複雑・ファジー小説

Re: ヒノクニ ( No.20 )
日時: 2020/07/14 20:14
名前: 繝ォ繝薙& ◆J5W8IpLB6g (ID: YGRA.TgA)

「そ、そうか……。訳ありだったんだな……」
「その情報墓場まで持って行ってほしかった」

 雪ちゃんや水薙さんから大方の事情を聴いたわたしと繋は何とも言えない表情で呟いた。
 というか下着泥棒と盗賊が密接な関係になってるなんて思いもしなかったよ。
 上様に何て伝えればいいの?

「筒治の野郎、今にも死にそうな部下ほっといて、自分だけどっかに行っちまった。追いかけようとしたけど『強制的に護法を使えるようになった盗賊共』が邪魔して進めん」
「何人いやがんだ、盗賊共……」

 水薙さんと雪ちゃんが忌々しそうに言う。
 確かに、ざっと見ても盗賊共は50人はいるだろう。でも、このままこの半狂乱の狂人になった盗賊共に付き合っていたら筒治はきっとまた何かやらかす。
 そうなったらこの国に混乱がやってくるかもしれない。そうなる前に……。

「雪ちゃん!」
「あ?」
「ここはわたしが対処してあげるから3人で筒治を追いかけて! 水薙様はこの地方の地理に明るいし、繋の『護法』を使えばすぐに見つかるから。そしたら雪ちゃんであの野郎をねじ伏せて!」
「おめぇ1人でこの人数相手にできんのか?」

 ははっ。そう思うならさっさと行って筒治をぶっ飛ばして帰ってきて。
 わたしの本職は文官。
 普段は城で事務作業と管理に追われている1文官にすぎないから戦力においては期待しないでね。

「——……苦情対処には屈しない主義なので!」






——……護法。
 それは、生きる者全てが生まれつき備え持つ「生き抜き、護るための力」。
 かといって、それを扱える者は少ない。幼いころから修行し、研鑽を積んでようやく得られる力。
 しかし御伽噺に出てくるような火や雷、風、水などと言った自然や気象の力を引き起こすような大技が使えるわけではない。それが使えるのはこの国では上様と繋だけだ。
 そう言った強い力を扱えるもは神や仏とか——、まあ、天に近い者だけだ。

 とはいえ、護法を深く知り、扱える者は戦場や人生において大きな利益を得る。
 その力を殺すのも活かすのも自分自身なのだ。


「——……我が命ず。天には理を。海には晴嵐を。地には冷徹を。我が言葉に答え、全てを暴け——……」

 繋がそう呟くと、水が滴る音が地に響き渡る。これは、彼の護法の1つ。水の反響音を利用することで探し物を見つける手法である。
 走りながら水薙は、

「……俺達が調べた情報によると筒治はこの枳殻の豊穣な地で何かを召喚しようとしてる。でもただの召喚じゃないぞ? 確実にこの国に害を与えるものだ」
「……神様でも召喚しようってのか?」
「いいや。この国にもう神はいないさ。何百年も前に皇帝が滅ぼしつくしたからな」
「じゃあ、何を」
「雪、水薙さん。見つけたよ。筒治はここをまっすぐ行った先の場所だ」

 繋の言葉に、水薙は酷く驚き、目を大きく見開いた。

「その場所は……」
「何だよ水薙のおっさん。なんかあんのか?」

 慶司が彼の顔を横目で見ながらそう言った。
 一瞬、水薙は言うのを躊躇ったが、首を左右に大きく振ると、

「繋が行った場所は元『儀式場』。何千年も前に干ばつや飢餓から逃れるために生きたまま子供や若い女を神にささげる——、つまり生贄にする場所だった。今でこそあの場所は廃棄されてるが……不吉な場所として立ち入りを封鎖してるんだ」