複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.4 )
- 日時: 2020/04/24 19:37
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「私(わたくし)、今回も結婚はしたいけれどしたくはないの」
「……? どゆこと、紅?」
お屋敷の縁側に座り込む私と紅。最初はお嬢様と呼んでいたのだが、紅自身が余所余所しいから「紅」と呼べと言ったのだ。
時間が経ち、お日様が出てきて少し体が温まる。
「——私が、いえ、この一族が女天狗の家系なのは知っているわよね?」
「もち!」
天狗といえば、長い鼻に鳥の翼、念動力に高い下駄を思い浮かべるのだろうが、女天狗は「見た目は優美な人間」なのだ。
しかし、普通に天狗なので念動力が使える。
「私、生まれて50年ぶりの逸材なんですって。飛べるし、念動力も使えるから……。今までは飛べるか、念動力が使えるかのどっちかだったみたい。……あ、でも勿論神皇様に比べたらたいしたことないのだけれど」
「いや上様と比べないほうがいいと思う。あの人片手で国を亡ぼすから!!」
本当だよ? 小さいころ上様が玉座からずり落ちた時にうっかり天井を吹き飛ばしたのを見たあの時の光景は一生忘れない。
……ちなみに、紅たち天狗は念動力と言っているのをわたしたちは「護法」と呼んでいます。
詳しいことはまた後で。
「そう、そうね! ……話を戻すわ。私の婚約のお相手、秦(しん)様と言うのだけど」
「秦!? 秦ってあの、天狗界の貴公子にして次世代を背負うって言われてる?」
「ええ」
そう言えば少し前に花緒が言っていたのを思い出した。
顔は見たことが無いのだけど。
「私、幼いころ秦様と遊ばせていただいた時期があったのよ! ……あの方はもう忘れていらっしゃるだろうけど……、私は忘れられない。初恋だった。この家に生まれて恋愛結婚なんてできないのはわかってる。でも、今回の婚約で、お見合いで……あのお方といられるなんて運命だと思った」
「……じゃあ何でさっきみたいに不安になったの?」
「わかってるはずよあなたも。……秦様、人間の娘が好きな様なの」
悲しそうに紅は微笑んだ。
「それは本当に?」
「確証はないのだけど……、噂で。実際に見た人もいるって話もあるの」
「あくまで噂じゃん。それに明日改めて顔合わせがあるんでしょ? 今更人間の女の子に行くかなー」
「でもわからないじゃない! 明日突然『この結婚の話は無しにしてくれ』だなんていわれる可能性もあるのよ!?」
「うーむ……」
確かに、紅が言うことにも一理ある。
例えそんなこと言っていても、きっと財力で何だかんだなってしまうのが天狗のこわいところでもある。
戦ったら強いし……!
「でももう今更言っていられないわ! 話を聞いてくさてありがとう。私、同じ年代のお友達もいなかったし、周囲の圧力もあって最近ぴりぴりしていたけど……。少し楽になったわ」
「それは何より」
「……それとね、一緒に……明日の着て行くもの、選んでくれる?」
「——……いいよ! ばっちり決めたげる! 明日いい日にしようぜ!」
わたしがそう言うと、紅は幸せそうに微笑んだ。
明日は戦争、戦国時代。しっかり相手の命(たま)取って来いよな、紅!