複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.33 )
- 日時: 2020/10/13 19:55
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「せめて……! 森の海には入れなくてもまだ生き残ってる鵜宮さえ見つければ連れて行ってくれるかもしれない……!」
わたしは何とか棒を右手に持ち、全速力で道を駆け抜ける。
行儀派は悪いが看板や、建物の看板や、家の屋根を走り抜けて近道をした。しばらく走っていると森――、いや、今はもう荒れ地というべきか。
見た目こそは分かりにくいが、近くによってみると誰でもわかる。この森の生命力が感じられない。生き物や虫の気配や植物の緑がほとんど失われている。
鵜宮たちがいると言われている森の中へ迷わず入る。おそらく、もう雪ちゃんたちは森の奥にいるのだろうが……。
「そういえば玉露様はどうやってこの森を救ったのだろう」
ふと、昨日の明松の言葉を思い出す。
嬉しそうに懐かしむ様に、まるで恋焦がれる少女の様な――……。
玉露様はきっと優しいから二つ返事で引き受けたのだろう。どんな場所だったのだろうか、海の森とは――……。
「って、いやいや。今はそれどころじゃないし……」
その瞬間、何かが足に引っかかった。
一瞬転ぶかとも思ったが何とか堪えた――が、その「引っかかったもの」はあまり見たくないものであった。
それは、明松と同じ羽を背中に持つ鵜宮。顔色は真っ白で瞳に光は無く――、何より体にまとわりついている血が乾いて赤黒く変色している。それに冷たく、動く気配もない。
「何で、こんなことを」
思わず、奥歯を噛み締める。
どうして罪のない鵜宮たちが殺されなければいけないのだろう。ただ森を守っていただけじゃないか。
少し前まで平和に静かに生きてきただろうに、こうも一瞬で殺伐としてしまうのか。
「ごめんな。少しだけ待ってて」
今は、少しでも手掛かりを。生きている鵜宮を。
後でまたここに来て弔うから。
「おい」
すると、わたしの頭上から声が聞こえてくる。
男の声だ。でも、これは雪ちゃんのものではない。かといって、繋のものでもない。
反射的に上を見上げる。
その声の持ち主はまだ枯れていない大木の上にいた。声で判断するに、男なのだろうか。
しかし、その姿は顔を含めても不明だ――なぜなら、全身を覆うような布で覆われているから。
とりあえず、確認を。
「わたし怪しい人じゃないよー! 今さ、この森危険だから早く下りて家に帰ってほしい! あ、それとも鵜宮!? 怪我してたら今安全な場所に……」
「俺は鵜宮じゃない」
そう冷たく、言い終わるが否や、男は手品のように右手から5つほどの苦無を取り出すとそれをわたし目掛けて放つ。
わたしは特に慌てることなく何とか棒で全て弾いた。
というか此奴誰!? こいつが森を荒らした張本人なわけ? 少なくとも鵜宮じゃないな。
「皇帝の遣いがちらほら見えてきたが……お前もそうだな。だとしたらここを通すわけにはいかない。……死んでもらう」
「ちょっとちょっと、急展開すぎない!? というか顔ぐらい見せなってば!」
わたしは槍投げよろしく、何とか棒を勢いよく振りかざすと、男目掛けてブン投げた。
何とか棒は真っ直ぐ男の額に直撃――はしなかったが、その代わり、覆っていた布がゆっくりと落ちる。
「んん……?」
その男――、いや、そいつはわたしと同じ年頃の青年だった。
けれど、金髪で青い目をして目鼻立ちがすっきりしていて一言で言えば容姿端麗というべき、なのだろうけれど。服装も見慣れている着物ではなく、質感が硬そうな革のような素材のものだ。
容姿がヒノクニの人っぽくないというか。外の国のような――。
素顔が明らかになった男は、不快を露わにしていた。
「殺す」
「ごめんて!」