複雑・ファジー小説

Re: ヒノクニ ( No.24 )
日時: 2020/08/13 19:45
名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)

その後。というか、後日談というか。
 あの後、無事に捕獲した盗賊連中全員を出雲の拘置所へ叩き入れた。
 傷ついた人々や枳殻の土地はまだ癒されていないが、これからまた上様やわたしたち、そして何よりも枳殻の皆さんの手で再生していくだろう。
待機してもらっていた侍女さんたちに事の顛末を語り、わたしたちは帰って行った。
それはそうとして、下着泥棒の首領だと判明した枳殻領主、水薙様は——……。





「——下着泥棒……挙句に亡き我が皇妃の下着を盗む大罪人の顔を一瞥してみたいとは思ったが——……。正直開いた口が塞がらない」

 皇帝の間。
 高い位置にある玉座に君臨していた上様はひれ伏している水薙さんを見てため息をついた。
 因みにもう水薙さんの服は正装だ。もう下着泥棒じゃないからね。水薙さんは顔を上げずに話し出した。

「言い訳など致しません。私は恥どころかヒノクニを侮辱しました。死んで当然です。償わなくてはいけません。いかなる理由があろうとも」
「事情は当事者から聞いたけどなー。今思えばそなたの行動も我らに知らせるためであっただろうが……。それでもなお度し難い。確実にどんな意味でも出雲を混乱させた。その罪は重いぞ——……?」
「如何なる処分も謹んでお受けいたします」

 上様の言葉に、臆することなく水薙さんは即答した。
 そんな彼に上様は心底気まずそうに再びため息をついた。

「処分を下そう。貴様の領主という地位を剥奪する。——それから——……」






「え、ええええ!? 水薙さんの息子さんが新しい領主に!?」
「そうなんだなー。意外だったんだけどね。あの馬鹿息子、自由になりたくて外国(とつくに)を転々してるけどこれから本格的に捕まえてみっちり領主としての心構えをたたき込むんだと!」

 真夜中の事務室に響き渡る花緒さんの声。
 相変わらずわたしたちは仕事に追われて——いや、枳殻に行っていた分の仕事が溜まって花緒さんに手伝ってもらっている状況だ。
 上様から水薙さんへの処分——つまり、領主の引退及びに素養のある彼の息子へと代替わりする——……というものだった。雑に言えば。

「水薙さんもそうだけどさ。筒治たちはどうしてるの?」
「それがですねぇ……。彼、真皇様の隕石による衝撃を最後少し見てしまったようで……そこから人が変わってしまったように大人しくなってしまったそうですよ。繋様曰く。でもすっかり怯えてしまったみたいでどんな意味でも縮こまってしまって話になりません。後日病院送りになりそうだとか……」
「まあ……隕石の件はね……」

 上様は頂点に立つお方でもあり仙人。
 護法による力も我々人間とは比べようもなく——自然現象を故意に引き起こすことなんてお茶の子さいさい。朝飯前なのだ。
 でもあれだけ生意気だった筒治が大人しくなってしまったのは何だか面白、じゃなくて哀れなようにも思えた。

「無事に皇妃様の下着も返却されたしよかったよかった」
「あのあと真皇様、棚に強固な封印を施してましたよ……」

 花緒は呆れたようにため息をついた。

「それと、繋様言ってましたね。筒治が召喚した『神もどき』。あれ、制御権を奪われて自爆状態に陥ったとか……。これだから気に食わないのですよ、未熟な護法使いは」
「うん…………」

 そうだ。そういえば、帰り際雪ちゃんが言っていた。

『筒治の野郎が呟いてた。『燠に奪われた』ってな』

 どうして、味方も巻き込むようなことをしたのだろう。
 どうして、神もどきを召喚したのだろう。
 わたしは燠って人のことがわからない。

 けれどきっと、そいつだってわたしたちの事がわからないのだろう。