複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.2 )
- 日時: 2020/04/23 17:20
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
いっけな〜い! 殺意殺意! 私、雪丸成葉! 幼いころから兄と一緒に皇帝のお城に奉公してる割と頑張ってる18歳女子!
昨日も徹夜で書類整理していたのに、今日も早朝3時に無理矢理起こされてわけがわからないまま立派なお屋敷に引っ張られたの〜! これで賞与がなかったら有罪物語だよね!? そんなわけで今日も1日身を粉砕して頑張りま〜す!
※
「いやっ! いやっ! 嫌よ! この服もあの服も全部気に入らないわっ! もっと真面な衣服はないわけ!?」
わたしの目の前でふんわりとした黒くて長い髪を持つ少し童顔の、可愛らしい女の子が半泣きで衣類を投げ飛ばしていた。
……確かに、可愛らしいのだけれど、甲高い声で暴れまわっている女の子を見ると逃げ出したくなるんだよなぁ、怒髪天3秒前の花緒さんを彷彿させるというか。
ちなみにわたしを連れてきた兵士たちはまた元の配置へと戻っていった、お疲れ様です。他人事とは思えない。
「お嬢様、先ほどのお召し物もとても似合っておいでです。どうか気を治めてくださいまし!」
「冗談を言わないで! あの『烏天狗』とのお見合いなの、変な物を着て行ったら、何を言われるかわからないのよ!?」
——そう、ここは女天狗のお屋敷。
由緒高い歴史と栄華を誇る血筋のこの家は、少し離れたお屋敷の「烏天狗」の一族に嫁入りしたり、婿入りさせたりと密接な関わりを持っている。
そうすることで、より強い天狗が生まれるからだ。
でも、女天狗は希少とされている一方、烏天狗——いや、男の天狗は同種の女よりも人間の女性を好む傾向があるため、婚約破断されたり、駆け落ちされたりすることもザラではないのだとか。
それで、お嬢様も興奮して荒々しくなっているのだろう。
名家のお嬢様が一方的に婚約破棄されて、置き去りにされるなど、屈辱でしかないはずだ。宥めようとする女中の手も振り払っている。
かくいう成葉(わたし)も先程表面上の話しか聞いていないのでこれからまた事情を聴こうと思うのだが。
というか何で上様に奉公しているお前が一お嬢様の面倒見るのかって? 簡単簡単。この婚約が成立すれば周りに回って上様の、いや、国にお金が回るからだ。わっしょい!
「こ、紅(こう)様! 真皇(しんおう)様のお付きの方がいらっしゃってくれましたよ! きっと私たちの婚約に期待してくださっています!」
「お付きぃ〜〜!?」
紅(こう)と呼ばれたお嬢様がわたしを下から怪訝な眼差しで見る。というか眼光が異常様じゃなくてどちらかといえばヤク……、いや、お嬢様です。
というか、女中の方々、敷居を高くわたしの紹介をしないで! 確かに期待はしてる! 天狗って資金いっぱいあるもん!
「……何よ。私と同じぐらいの年齢(とし)じゃない。本当にあの偉大なる真皇様のお付きなの? 信じられない」
「上様は実力主義ですからね。事務作業に暗殺者撃退(まどしゅうり)何でもこなせないと宮仕えできないよお嬢!」
「アンタ今後半何て言った!? 様を付けなさいよ!」
おっといけない、先ほどの眼飛ばしがお嬢様のものとは思えなくてついね。
いけないいけない。余所行きの礼儀を忘れかけていた!! 申し訳ございませんお嬢様!!
怒っていたような彼女は、予想外にも、少しずつ笑っていった。
「ふふふ! あなた、堅苦しい宮仕えだと思っていたら面白い人なのね。気に入ったわ、婚約するまで私に尽力してくださいな」
そう言ったお嬢様は今度は綺麗に、可愛らしくそれで本当の意味でお嬢様らしく微笑んだ。