複雑・ファジー小説

Re: ヒノクニ ( No.11 )
日時: 2020/05/12 20:27
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

——枳殻(からたち)。それはヒノクニ右方都市の名前。
 ヒノクニは皇帝住まう中心部で有り、なくてはならない首都、「出雲(いずも)」から成り立っている。
 技術、流通、学問、交易ほぼすべてが出雲にはあり、その他の都市は「出雲では気候・土地柄できないこと」を担ういわば翼のようなもの。
 出雲が鳥の心臓であるなら他の都市は翼。鳥は翼が無いと飛べないから。

 右方都市「枳殻」は一定した気候で安定した農業、畜産を中心に。
 上方都市「氷室(ひむろ)」は夏であっても雪が降る寒冷な気候を生かして夏には欠かせない氷や冷凍技術を中心に。
 左方都市「霹靂(へきれき)」は他国の流通や広大な海に面するのを活かして行業などを中心に。
 下方都市「具足(ぐそく)」は出雲でも生産できない機械の部品や技術、護法の研究などを追及する。

 出雲なくしてヒノクニが有り得ないように、地方都市無ければ「ヒノクニ」も成り立たないのだ。
 そんな持ちつ持たれつでやってきたのだが——先ほどもあったように最近「枳殻」であまり芳しくない情報があった。

——最近出てこなかったはずの盗賊集団が枳殻に暴虐を強いている、と。






「近衛隊及び、廻皇隊全ての総力を費やし先程の下劣な変態めを我の目前に連れて来い。これは絶対である」

——……こんな日はそうそうない。
 監視の兵士及び、近衛隊、廻皇隊全ての戦力が皇帝の目下に集っている。
 こんなのは9年前に見たきりだ。
 おっかなかったりはっちゃけたりする皇帝がここまで冷たくなる日も珍しい。
 上様の一声で全員敬礼を取っている。

——……いや、目標が下着泥棒だって点を除けば締りがいいのだけど……。

「おいクソガキ、何がどうなってる……」
「そんなのわたしが知りたいよ……」
「下着泥棒1人を真顔で捕まえるって言う玉じゃねぇだろお上」
「おう……」

 眉間に皴を寄せながら我が兄慶司こと、雪ちゃんはボソッとわたしに耳打ちする。
 わたしにも事情が2割ぐらいしかわからないよ。
……まあ、後半のは亡き皇妃様の下着が盗まれたってのが大きいけど。

「近衛隊は出雲全域と各都市の入国前線までの捜索、定期的に報告せよ。廻皇隊は問題のある枳殻に至急調査せよ。賊については生死は問わん。容赦なく叩き潰せ」
「御意に!!」

 堂々と、冷酷に。
 上様がそう告げると、あれだけ集まっていた人たちが一瞬のうちにいなくなった。
 もう任務は始まっている。
 かといって、一文官であるわたしはこの城で待機だろうけど……。

「さ、行くぞ成」
「? 何で? わたしは近衛隊でも廻皇隊でもないけど」

 わたしの肩を背後にいた繋がぽん、と叩く。
 謎の言葉にわたしは首を傾げるけど——、正直嫌な予感がした。
 そんなわたしに繋はあっけらかんと、

「ん? 親父に聞いてなかったか? この任務においてだけ、成。お前は廻皇隊に配列されたんだよ。早急解決のためにな」

 う、嘘だろ神……。