複雑・ファジー小説

Re: ハートのJは挫けない ( No.2 )
日時: 2018/04/21 15:18
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ (ID: KLUYA2TQ)

 不良達が逃げ去った後に、二人は相対する。見比べてみると、確かに二人共赤の他人には見えないほど雰囲気が似ていた。

「どうしたんすか兄さん。こんな田舎町に来て」
「そうカリカリするな共也」
「とぼけてんじゃねぇ!」

 が、どうやらあまり仲が良い方ではないらしい。少なくとも、共也君は見也さんに対して当たりが強い。

「……俺はお前を連れに来たんだよ。共也」
「はぁ!? 何言ってんすかアンタ!」
「冗談じゃない。本気だ。お前はこんな所で腐らせておくには勿体無い人ざ……おい、俺を殺してやろうなんて一時の気の迷いでも考えるんじゃないぞ」

 そう言った直後、共也君の右拳が見也さんの顔面に向けて放たれた。が、僕がそれを言う前にその拳は見也さんの手のひらに受け止められている。
 途端に、今までの態度とは違ったものを見せる共也君。彼は何をトリガーにそこまで怒るのだろうか。

「兄さん……アンタよぉ! たった今! こんな所でなんて言い回してこの街を侮辱しやがった! 俺のばーちゃんが愛したこの街をなぁ! アンタには一度痛い目に遭ってもらわなくちゃならねぇみてぇだなぁ!」
「やめろ馬鹿。部外者もいるんだぞ」

 部外者、とは僕の事だろう。正直、傍から話を聞いていても全く話が掴めない。彼らのことを知らないから当然と言えば当然だが、何故か仲間外れにされているような気がする。

「……チッ。この為の保険ってわけですか。クソ兄貴が」
「全く……やれやれだ」

 二人が似たような動作で肩を竦めた後に、共也君がそういえばといった表情で僕の方を向いた。

「所でお前、なんて名前だ? 俺は友松共也」
「ああ、針音貫太だよ」
「そうか。貫太か……で、俺と同じ学校……学校? ……あ」

 ふと、彼が呟くように学校と反復する。学校でなにか思い当たる節があるだろうかあったそうだ始業時刻だやばいあと少ししかない。

「やばいよ! あと十分しかないじゃないか!」
「おい貫太! 行こうぜ! 走るぞ!?」

 慌ただしく走る僕らを、見也さんはずっと見ていた。正確には、共也君の方をだろう。

「どうして力を使わないのか。分からん奴だ」

 僕はその言葉を聞き取った後に、焦りのせいですぐに忘れてしまった。



「怪しいデスねぇ。貫太クン」
「……なんだよ観幸君」

 前の男子生徒──深探観幸(ふかさぐり/みゆき)が教室で机に座っている僕に、ルーペ越しに如何にも疑ってますよ感を全開にした目線を向けてきた。口で中身がカラのパイプを咥えている。お前それ校則大丈夫かと言いたくなるが、敢えて黙っておこう。
 深探観幸。こんな名前だが男だ。見た目に関しても、特に女性らしさは感じられない。とは言っても身長150cmしかない彼から男性らしさを挙げろと言われれば、それはそれで難しいのだが。彼の親は探偵らしい。というのもその姿を一度も見たことがないので信じられないだけだが。また彼は成績も平均的なものだが頭は良いと自称しており、「能ある鷹は爪を隠す……フッフッフ、つまりボクは自らの学力を隠すためにワザと低い点を取っているのデスよ」というのが彼の主張だ。損しているのに早く気が付け。

「今日、同じクラスの友松共也クンと一緒に登校してまシタね?」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「キミィ、もしかして彼の噂知らないのデスか?」

 僕が訝しげな目線を向けると、彼はやれやれとこちらにルーペを向けるのを止めて話し始める。

「やれやれ、これだから情報収集を怠る人間はダメなのデス」

 うるさい。

「彼……友松共也クンには不思議なウワサがあるのデス」
「へぇ、どんな?」
「超能力者かもしれない、というウワサデスよ」
「……………は?」

 流石に付き合いの長い僕でもこの発言は固まってしまった。超能力者、なんて何をバカけた事を言っているのだろうか。

「エエ、その反応は予想済みデスとも。デスがボクは分かったうえで敢えてキミに教えたのデスよ?」
「でも、超能力者なんて……」
「ニワカには信じ難い事なのは分かるのデス。が……最近ボクも探偵業で少しばかり不可解な事がありまシテ」

 何だか彼の雰囲気がホラ話をしている様子では無さそうなので、黙って聞いている事にした。お前は自称探偵だろというツッコミも控えておく。

「最近の事件の一つにデスね、どうにもおかしな事件があったのデス。まあ概要はよくある殺人事件だったのデスが……その遺体には刺し傷や打撃痕どころか擦り傷一つすら付いてなかったのデスよ」
「……でも、それなら絞殺とか毒殺とか……」
「絞殺なら線状痕が残るのデスが……まあそれはとにかく、ボクも毒殺を疑ったのデスが……」

 ここで彼は自分の机に置いてあったパックのカフェオレを口に含んで一呼吸を置く。そしてこう続けた。

「死因は大量出血だったのデス」
「……え?」
「おかしいデスよね? 傷どころか手術痕さえ見られなかったのに、出血による死亡なんて有り得ないのデス。が……これは事実として起こっているのデスよ」

 思わず、唾を飲み込んだ。
 僕の様子に気が付いたのか、彼はわざとらしく咳払いをして話を再開した。

「とにかく、そんなこんなで世の中にはザッツ不思議な怪奇現象もあるのデス。よってワタシは友松共也クンの噂もまた真であると考えているのデス」
「そういえば、共也君の噂って?」
「それはデスね……彼は何かを引き寄せる力があるのではないか、というのが私の推理デス」

 引き寄せる力、と聞いて少しだけ何か引っかかった気がした。

「どうして?」
「先日の事デス。ボクが購買に行って残り一つだったサンドイッチを取ろうとしたら、いつの間にか消えていたのデスよ。そしてスグ近くでは彼がボクが買おうとしていたサンドイッチとそっくりなものを買っていたのデス」
「……そんなの、観幸君が目を逸らしてる内に誰か誰か取って行ったんじゃ?」
「ボクのカンが言ってるのデス。彼が買ったのはボクが買おうとしたものだと」
「そんなアホな……あ、でも」

 そういえば、と先程の公園での光景を思い返す。確かに、彼には一つ、おかしな事があった。

「思い出たるフシがあるのデスか?」
「えーっと……確か今日公園で……そう、5メートル以上離れてる人が持ってたものを……気がついたら手に持ってた……気がする」
「言い方が弱いデスねぇ」
「し、仕方ないじゃないか。あんな急な出来事だったんだから」
「まあ分かったのデス。これでより一層、ボクの推理が固まりましシタ。フッフッフ、やはりボクの推理はパーフェクトデスね」

 しかし何かまだ引っかかっる。そうやって考えていると、また思い出した。そう。彼のもう一つのおかしな現象。

「後、さっきと同じ状態で5メートル離れた所から一気に距離を詰めてたよ。走ったとかそんなんじゃなくて、一瞬で」
「……なんデスって?」
「嫌だから、気がついたら距離が詰まっていたというか……」
「むむむむむ……これはボクの推理が怪しくなってきたのデス……」

 そのまま探偵もどきは頭を抱えて長考状態に入ってしまった。何やってんだと思いつつも、僕はゴミ箱にパンの袋を捨てた。

「超能力者なんて、居る訳が無いのに」

 その言葉も一緒に、ゴミ箱に捨てて置いた。

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