複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.10 )
- 日時: 2020/05/07 19:39
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
——掃除開始から1時間。
何事もなく終わるかと思われた亡き皇妃様のお部屋掃除、早速問題発生です。
下着が。皇妃様の下着がありません。
おかしい。おかしすぎる。先月の掃除の時はちゃんと寸分狂わずあったのに。
「どうした、成葉。棚の掃除が終わったら次の掃除に入れ。我は本棚を整理する」
「ハイ」
「……様子がおかしいな。さては何か問題でもあったのか」
げえっ! 何ですぐわかったの!? 何でこういう時だけ勘が鋭いの。割といつもだけど。
でも言えない。絶対に言えない。
馬鹿正直に全部言ってみろ、近衛隊および廻皇隊を総動員させて犯人を捕まえた挙句には酷い拷問をして、ぼろ雑巾を扱うがごとく殺戮をするのが目に見えてる。
「どうした? 言えない事実でもあったのか。それとも——……」
上様の瞳の奥がきゅっと細くなる。
危ない、危なすぎる。下手したらわたしにも被害が及ぶ。黙っている時間はあまりない。
どうしたら——……。
「キャー——っ!! 私の下着を返してぇ!!」
「わたし盗んでません!」
窓の外から女性の切実な悲鳴が聞こえた。
切羽詰まって意味が解らないことを言ってしまったが——……、ん? 下着……? 返して……?
上様とほぼ同時に窓を開けて声がしたと思われる下を見る。
「上様! あそこ!!」
「……あれは——……」
下——、つまり、街であるのだが、ガヤガヤと大騒ぎになっていた。
女性だけでなく——男性までもが被害にあっているようだ。
わたしはとある怪しい人物を見つけ、そこを指差す。上様はそれを目を細めて訝しげに見る。
わたしと上様が見る人物は、高い建物の屋上に堂々と立っていた。
姿かたちからして男性であろう——……褌で目だけを出す様に顔を覆い、いくつもの女性用下履きで体全体を覆っていた。
いやいやおかしい。何で戦利品みたいに自分の衣服にしてんだ。絶対それ盗品だろ!
「——……あやつ、変態なのか?」
「当たり前でしょう! あれで素面(しらふ)だったらこの国はもうおしまいです!!」
……そうだった……。上様、変態(ああいう人種)は直に見たことないもんな……。
そうなる前に部下(わたしたち)が対処するから……。
どう説明しようか。
悩んでいると、褌男は誇らしげに大きな声で叫んだ。
「俺の名は褌仮面!! この世に真実と愛を施す物なり!! 今さっきの下着拝借はただの予告状。今度は右方都市「枳殻(からたち)」へ潜入し、腐敗した大名共を成敗してくれる!!」
下着拝借ってなんだ。いや、それどころじゃないけど!
なんで下着なんだよ、そこは普通にお金でいいだろ! あれ。上様何か静かじゃない……?
おそるおそる横目で上様を見る。
「……ふむ、枳殻か。確かにあそこは最近大名共のきな臭い噂が立って居った。以外に見る目はあるような。それにしても一体その情報をどこから仕入れてきたのやら」
「……それは、確かに」
半分不快、半分納得。
わたしもさっきの話は先月、宇津木の件で報告した時に聞いたばかりだ。
兵士でもない褌仮面がなぜ……?
しかし、わたしの考えとは裏腹に褌仮面はまた叫んだ。
「——先日、皇帝住まう居城にて下着を拝借した! 罪深く、悍ましい行為だとわかっている! しかし、俺は己の目的のために鬼になってでも目的を遂行する! 賛同するもの、俺の元へ集え!!」
やっぱりお前か——っ!! 悍ましいどころじゃねぇ——っ!! というか鬼に失礼だわあいつら今は7割ぐらい慎ましく生きてるんだよ反省しろ!!
褌被る変態に同志なんているわけ……。
「俺は行く! あの男の生き様をもっと間近で」
「オレもだ!」
10人ぐらいの男たちが褌仮面の元へ走っていく。
おいおい本気かよ……。この国ある意味で平和だぜ……。
「成葉」
「はい上様」
「あの者……」
上様は目線は褌仮面から外さないまま呟いた。
「下着……。先月、我は自分の部屋の棚の中に異変はないと知っている。つまりあ奴は……。玉露の下着を盗んだということか?」
あっ……。しまった、聞き逃していなかったんですね上様……。
上様の顔と雰囲気は確実に怒っている。
わたしは地雷を踏まないように一回だけ、静かに頷いた。