複雑・ファジー小説

Re: 世界は残酷で優しい ( No.16 )
日時: 2018/04/09 17:13
名前: アイカ・マーブル ◆85qvGhCCNc (ID: 9yNBfouf)

 彼等を見送る時、私は己の無力さを痛感する。

 私は軍医である。負傷した彼等を治療するのが仕事である。そこに、私事を入れてはいけない。私は医者であると同時に軍人であるからだ。

 ただ淡々と彼等を治療していく。しかし、時に考えてはいけない問いかけをしてしまう。

 治したところで、また死地へと向かわせてよいのかと。一度、生き残れたとはいえ、次も生き残れるとは限らない。

 ありがとう。そう礼を言われても、次に会えるとは限らない。

 私は——我々は軍人である。上の命令は絶対である。

 上が死ねと言えば、喜んで死ななければならない。

 果たして、それで良いのかと。いや、良いのだと言い聞かせ働く。また死地へ旅立つと分かっていても、私を含めた軍医は治療しないという選択肢は存在しない。ただ、死ぬな死ぬなと呼び掛け治療を行うのだ。




◆◇◆◇◆◇




 この世は理不尽出てきている。

 あの戦いで、生存者はいなかった。いや、間に合わなかったのだ。

 彼等は、何かに怯えていた。

 はたして、何に……?













     ————ある軍医の日記より(日記は最後まで書かれず終わっている