複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.41 )
- 日時: 2020/12/22 19:45
- 名前: ルビー (ID: YGRA.TgA)
「まじか」
「まじだよ」
そう言うと、成葉は燠に向かって何とか棒を向ける。その瞬間、目にも止まらぬ勢いで長く伸び――燠は遥か後方へ吹っ飛ばされた。
成葉は目線を慶司に向けると何とか棒に片足をかける。
「雪ちゃん、そいつ任せるから!」
「とっとと行け」
「雪ちゃんこそとっとと倒してよね! ……縮め!」
成葉は何とか棒に命ずると、それに応えるように燠が飛んで言った方角へ縮む――いや、戻っていった。
分断されたにもかかわらず動じない蕪世。
首を小さく傾げて慶司を見る。
「真眼持ちのガキか。でもよかったのか? あのチビガキと2人掛かりでやんなくて。少なくとも瞬殺されることはなかったぜ? なぁ、ヒノクニの最強さんよ」
「てめぇこそよかったのかよ。燠とかいう奴すぐには戻ってこれねぇぞ。うちの妹が潰すからな」
「怖い話じゃねぇか、それ。けどよ」
ひゅ、と空を裂くような音がしたのと同時に――、蕪世は不敵の笑みを浮かべ次の瞬間には慶司の背後を取っていた。
流れるような素早い動作で短刀を取り出し、
「何もかも俺1人で充分なんだよ。最強でも皇帝でも殺すのはな」
(……早い)
そのまま、慶司の心臓を突き刺そうとした。しかし、慶司は下方へしゃがみこみ、そのまま蕪世の足を蹴りで薙ぎ払う。
その動作を呼んでいた蕪世は後方へ飛び、攻撃を回避した。
「憂いの王冠を返しやがれ」
「やだね」
蕪世の問いに鋭い眼差しで慶司は睨み付ける。
どこまでも舐め腐っていて、どこまでも底知れぬ強さ、雰囲気。だからこそ目の前のこの男が気に入らなかった。
蕪世は、腰元の鞘から剣を取り出す。刀とは違い、大ぶりの――……直撃したら腕一本は確実に斬りおとされる。
「大金積まれてんだ。死んでも渡さねぇ」
「死んでも返せ」
お互い、正面から攻撃を仕掛ける。蕪世は剣を上から振り下ろす。
慶司は――「視た」。己の真眼で、斬撃の急所――いわば「攻撃を掻い潜り、敵に一撃を与える部位」を。
かといって戦闘慣れしているこの男ではただ「視る」だけでは攻撃を防がれて終わり。
だから――……。
「は?」
『敢えて、奴の攻撃を受け止めた』。とはいっても馬鹿正直に受け止めたら流石の慶司も死を免れない。
だから脳天を突き刺されるところを、ぎりぎり寸前、額の切り傷程度にとどめ――、蕪世の剣を持っている腕を確実に自らの手で固定し、そのまま頭突きした。
海岸中に響き渡る鈍くて低い衝撃音。
「……くっ……。そ、がぁ……っ」
「クソガキの頭はもっと固てぇぞ」
慶司の言葉に、今まで笑みしか浮かべなかった蕪世は初めて額から流血しながら睨み付けた。
そんな彼に、慶司は左親指を下に向けながらはっきりと言い放つ。