複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.23 )
- 日時: 2020/08/05 19:40
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「おい……。あのバケモンお前が召喚したんだろ。早く止めろ。あの毒気だ。全員死ぬぞ」
「……ちっ。糞気に入らねぇが仕方ねぇ。あいつは意思が無い。俺がそう仕組んだ。死にたくはねぇからな……止めてや……」
そう呟く筒治。横目で繋や水薙が抑えている化け物を見つつ止めようと試みる。
しかし、しばらく経っても何も起こらない。
それに気が付いた筒治は驚いたように大きく目を見開いた。
「なっ……! 何でだ!?」
口から零れ落ちる血液も気にせず上半身を起こす。
「何で……何で動きが止まらない!? アイツは俺の所有物で……!」
酷く取り乱したかのように筒治は頭をガリガリと掻く。
その様子に慶司は訝し気に見つめた。
慶司は真実を見抜く真眼——蒼の目で化け物を一瞥する。
「気配がさっきと違う。手前、所有権を誰かに奪われやがったな。あのバケモンはもうお前のものじゃない」
「くそっ、くそっくそっ!! 燠だ(おき)だ!! 燠の野郎!! 小細工しやがったな!?」
「……燠……!?」
筒治に聞きたいことは山ほどあったが、その瞬間大きな声が慶司の耳に入る。
「雪! 抑えるだけじゃだめだ、こいつ自爆する気だ。ここら一体消し飛ぶぞ!?」
「——わかってる!」
自分達だけなら逃げられる。けど、問題は「自爆した後の余波」だ。
完全に目覚めていなかった化け物の毒気も相当危険だったら、この自爆による毒は下手したら民衆にも被害を及ぼしかねない。
それに、すぐ爆発するかもしれない。何もかも不明、後手後手だ。
「雪ちゃーん!! 繋!! 水薙さん!!」
空を切る音がしたとともに、成葉は何とか棒に乗ってやってきた。
成葉の何とか棒はとても重いことと、伸縮機能があり、その勢いで移動手段にも利用することができるのだ。
勢いよく着地した成葉は力ずくで全員を何とか棒に乗せる。
「早くここから逃げるよ! 時間が無い!」
「わかってる! けどここで逃げたら他の奴に毒が……!」
「心配するのはそっちじゃない!」
慶司の言葉を成葉は一刀両断する。
するとみんなギョッとした顔で成葉を見る。
その表情は酷く青ざめていて——……。
「上様が!!」
※
「って、あれ何——っ!? でかい、でかすぎるんですけど。何何何!? きょ、巨神兵!?」
時刻はわたしが辿り着く1分前ぐらいの事。
盗賊の部下たちを制圧してから雪ちゃんたちが言った方角を見るといつの間にかデカい化け物がいたもんだから思わず取り乱しました。
何かあそこらへん空気が黒くない? 行きたくないんですけど……。
「おい嬢ちゃん! 何か黒いの変な音出てるぞ!」
「黒いの?」
下着泥棒の1人が私に黒いの——つまり通信機を渡してきた。おそらく、雪ちゃんが置いていったものだろう。
何事かと受け取ると……。
『おお。繋がったか。我だよ!』
「上様!? どうして急に。というか今話してる暇が無いというか……!」
『話してみよ。何、お前たちなら問題はないだろうが——我には聞いておく必要がある』
まあ手短にならいいか……。
チラリと横目で雪ちゃんがいると思われし場所に化け物の姿を見る。
「ええっとですね。筒治——……、いや、盗賊の首領がでかくて黒い毒気を吐く化け物を召喚したみたいで、今わたしも盗賊一味を制圧したので雪ちゃんたちのいる……化け物の場所に行こうとしてて」
『何? 召喚? 黒い化け物? 場所はどこだ?』
「え? 枳殻の駅から少し距離のある今はもう廃棄された——あの、儀式場」
『——……繋に指揮を譲ろうと思ったが気が変わった。何たる愚行何たる侮辱。あの場所はいずれ改築しようと考えていたがそれをこうも利用されるとは——……。許しがたい屈辱である』
「う、うえさま」
怒っている……。これは何が何でも怒っている……。
いや、でも、でも……。
わたしがどうしようかと考え込んでいると、上様がただ一言。
『成葉』
「はいっ」
『至急、その場所にいる繋と慶司を回収しその場から離れよ』
「でも化け物は……?」
『我が。滅する。だから——何とか棒で総員、退避せよ』
「しょ……承知しました……」
※
「というわけでして」
「あー……。だろうなぁ。おそらくあの化け物は少なくとも神様の紛い物。親父の逆鱗に触れる案件だろうしなあ……」
何とか棒で回収されつつ、繋はそう呟いた。
正直、重量が過ぎそうだけど——水薙さんはもちろん、意識を失った筒治も乗せて、再び駅へと舞い戻った。
駅に着地すると、その瞬間、儀式場——つまりあの化け物の頭上から炎を纏った物体が急激に落ちてくる。
——まあ、隕石ですね。
瞬きする間もなく、先ほどの場所は爆発音と衝撃で包まれる。
黒い煙と広い煙が同時に立ち込め——、しばらく炎が立ち込めていたが少しずつ消えていく。見えたものは上様が護法で引き寄せた隕石の塊が。
『——ふむ……。少々手荒だったがもう二度とあの場所を利用する輩は現れないだろうよ。さて、あの場所は改築しつつ——そうだな。枳殻の豊かな農業を活かしつつ新たな交易場所にでもするか』
わたし、いや、その場にいる全員は口を開くことは無かった。