複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.13 )
- 日時: 2020/05/26 18:03
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「ちょっと待ってちょっと待て。これ以上部屋に入られると密度が……。今あんまり人との接触は避けた方がいいと思うんだわたしは。だって変な病気に」
「成! 避けろ!!」
繋の一声でわたしは左に飛び、避ける。上から刃の分厚い槍が思い切り振り落とされたのだ——その威力を示すかのように、床は深く穴が開いていた。
わたしに攻撃したのは筒治の真横にいる大柄な、甲冑を着込んだ男だった。ただの盗賊があんな高等な装備手に入れられるはずがない。きっと、彲様から奪い取ったのだろう。
——かといって、いくら武器を揃えてもわたしたち3人には勝てない。
なぜなら。
「——……護法(ごほう)が無い俺達に勝ち目はないってか?」
「…………!」
わたしの、いや、わたしたちの考えを見透かしたかのように筒治は意地悪そうに口角を上げた。
何か、あるのか。
「確かに俺達は真面な教育を受けてないから護法なんて0から1までも知りはしない。けどな、護法は使えなくても『無理矢理出す』方法ならあるんだよ。……おい、やれ!!」
真面な教育を受けてない? そんな馬鹿な話があるか。ヒノクニは多少の貧富の差はあっても、特別貧乏だとか特別お金持ちな人間は存在しないし、国民全員に教育は行き渡っている。
それは、それだけはわたしたちと上様が全力でやっている。すべての地域に足を踏み入れて調査したとも。上様がとことん管理している。
つまり、こいつらは。
「アンタらこの国の人間じゃないね! 誰に雇われた!?」
筒治の一声で部下たちは何かしようとしている。
そうする前にわたしは何とか棒で横殴りにする。一気に10人ほどは吹っ飛んだだろう。
しかし、筒治以外の部下は小さい注射器のようなものを取り出し——……首に思い切り刺したのだ。
「ぐっ……、ぐぁ、あ……。ああああああああああああああああっ!!」
部下たちは額に血管が浮き出る程、藻掻き苦しんだかと思えば次の瞬間、1人の男の体中から濃い灰色の煙が発射された。
それはみるみる部屋中に広がり——、筒治たちの姿もぼやけてきたのだ。
「おいこら逃げんな——っ!」
「止まれ! クソガキ。……この煙吸うな。毒じゃねぇが有害だ。ずっと吸ってると気管支がやられるぞ」
「ブフッ」
筒治を逃がすまいと追おうとしたわたしの口に手ぬぐいを突っ込む雪ちゃん。言われた通り、よく観察すると有害なのが見て取れた。臭いキツイし。
……でも雪ちゃんは生まれつき毒とか効かないんだよね、ずっと前に上様に宛てられたお祝いの品に毒入っててもそのまま食べてたし。
おかしくね?
そんなことを考えていると甲高い悲鳴が聞こえた。声の主からして出迎えた侍女たちであろう。
「や、止めてください! 私達は約束を守ったでしょう!? この時間だけあなたたちの言うことを聞けばこの屋敷から出ていくと……!!」
「事情が変わったんだよ! 来い! 逆らうと蜂の巣にするぞ」
姿は見えないが、きっと侍女を人質としてまた別の場所へ連れていく気だろう。
しかし、次の瞬間にはゴッと鈍い音がした。気配からして雪ちゃんが筒治の部下を殴りつけたのだろう。
「うるせぇ。女に集る(たかる)ぐらいなら潔く潰れやがれってんだ」
「あ、ありがとうございます!」
「雪ちゃん! 他の侍女さんたちは……」
この屋敷の侍女はパッと見でも10人ぐらいはいたはず。
残りを探るべく雪ちゃんに叫ぼうとした次の瞬間、地面が大きく揺れた。
それはもう立ってはいられないほどに。
そして、地面が、いや、屋敷が真っ二つになった。
「クソガキ!」
「雪ちゃん——っ」
お互い手を伸ばすが、一層濃い煙で覆われ、その手を掴むことは無かった。
まずい、というか今立ってるの壁? 床? 全然、見えない——……?
その瞬間、わたしの手を掴む人がいた。
「成! しっかりしろ、立てるか!?」
「繋! 雪ちゃんと、侍女の人が——……」
繋は、わたしの手を力強く握って立たせてくれる。
「ちょっと待ってろ」と繋が言うと、ふうッと強く煙に息を吹きかける。すると、雲一つない大空の様に一瞬で煙が消え去った。
ようやく視界が晴れた。
「え。何これ」
「……すまん。正直俺も今は分かりかねないな……」
思わず絶句した。
だって視界に広がっているのはわたしと繋、そして10人ほどの侍女たちと——……全壊した屋敷だったから。
筒治とその部下、そして雪ちゃんと雪ちゃんが助けた部下はこの場所にいなかった。
「あー———っ!!」
そして一番びっくりしたのが……。わたしの武器、何とか棒が無くなっていたことだった。ずっと握っていたのに!