複雑・ファジー小説
- Re: ハートのJは挫けない ( No.11 )
- 日時: 2018/04/26 15:47
- 名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)
俺が完全に呆気を取られていると、兄さんがそれに応じた。クソ、さっきから驚かされっぱなしだ。やはりただ者じゃないぞコイツ。そしてすぐに応じる兄さんもただ者じゃない。そう思った。
「確かに、持っている」
「……ホウ。では詳細を求めるのデス」
「……いやまずはこの条件で情報を一つ。お前の事だ。恐らく小分けで情報を渡していくつもりだろう?」
「む、バレていまシタか」
バレていたのではなく、単純に兄さんは心を読んでそれを予期したのだろう。勿論、それを深探が知ることは無いだろうが。
しかし兄さんのハートの力では思考は探れても、触れない限り記憶は探れない。個人情報などのアイデンティティのようなものたちは読み取れるが、それ以外は直接聞くしかないのだ。
「ではお伝えするのデス。ボクは昨日、貫太クンが知らない男性と歩いているのを見かけまシタ。見た目は金髪で年齢は若い方デス」
「……なるほどな」
サラサラとメモ用紙を取り出して筆を走らせる兄さん。
「ではこちらからも。俺達はハートと呼ばれる異能を有している」
「ハート……ふむふむ」
「ハートを持つ人間の事をハート持ちと呼ぶ。またハートの力は必ず《心を○○する力》のように心に働き掛けるものだ」
「ナルホド……精神に影響を持つ力。それがハートデスか」
「……お前の番だ」
「ボクはお前、ではないのデス。深探観幸という名前があるのデス。……因みに、アナタの名前は?」
「俺は友松見也。そこにいる友松共也の兄だ」
兄さんが俺を指さしながらそう言う。深探は一度俺達の名前を口ずさんだ後、話を戻す。
「ではコチラもお答えするのデス。貫太クンはその後、こんな事を言っていまシタ。この人を教会に案内する、と」
その言葉を聞いて、兄さんがポケットから先日俺に見せた地図を取り出す。学校に印が付いていたり線が引かれているが、今注目すべきは別の場所だ。
「教会教会……っつーとこの和泉教会って所か?」
俺が一番に見付けた教会らしい場所に指を置く。和泉教会。確か最近、新しく出来た教会だとかなんとか。しかし深探は首を横に振った。
「それだとツジツマが合わないのデス。和泉教会までの道は先ほどボクが通った場所は通らないのデス。しかし貫太クンと出会ったのはあの交差点だったのデス」
深探は兄さんの持つ地図に背伸びをして自分の指を置いた。地図上のそこには、何も載っていない。
「何してんだ?」
「ココには以前、教会があったのデス。最も今は廃墟となっていますが……廃墟というのも怪しいくないデスか?」
「確かに……」
「ボクは知る情報はこれだけデス」
そう深探が言うと、兄さんは歩きながら話そうと提案した。三人で歩くと歩幅の関係で深探のみ早歩きのような歩き方となる。
「……先ほどの続きだが、ハートの力は精神に働き掛けるだけではない。ハートの具現化、という現象がある」
「具現化?」
「そうだ。ハートの具現化とは、本来相手や自分の精神に対して起こす現象を、現実を対象にして起こす行為だ」
「例えば?」
「そうだな。例えば心を壊す力を持ったハート持ちがいるとする。そいつがハートの具現化をすれば、そいつは心だけでなく物体を破壊する力を得る」
「フム……つまりハートの力は物理にも作用する」
「ああ。だがハートの具現化が出来ないハート持ちも珍しく無い。その逆もあるがな。……以上だ」
「フフフ、ありがとうなのデス」
嬉しそうな表情を浮かべながらメモ帳を鞄にしまう深探。今までそういった表情を浮かべる印象も無く、意外に感じた。
「なぁ深探、ついでに一つ聞いていいか?」
「なんデス?」
「どうして不思議な力があるか、なんて聞いたんだ?」
