複雑・ファジー小説
- Re: 世界は残酷で優しい ( No.9 )
- 日時: 2018/04/05 18:29
- 名前: アイカ・マーブル ◆85qvGhCCNc (ID: G1aoRKsm)
ある村に誕生した子供は天才——天災だった。
子供は物心ついたときから、理性が本能より優っていた。
はじめは、賢い子だと思われた。
次には、村の誇りであり天才だと。
それは、理不尽な世の中への反乱的な言葉でもあった。あるいは、希望を見出だすための言葉であった。
しかし、何も変わっていくことない世の中で彼等の——村人の評価は一変した。
忌み子あるいは、災い——禍——厄の子と。
お前のお陰だ——お前のせいだ。
産まれてきてくれて、ありがとう——何故、お前なんかが産まれた。
子供の回りは、敵になっていった。
しかし、子供はなにもしなかった。いや、なにもできなかったのだ。
子供は賢かった。ゆえに、自分一人で生きていけないと理解していた。
子供は賢かった。ゆえに、村人はすぐには自分を殺すことはないと理解していた。
子供は賢かった。ゆえに、笑うことも怒ることも無意味だと理解していた。
それらは、子供が自分を守るための行為であった。
しかし、子供は子供であった。狭い世界しか知らない子供であった。
ゆえに、それらの行為が自分を守るどころか、自分に向く刃になることを理解していなかった。
それに気がついた頃には、子供は少年になり、消えていこうとしていた。
少年は、自分は助からないだろうと理解していた。
泣きわめいたところで、彼等が——村人が自分を助けることはないと理解していた。
ゆえに、刺されても反応を示さなかった。
恐怖の目でみられても。
少年にしてみれば、村人達の考えが恐かった。
しかし、言っても無駄なことは賢いゆえに、理解していた。
経験を積んだ大人なら上手く立ち回れただろう。しかし、少年は世界を知らない子供であった。
少年は助からないだろうと、理解していた。
村人は自分を助けることはない。助かる確率は低い。それこそ、奇跡でも起こらない限りないと。
少年の世界は、小さかった。しかし、少年は確かに知っていた。
奇跡など存在しないと。全ての出来事には、確かに何らかの原因があると。
何かにすがっても、無意味であると。自分から行動を起こさなければ、なにも変わりはしないと。
薄れていく意識のなかで、少年は死を理解した。
死とは何か。少年は、何度も考え、何度も放り投げざるおえなかった問いである。
死とは、なにも残らない。ただ、消えるだけである。
そう理解せざるおえなかった。
そして静寂が訪れる。鳥の声が消え、木々のざわめきが消えた。
そして、少年の中にある感情が浮かんだ。
いや、今まで無意識にそらしていた感情を視ざるおえなかったのだ。
それは、恐怖だった。しかし、死に対する恐怖ではない。一人、孤独に消えていく恐怖である。
少年は、愛されたかったのだ。それは、叶うことのない願いだ。少年は理解していた。理解していたが、愛されたかったのだ。誰でもいいから、一人でいいから愛されたかったのだ。
薄れていく意識の中に見えた影に、少年は無意識に手を伸ばしていた。
——————「独りは、イヤだと」呟きながら。
「Card」—外伝、少年と死神より 一部抜粋