複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.14 )
- 日時: 2020/06/02 19:00
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「おい、何だこりゃあ……」
「すまぬ皇帝の遣いよ。俺らの隠れ家の道順を覚えられるわけにはいかないからな」
慶司は鉢巻状の布で両目を覆われていた。
あの衝撃の後、慶司は謎の人物に両目を覆われ、神輿のように数名に担ぎ上げられここまで拉致されてきた。
正直、慶司自身も状況を把握できていない。
(成葉たちはどうなった……? そもそもこいつらは敵か、それとも……)
「だがもういいだろう。今鉢巻を外す故」
しゅるっと、視界を遮っていた鉢巻が外される。
暫く、暗闇だったからか、酷く眩しく感じた。反射的に目を細める。
そして段々慣れてきた慶司の視界に入ってきたものは……。
「ようこそ! 下着叛逆の総会へ!!」
「世界は君を歓迎している!」
「強引な手で済まないな。新入り。緊張するかもしれんが……」
「今すぐ潰していいか?」
心の底から、慶司はそう思った。拉致された挙句、開けた視界に己の国の皇帝が血眼になって探している下着泥棒の巣窟だったなんてどんな意味でも嫌気がさす。
目の前に広がっていたのは——、慶司の目の前には出雲を騒がせた下着泥棒の長らしき人物。そして左右には仲間らしき男たちが10人ほど。
何より気になるのが、みんな服装が褌で顔を隠し、女性用の下履きで衣類のように体中を覆っている。きっと盗品だろう。
「落ち着け。皇帝がご立腹なのは重々承知している。何せ、亡き皇妃の下着を盗んだのだ。無理はない。しかし、今からする話はお前にとっても意味があるものの筈だ。潰すのはその後でもいいだろう?」
「……仲間にはなんねぇぞ。そんな珍妙な格好も女の下着盗るのもごめんだ」
「無理強いはしないと誓おう」
下着泥棒たちの長——、褌仮面は真剣な声音で慶司に言った。
……いや、見た目は真剣ではないのだが。
「単刀直入に言おう。皇帝の遣いよ。我々と協力し、あの忌まわしき筒治ら盗賊を共に討伐して欲しいのだ」
「——……どういうことだ?」
慶司は眉を寄せる。
てっきり「いい女の家知らない?」とか聞かれると思ったのだ——全く予想外な言葉、いや、勧誘だった。
その言葉を皮切りに、騒がしかった褌仮面の仲間たちも一気に静まり返る。
「此処だけの話、我々はこの枳殻に強い縁のある人間たちなのだ。……聞いているとは思うがこの地方は本来豊かで穏やかな場所だ。それは今もこれからも変わらないはずだった、盗賊共が来るまでは。アイツらはこの地方を短時間で踏み荒らし、危ない薬まで大量に持ち込み——……この国を混乱に陥れようとしている」
「おいおっさん。それが本当だとしてそりゃ無理だ。この国には近衛隊と廻皇隊がいる。例えそれをぶっ飛ばしたとしてお上には文字通り死んでも勝てねえよ」
「勿論それは知っている。しかしその混乱の矛先が民衆に向けられていたらどうする? 皇帝は民衆の平穏を希望している。放っておけるはずないだろう、その隙を狙うとしたら流石の皇帝も穴ができる」
……確かに、認めたくないが褌仮面の言っていることも事実。
先程の護法を無理矢理引き出す注射器を目撃している。強く否定はできなかった。
すると、勢いよく扉が開かれた。
入ってきたのは褌仮面の仲間と思われる男。洗濯した盗品を籠に入れていたようだ。
「親分! 洗った戦利品干しておきますね!」
「今大事な話だ! でもあんがとな! さっき持ってきた棒で干せ! 太くて重くて1人じゃ持ってこれなかったが、5人がかりでもってこれた。お前ら! 手伝ってやれ」
「……あ?」
慶司が目にしたのはまたまた見たくない光景だった。
その洗濯に使おうとしている棒は成葉が愛用している武器「何とか棒」であった。思わず凝視してしまったが——割と価値が高いものなのだ。
(……お上が週一感覚でクソガキに「折るなよ」って言ってるあの棒が……。下着干す棒になるたぁ……)
世も末である。
そして流れるような動作で、男たちは棒を用いた洗濯を終わらせた。