率直な疑問。そもそもどうしてコイツはこんな事を思ったのか。謎でしかなかった。常識的に考えてみれば、いくら追い詰められたからといって相手が異能を持っている、なんて思いもしないだろう。
「簡単な事デス」
口に咥えているパイプを、右手で持ち上げて二、三回クルクルと器用に手元で回した後に、深探は言った。
「偶然、ってヤツなのデス」
その答えに、思わず間抜けな声が出た。咄嗟に横を見ると、兄さんも驚いたような顔をしている。かなりレアだ……。
「偶然……ってつまり、何の根拠も無く聞いたのか!?」
「ハイ。アナタに関しては以前から超能力を持っているのではないかと疑っていまシタが、先ほどの問いは完全に偶然なのデス」
「……まさか、あの土壇場で不思議な力、なんて唐突に言い出したのには驚かされたが……なるほど、偶然、か」
感嘆の込められた口調で納得する兄さん。俺としては全く納得出来ないし、なによりあの場でそれを聞き出すコイツの精神も分からない。
「結果、アナタタチはハートと呼ばれる技能を有していたのデス。フフフ、コレはボクにとって大きな一歩なのデス。やはり、超能力は存在していたのデスから」
嬉しそうに顔を綻ばせながら語る彼に、ますます同様を隠せないが、まあひとまずは黙っておく事にした。
そこから少し歩いた所で、唐突に深探がその歩みを止める。少し遅れて俺も止まると、俺達のすぐ横には、正しくボロボロと言った姿の教会があった。もう何年間放置されているのか分からないレベルだ。
立入禁止の看板がぶら下がる、鉄格子の扉に付いているロックは、鎖だけと何とも緩い。しかも鎖に関しても、南京錠などは付けられておらず、ただ巻いただけだ。
「サ、どうするのデスか?」
「どうもこうも、入るしかねぇだろうがよ」
鎖を解いて鉄格子の扉を開ける。ギィギィと錆びた関節が悲鳴を上げる事に放置による劣化を感じつつも、雑草だらけの道を通り、教会の前へと行く。扉扉の周辺は不思議と、ホコリのようなものがない。
「……深探。お前は此処で待っていてくれねぇか」
「わかったのデス。……もしもの時、ボクは足でまといなのデスね?」
「……ワリィな」
「いえいえ、物事には適材適所があるのデス。ボクは頭脳労働で君は肉体労働。今回はキミの出番、というだけなのデス」
「……サンキューな、深探」
快く承諾してくれた深探に感謝しつつも、兄さんと軽く頷き合う。そして意を決して、その協会の巨大な扉を、そっと触れて、勢いよく押して開いた。
光が差し込む教会の中。中は少し暗いが自然の光が入ってくるおかげか幾らか暗室に比べれば明るい。だから、俺でも見つける事が出来た。
「貫太!」
貫太は丁度、教会の中央を走る赤い絨毯の上に倒れていた。急いで貫太の元に向かう。それはもう、必死で。
「おい大丈夫か!」
急いで駆け寄ってそこに跪く。しかし全く反応が無く、何度肩を叩いてもビクともしない。背中に、じんわりと嫌な予感が広がった。
それと、兄さんの言葉が飛んできたのは、ほぼ同時だった。
「共也! 背後に跳べ!」
その言葉を聞いた瞬間、貫太の制服を掴んだ後に思いっ切り床を蹴って飛んだ。そして、目の前を何かが高速で通り過ぎて行き、思わずゾッとする。
「おや、外れてしまったかな」
そいつは教会の椅子の辺りから、ぬっと姿を現した。恐らく、椅子のところにしゃがんで隠れていたのだろう。薄暗いこの部屋で隠れていたことに加え、俺の意識は完全に貫太に向かっていた事を考えれば、気が付かなかったのも道理と言える。
「誰だテメェ! お前が貫太を連れ去った野郎か!」
「如何にも」
そう答えたその男が、薄暗い場所から光の差し込む絨毯の上へと出た。神父のような服装の、金髪の男だった。
「ようこそ、僕の協会へ」
その男は、両手を広げて俺達を歓迎するかのように、怪しい笑みを浮かべながらそう言った。
次話>>12 前話>>10