複雑・ファジー小説
- Re: ヒノクニ ( No.8 )
- 日時: 2020/04/28 19:22
- 名前: ルビー ◆B.1NPYOoRQ (ID: YGRA.TgA)
「はぁっ、はぁっ……。時間が無いわ、見つかってしまう……。其の前に『ヴィヴィシタム王国』に定期連絡をしないと……。……こちら、宇津木只今現在……」
人通りが少ない掘っ立て小屋に息を切らしながら転がり込む宇津木。
どうやらここが潜伏場所のようだ。
宇津木は一般人ならあまり見覚えのない通信機器を取り出した。
「ふんっ!!」
わたしは宇津木の背後から棍棒——何とか棒で彼女の腕ごと通信機器を叩き潰した。
衝撃が強かったのか、通信機器はバラバラに大破した。
宇津木は負傷した腕を庇いながらわたしを鋭く睨み付ける。
「お前……っ! よくも、よくも、よくも……! 今回のはただの始まりに過ぎない、邪魔をするな! 圧制者に服従する奴隷め……っ!」
宇津木の額から脂汗が滲む。
彼女はこの後——つまり、自分の末路が分かっている。
この国を裏切り——未遂とはいえ、罪のない権力者を陥れた。それはつまり、「皇帝」に仇為す行為と同じ。
彼女に何があったのかはわからない。
きっとわからないだろう。
けれど、意思ある限り完璧な統治などないのだ。それが、人を超越した仙人であろうとも。
それでも、前へ、良い方向へしていくのが上様(あのひと)の使命。
——だから、わたしは。
「アンタの判決は上様が決める。けど安心しな。もしあのお方がこの国を滅ぼそうとしようとしたら——……」
成葉は、宇津木の襟首を乱暴に掴んだ。
「そん時はわたしたちが、いや、わたしが潰す」
その表情に、その言葉に、宇津木は小さくため息をつき項垂れた。
本当の意味で降参したのだろう。
「……そう。あなたの方がよっぽど覚悟しているのね」
宇津木は、一筋、涙を流す。
「さよなら」
※
「え〜っ!? 婚約一時停止!? 何ですかそれ何でもありですね……」
「さすがにわたしもびっくりしたわ〜! 金があれば何でもできるってことだな」
その日の夜。
上様に宇津木のことも含めた一通りの報告をし終わった。
時刻はもう夜中を迎えていたが——わたしは今日の事件を報告書としてまとめなきゃいけない。
上様のお城のとある一室にて——絢爛豪華な銀髪に大きな赤い瞳に目鼻立ちが整った猫の耳と尾が特徴的な美女、花緒(はなお)とともに事務作業を行っていた。
見ての通り猫又である花緒さんは主にこの国の経済を管理し、調節するいわば屋台骨。彼女無しにこの国の経済は立ち行かない。
「私(わたくし)だったら絶対そんな男呪いまくってやりますけどねぇ……。一週間ぐらい下痢をし続けたり、漬物の石に小指をぶつけ続ける呪いとか……」
「陰湿すぎない?」
まぁ、確かに少しは分かる気もするが……。
あれからあの2人は数時間話し合った結果——秦様は改めて自分の将来を固めるために外の国へ勉強しに行くようだ。
紅も同意し、彼女自身も改めて護法を含めて勉強しなおすようだ。
秦様の勉強期間は4年。卒業を目途にまたそこから決めていくらしい。
「というかもっと時間をかけて結果を出すと思ったけど」
紅は城に戻る間際、
「ありがとう成葉! 秦様も感謝していたわ。もっと私自分に磨きをかける。何でもできる様に、誰かの所為にしなくてもいいように精進するわ」
力強くそう言っていた。
何だか、わたしも頑張らなきゃいけないなぁ。
自然に口角が上に上がっていく。こうしてまた眠ることのできない夜が過ぎていく。