複雑・ファジー小説

Re: ヒノクニ ( No.1 )
日時: 2020/04/23 17:19
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

「ヒ」の恩恵を強く受ける帝国——ヒノクニ。
 技術も、文化も流通、そして国の統率においても他国に比べても他の追随を許さないその国は、人間と人為らざる者——「異形」と共存を両立させていた。
 ……まあ、人であろうと人でなかろうと千差万別、意思を持つ限り色々と問題があるのは変わりないのですが。

 此れはそんなトラブルを取り除き、国の平穏と調和の存続のために奮闘する物語だ。







「……報告は以上です。問題は見られませんでした」
「——そうか。もう下がってよいぞ」
「はっ」

 ヒノクニの都に聳え立つ巨大な城——そこにこの国を統治する皇帝は君臨する。
 聡明にして、冷徹。強靭にして鉄血である皇帝は高い壇にある大きな玉座にて鎮座する。
 鎧を身に纏った屈強な兵士の報告を聞くと、表情を変えずに冷静に受け答える。
 兵士が立ち去るのを目だけで見送った皇帝は少し下の段にて何やら書き物をしている赤い半纏に、茶髪のお団子頭の少女の方へ顔を向ける。

「——成葉、昨日言っていた市場の予算についてだが——……」
「おのれ傲慢と怠惰の限りを尽くす悪逆非道の皇帝め!! 覚悟——っ!!」

 突如、玉座真横の窓を割って侵入する1人の男。
 黒い布で全身を包み、その容貌は窺えないが、両手には短刀を持っている。首を掻き切る気でいるのだろう。
 しかし、皇帝はおろか、少女すら特に驚いた様子を見せることなく——……。

「もう出来てますよ上様! 花緒さんと集計しても去年と同じ、少しの誤差も無く。今日の夕方にも銭の用意を致しましょう」

 ドゴッと、鈍い音を立てながら少女は左手に持っていた身の丈ほどの棍棒を男に投げ飛ばす。
 男は悲鳴を上げる暇もなく、自分で割った窓から吹き飛ばされてしまった。
 カン、カン、カンと先程投げ飛ばした棍棒は天井や壁にぶつかりながら少女の手元に戻っていく。
 棍棒を掴み取ると、少女は呆れたようにため息をついた。

「上様玉座の横にある窓無くしません? 週2間隔で来られても修理が追い付かないんですけど!」
「はっはっはっ。そう言うでない成葉。我を殺せるほどの猛者なら喜んでこの国を明け渡すというものだ。……無理だと思うがな」
「うっわ! ……うっわ! ……なんていうか〜……性格悪い上様!」
「ちょっとお主不敬じゃない?」

 皇帝こと「上様」。少女こと「成葉」は主従。
 上様側仕えの文官は今日も今日とて忙しい。