複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.26 )
- 日時: 2020/08/27 20:12
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「は、ははははは……。ようやくだ、ようやく書類が無くなった……。そして昨日から今日へだと。おはようございます。ですがまあいい。これさえ終わればわたしはお休みです。働いた分だけ寝ればいいだけのお話。さ、そろそろ執務室にやってくる上様に確認を……」
「成葉—っ! 大変なんだ!」
「ぎゃ——っ!」
すぱーんと思い切り執務室の襖が開かれる。急に大きい音が聞こえてきたためわたしの耳は耐えられなかった。
そんなわたしの都合など露知らず、襖を開けたわたしと年齢の近い体格のいい好青年——、いや、銀星(ぎんせい)は遠慮なく部屋に入ってくる。顔は目鼻立ちがすっきりして可愛い顔しているんだけど……身長が高くて気に食わない。
皆様恐らくお察ししているかとも思うのだが、銀星は上様を守護する近衛隊の若くして副隊長になった男だ。常識人と戦闘狂が入り混じった摩訶不思議な性格をしているが、戦闘能力を始めとした実力は一級品である。
「……わたしこれから休暇なのだけど」
「真皇様がいないんだ!!」
「話を聞け畜生!!」
相当銀星は混乱しているらしく激しくわたしの肩を揺さぶった。
き、気持ち悪い……。徹夜で疲れたわたしの頭には残酷の所業だぞ……。
何とか銀星の攻撃から逃れると、
「厠じゃないの……? 時間かかるときだってあるし」
「さっき確かめたけどいなかったんだ。でもこんな時間だし……、隊長はこのこと知ったら確実に僕を殺ってくる。爆睡してる慶司さんを起こすと怖いし、繋さんは他の仕事で立て込んでるし。それに僕、早朝の当番なんだ! これ以上怒られるのは避けたい! お願いします成葉! 御蔵堂(おくらどう)の茶碗蒸し特大級奢るから!」
「近衛隊副隊長たる者が何たる無様か! 恥を知れ!!」
……と、言ったものの、わたしは茶わん蒸しと奢るという言葉に負けてしまいました。
恥を知りますとも。とほほ……。
※
「ん……?」
あれから、わたしと銀星は何時間も探し回った——……わけではなく、駄目もとで上様の部屋に行ってみると丁度、探し人が座布団の上で鎮座していた。
「……本当によく見たの? 上様いるじゃんか」
「本当だってば! 城中探し回ったんだよ」
嘘でもついたのか? そう思いわたしは肘鉄で銀星の脇腹に打ち込む。
弁解でもするかのように銀星は必死な形相でそう言った。わたしたちの気配に気が付いたのか、上様は視線をこちらに向ける。
「もう仕事か? 関心関心。丁度良かった、お前たち。急な話だが……これから当番制で兜虫育ててくれない?」
「はい?」
上様の急な申し出に銀星は呆気にとられる。きっと意味が解らないのだろう。
わたしも解らない。唯一わかったことは上様の手にある籠の中身——そこには兜虫が1匹、入っていた。
「町の子供たちがな、家の事情で飼えなくなったらしくてな。我が研究がてら育てると言ったのはいいものの、我毎日忙しいから1人だと限界があるわけだ。そこで、お前たちに協力してほしいのだが……」
これは……。一体……?