複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.19 )
- 日時: 2020/07/07 19:21
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「へへへっ。もうすぐでこんな田舎ともおさらばですね、筒治さん」
「……あ? そうだな。何にもないただあるだけのこんなつまらないところさっさとおさらばしたいものだよ」
筒治は冷たい表情で誰もいない駅に立っていた。そして、隣にあった塵箱を軽く蹴った。
部下は再び笑うと、
「ほんっとうに退屈でしたよこの地方は。唯一『召喚陣』を大きく設置できる土地ぐらいですよ、いいところは」
「ああ。召喚陣はこの中では護法が使える私でしか使えないからな。召喚陣を設置できるのは新月である今日……。それも大きく描ける豊満な土地であるとともに広く大きくであればあるほどその効果を発揮する……。くくく……、私がこの召喚陣を設置出来たらあの忌々しい神原めを追討できるぞ!」
筒治は心底面白いように腹の底から大声を上げて笑った。
そんな筒治につられるように、部下たちもみんな笑いだす。
笑いながら、筒治は長い鉄製の管を持つと、ゆっくりと歩きだした。
「さあ、さっさと設置してこんなところさっさと出てくぞ。嗚呼、つまらない。この都市も、人間も……」
「悪かったな。何も無くてよ!」
「!?」
そんな声が聞こえたのと同時に、後方から部下の悲鳴が聞こえたとともに、バキッと鈍い音が響き渡る。
勢いよく振り返ると、そこには慶司と水薙、そして下着泥棒の部下たちがそこにいた。
筒治の部下の3分の1を気絶させていた。
「な……! 水薙、お前はあの時爆風で吹き飛ばされたはず……!」
「運良く生きてたよ! ……んなことよりオメェを此処で止める。さっさと都市を返してもらおうか」
「もう遅いさ」
にい、と筒治は笑う。その瞬間、残った部下たちは全員注射器を一斉に首へと差し込んだ。
全員刺した瞬間に、苦しそうに足元をおぼつかせていたが——ぎょろりと両目を赤く染めてこちらに襲い掛かってくる。
「さあ、時間を稼げ。人口護法使いども。命は今日までだが——皇帝の犬を殺せたという箔がつくぞ。頑張れ」
「て、めぇ……っ」
部下の命を何とも思っていないのか。
それを察した慶司はこちらを一度も振り向かずに走り去っていく筒治の背中を思い切り睨んだ。
※
「繋!! これ!!」
「……! ああ、もう雪たちは来てるみたいだ」
わたしと繋はあれから急いで枳殻の駅へと辿り着いた。ちなみに侍女さんたちは危ないので先程の空き家にて待機してもらっている。
辿り着くや否や、倒れている人たちがいて——……身なりを見る限りでは下着泥棒たちでは無さそうだ。予想するに、盗賊連中だろう。
意識を失っているのを確認して周りを見回す。
「けど、何処に行ったんだ……?」
繋がそう呟いた。
その瞬間、大きな破壊音が響き渡った。
「この音からすると……列車のある待合所じゃ……!」
「行こう」
わたしと繋はお互い顔を見合わせると、その背後から人が3人ぐらい吹き飛ばされてきた。
彼らは壁に激突して意識を失った。
何これ?
「クソガキ! 繋!」
「雪ちゃん!! ……と、下着泥棒の頭……え。何それ、まさか水」
「いろいろあんだよ」
上を見上げると、屋根には雪ちゃんと……水薙さん!? ……が立っていた。
おいおいおいおいおい。確かに水薙さんは行方不明で探してはいたけどまさかの下着泥棒なの? 嘘でしょ? いやでも服装が下着泥棒のだもん。絶対そうじゃん!
わたしの考えを察した雪ちゃんは苦々しい表情でそう言った。