複雑・ファジー小説

Re: 世界は残酷で優しい ( No.18 )
日時: 2018/04/11 23:37
名前: アイカ・マーブル ◆85qvGhCCNc (ID: kXLxxwrM)

 眼前に繰り広げられる光景に、彼は歪に笑った。

◇◆◇◆◇◆

 土色の岩肌しか見えないそこに、崖とはいえ明らかに怪しい黒いローブにフードを目深く被っている二人組。本来なら戦闘中とはいえ————いや、戦闘中だからこそ注意が向くであろう。しかし、彼等がいる箇所は、あたかも始めから存在していなかったかのようにあやふやであった。

 一人は左耳上辺りに、四角い————カードにも見える刺繍が銀色で施されている。座るのに調度よい岩肌に腰掛け、僅かにフードからこぼれ見える髪は、色を認識することが出来ない。

 もう一人は、そんな一人を付き従うように後ろに立っている。やはり、左耳上辺りにカードのような刺繍がしてある。一点だけ違うとすれば——四角い中は刺繍がされておらず、ダイヤの図形にKという文字が施されている点だろうか。

 彼等は、目の前で繰り広げられる戦いを眺めていた。

 魔法が飛び交い、人の形をしていたものが、秒単位で肉塊に変わっていく。風に運ばれ、離れている彼等の鼻にも血臭が届く。

 「どちらに転ぶと思われますか」

 疑問系ではあるが、己の中で出た答えを確かめるような言い方に、座っていた方は後ろに立っている人物を見上げた。

 「答えはわかっているだろう」と。そして意味ありげに微笑んだ。

 「どちらにしろ、やることは代わらないさ。問題はあるのか」
 「いえ、特には」

 そう、彼等からしてみれば今回の事は想定内であった。ゆえに、特等席まで用意していた。

 人間側の後方より、放たれた魔法を合図にダイヤのKは駆け出した。

◆◇◆◇◆◇

 「ックソ、たれっ」

 分かりきっていたことだった。あの瞳は、私達を道具としてみていたなど。道端の小石だということは。無機物をみる眼差しだったのは。

 悪態をつきながらも、手を振るうのを、足を動かすのを止めない。止められない。どちらにしろ、ックソッタレな彼等を頼らなければ、此方では無知で無力な私達はあっという間に死んでしまうのだ。

 我知り顔で、やつらを挑発した馬鹿を殴りたかった。始めから、私達の殺生権は彼等が握っているのだ。対価もクソもない。また、勇者など下らない言葉に踊らされる馬鹿も殴りたかった。

 お陰で、行動範囲を狭められ、縛りが強くなった。連帯責任なんぞクソくらえだった。

 第一

 (魔王とやらを倒したところで)

 本当に帰れるかどうかさえ、怪しいのだ。ここに来て学んだ。魔法は万能のようで、使い勝手が悪い。大きい力ほど、対価は大きいのだ。例えば詠唱時間。魔力の消費。挙げればキリがない。はたして、私達を喚ぶのだけにどれだけの対価を払ったのか。

 ましてや、明らかに自分達は使い捨ての道具であろう。道具に、それだけの事をするのだろうか。

 「ッチ」

 嫌な予感がして、横に避ける。魔法は強力なほど発動に時間が掛かる。ゆえに肉の壁が必要だった。勿論、彼等は魔法が此方に当たろうがどうでもよいのだろう。

 隣にいた奴が巻き沿いをくらい肉塊になった。

 最前線にいるのは、使い捨ての駒である私達と平民である人間。

 前、後ろともに意識を向けなければ死ぬ。ただ、それだけのことだった。

 剣を振るい、魔法を切り捨てる。そしてまた、女の機械的な声が響く。耳障りだ。非常に

————一定の条件をクリアしました。スキル《剣舞》を取得しました。————

————《危険察知》レベルMAXになりました————

 不愉快だ。眼前に広がる魔方陣の山に、避けきれないことを確認すると、足で味方であった死体を蹴りあげ盾にする。

————スキル《並列思考》を取得しました。————

————称号《味方殺し》を獲得しました————

————称号《殲滅者》を獲得しました————

 きりがなかった。そして、明らかにマズイ気配に気がつけば無意識に魔力を暴発させ、その風に乗り後ろに跳んでいた。

————スキル《反射神経》を取得しました————

————スキル《野生のカン》を取得しました————

 先程までいた場所は、魔法による攻撃で消し飛んでいた。空中で上手く身動きがとれない。しかし、敵さんは関係がない。むしろ狙いが増えるのを肌で感じる。

 一か八かであった。成功率は確実に一割を切るだろう。しかしながら、大人しく死ぬよりは良いだろう。直接的死因の原因ではなくとも、戦場で怪我をすれば死ぬだろう。壊れた道具は迷わず捨てる。そして新しいのに変えるのだ。

 スペルを唱えながら、迫り来る魔法を切り捨てる。また、不愉快な声が響いた。そして空間が歪むと同時に、私は地面に立っていた。転移魔法である。魔力を大量に消費し、残りの魔力量に眉をひそめる。幸いなことに、身体も欠けずにすんだ。

 私の使っている剣は、魔剣と呼ばれるもので、切ったものから魔力を吸い己の魔力に変換するものである。しかし、回復する魔力より消費する魔力の方が多かった。

 (じり貧だ)

 どうするか、思考する前に、眼前の空間が弾けとんだ。

 (ヤバイ。ヤバイ)

 圧倒的強者。立っているのもやっとな威圧。武器を手放せば、座り込んでしまえば死ぬだろう。だからこそ、意地であった。後ろを背を向ければ死ぬであろう。

 ただ、気が付かなかった。相手が手刀したと気が付いたのと、私が地に倒れていくのは、ほぼ同時であった。

























             ————「Card」瞳にうつすは より一部抜粋 ————