複雑・ファジー小説

Re: 世界は残酷で優しい ( No.17 )
日時: 2018/04/11 23:34
名前: アイカ・マーブル ◆85qvGhCCNc (ID: kXLxxwrM)

 Cardという組織を書くにあたって、必要な情報は何か。それは、全てだろう。情報がないということは、あるということだ。情報がないのも、立派な情報であるといえよう。

 少なくとも、いくつかの国は意図的に情報を規制しているのは間違いない。それが疚しいことなのか、あるいは契約なのかは分からないが。

 もっとも、面倒事を頼んできた旧知の彼は

 (Cardを知りたいわけではなく、広めたいようだが)

 Cardを知りたいなら、秘密裏に調べろで事足りるであろう。だが、あえて本という————物語を書けと選んだ意図は何か。

 (民衆に大々的に広めたい)

 いや、そうすることで起こるであろう事を目指しているのかもしれない。

 そこまで考え、ふと足を止めた。真っ先に浮かんだ感情は煩わしさと後悔である。主従の契約を結んでいる彼を、贅沢に連絡鳩代わりにしなければ、わざわざ相手にしなくてすんだものをという感情だった。

 自分の空間に人が——異物が入る不愉快な気分がした。それだけなら、まだ気にせずにいられた。だが、明らかに後をつけられていた。ましてや、

 (実力が中途半端な奴ほど)

 ————煩わしい。

 隠しきれていない気配に、ため息を吐く。自分の存在を気付かれていないと、考えているのだろうか。だとしたら、ひどく

 (バカにしている)

 少なくとも、気配がわかる時点で三流以下である。少しお話をしたところで、たいして実のある話はできない。それは、経験から判断できた。

 だからこそ、腰に付けていた銃を二挺取り出した。一つは、杖としての役割を持ち、もう一つは魔道具である。昔から私と一緒に過ごしている相棒たちだ。

 上に銃口(杖)を向ける。私は魔力を込め——二度、魔法を放った。

 普通では、あり得ない速度で周囲に結界が張られていく。そして、結界が張り終わると同時に、魔力の電磁波が広がった。

 私は、あえて後ろに振り返り、きちんと彼等の瞳を見つめた後に口パクをした。

 「—・—・—・—・—」

 驚きに目を見張る彼等を見つめる。なんだ

 (多少の技術は持っているのか)

 とはいえ、利用価値が一ミリもない不愉快なモノを生かす道理はなかった。私は、魔道具を向けスペルを1つだけ唱え、引き金を引いた。

 水は、人が思う以上に凶器である。水を勢いよく出すことで、鉱物をも削ることが出来るほどには。

 銃には、風で勢いや狙いをより正確につけられるようスペルを刻み、弾には水のみのスペルを刻み込んでいる。魔法というのは、範囲的あるいは純粋な強さ、また正確さ等を求めれば求めるほど発動に時間が掛かる。それはどんな方法で使ったとしても、覆ることはない。ゆえに、魔道具は如何にスペルを簡略化出来るかが勝負である。もっとも通常の魔道具は簡略化すればするほど、戦闘に利用できるほどの威力は出せない。その為、多くの魔道具がランプ等の生活用品として作られる。そう通常ならば。

 だが、視野を広げてみれば違うのだ。一つの固定概念に縛られると見つけられない。いや、

 (魔法は便利すぎる)

 ゆえに、他の使い方を見出だそうとしないのだ。

 跡形もなく、不愉快な気配が消えたのを確認して、今度は声に魔力を込めスペルを紡いでいく。

 もう跡形もなく肉塊となっている身体を劣化させていく。殆ど、原形を留めていなかったからか、想定していた以上に早く終わった。

 それを風で一箇所に集め、燃やしていく。こんなのでも

 (肥料ぐらいには、なるだろう)

 よし、一石二鳥だなと頷きながら、Cardが初めて表に出たとされる荒野を目指した。













 『さ・よ・う・な・ら』