫です」
「そうか」

 そして、また沈黙が続く。時折こうして気にかけてくれるのは、彼なりの優しさなのだろう。不器用だ。けれど、不思議と心地いい。

 気がつけば私達は大きなテントの前に辿り着いた。赤と白の縦縞模様で彩られており、サーカス小屋のような外観だった。あんぐりと開かれた出入り口から、黒々とした闇が広がっていた。
 早瀬さんが中に入れと顎で促す。しかし少し前の影を思い出して、足が竦んでしまった。

「怖いんか」

 早瀬さんが私を一瞥する。どうしようもないやつだ、と言われてる気がした。

「……ごめんなさい」
「謝ることないやろ、ほら」

 無骨な掌が、真っ直ぐと差し出される。

「手、これで怖くないやろ」
「え、でも」
「阿保。こういう時は素直に握っとけばええねん」

 たじたじになる私に痺れを切らしたのか、強引に私の手を掴む。そして肩で風を切るようにして、ぐんと前へ踏み出した。思わず目を瞑ってしまう。
 次に瞼を開けた時、広がっていた光景に呆気をとられた。だって、屋外なのだ。テントの中に入ったはずだ。けれど、目の前にあるのは。

「……学校だ」

 鮮烈な朱を背景にして、校舎が聳え立っていた。それは、よく見知ったものだった。私の通っている高校だからだ。けれど、今の時間ならまだ部活に励んでいる生徒がいるはずだ。だというのに校庭には誰もいない。
 ここにして、ようやく突きつけられた。やはり、別の世界なのだ。アリスが白ウサギを追いかけて不思議な国に誘われたように。いや、そんな可愛いものじゃない。ここは、もっと奇妙で不気味な世界だ。

「中入るぞ」

 唯一の救いは、動じない早瀬さんだった。早足で校庭を渡り、強引に昇降口の扉を開ける。校舎の中は灯りがつあておらず、窓から差し込む夕日に染められていた。下駄箱や傘置き場の位置まで、何もかもに見覚えがある。
 早瀬さんは無言のまま、土足で校舎に上がりこんだ。私は一瞬躊躇ったが、彼に倣った。どうせ、注意する先生もいないのだ。

「わけわからんこと続きで疲れたろ、少し休もう」

 彼は手近な教室に入ると、適当な椅子に腰を下ろした。私も慌てて隣の席につく。

「安心せえや。あいつらはここまでは来んから」

 ようやく、張り詰めた糸が緩んだ気がした。怖かった。だって、何もわからないから。また、あの真っ黒い影に襲われるんじゃないか。そればっかり考えていて。どうしようもなく、夕日が、この世界が嫌いだ。