複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.17 )
- 日時: 2020/06/24 20:06
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「ゆ、雪が下着泥棒の仲間に……!?」
「うん……。顔は隠されて見えなかったけど、間違いないよ。あの服装は雪ちゃんだ……」
衝撃的な光景から数時間後。時刻的には夕方になっていて——本当なら盗賊退治に頭を悩ませなきゃいけないのだが。けれどどうしても伝えないと思った。
家族として。そして、繋にとっては唯一無二の相棒の雪ちゃんの現在を……。
先程の事を包み隠さず伝えると繋は目尻に涙を浮かべた。
「……きっと……。雪にも深い事情があるんだ、きっと卑怯な手段で言うことを聞かされているに違いないさ。雪は口が悪いけど人情に篤いからな。けどきっと大丈夫だ。雪も任務の事は忘れていないしきっと夜になれば盗賊も下着泥棒も一気に退治してくれるからな。だから、成が心配する必要ないんだ」
何か……言わなきゃよかった……。
こんなに動揺している繋見るの初めて……。顔中汗垂れ流しだし、わたしの両肩に手を置いているけど手汗多いし——、正直私の半纏を貫通してきてじめじめしてきた。
わたしもわたしで動揺してたけど何かあれだなぁ……。わたしより動揺している人を見ると逆に冷静になれるって言う……。
繋の両手を下しながら、
「そう、だよね。夜までもう時間が無いし、雪ちゃんも雪ちゃんで行動すると思う。幸い、下着泥棒たちのところにいるから情報もそれなりに手に入れていると思うし」
「ああ。さっきまで調べていたんだが、盗賊も下着泥棒も『同時刻に、同じ場所』の現れているんだ」
「……!? どういうこと? その2組は協力関係だってこと?」
「いや、その逆だ。下着泥棒が出雲に来る前に、一回、枳殻で競り合ったらしい現場に行った……。けど、その場所は協力関係だとは思えないほどぐちゃぐちゃに荒らされていた」
「……! ねえ繋。もしかして下着泥棒たちって……」
※
「今日も何とか物資を住民たちに送り込めた。感謝する、新たなる戦士よ」
「止めろ。成り行きだっただけだ」
褌仮面の清々しい物言いに慶司はうんざりした表情になった。
確かに彼らは一方的な悪ではないのだろう。しかし、やっていることの半数は許容できそうにはない。
何より理由はともあれ、皇帝を怒らせた。
「悪いが夜も協力してもらう。お前たちが昼間暴れたおかげで盗賊たちが短気を起こしそうだ。枳殻の交通手段の駅で『決着』を付けると部下から情報が入った。——力を貸してほしい」
「……まあ、下着泥棒(てめぇら)も盗賊連中もまとめてしょっ引こうと思ってたから構わねぇよ。けど、何で駅なんだ。俺はこの都市に来るまで直視できないぐらいの酷い有様かと思っていたんだが——どうやらそうでもないみてぇだ。物資やらは取り上げられちまってるが……」
「それは……」
下着泥棒が一瞬、言葉を濁した瞬間だった。
次の瞬間勢いよく扉が開かれた。
「伝令! 伝令! 緊急ですぜ! 盗賊の連中が……あっ!」
「!!」
部下の1人が慌てすぎたためか、床の出っ張りに足をつまずき——、褌仮面の主軸ともいえる顔を隠していた「褌」を咄嗟に握ってしまった。
そのまま引っ張る形で、褌は布を擦り合わせる音を立てながら解けていく。
褌仮面の素顔が明らかになる。
精悍な初老の男性だった。短く刈りあげられた髪に、右目に少し傷跡が残っている中々の強面の男性が姿を見せた。
「お、おい!」
慶司は思わず声を上げた。
それもそうだった。「よく見知った顔」だったのだから。
「何してんだよ水薙のおっさん……!!」