複雑・ファジー小説

Re: 題名つけるの難しいね ( No.1 )
日時: 2018/09/10 07:23
名前: 土高 (ID: n0SXsNmn)

 ──人間だけで空を飛べるか。

 そう問うたなら、この日本に、いやこの世界に生きる者の多くはこう答えるだろう。
 飛べないと。
 完璧な答え。エクセレント、最高。全くもってその通り。この世界においてこれ以上の回答はあり得まい。
 では今度は違う質問をしてみよう。

 ──人間だけで空を飛べるか。

 すると、ほとんどの者は少し首をひねりながら、あるいは質問を再度聞き直して、結果、また同じ回答をするはずだ。
 であれば最後にもう一度。今度は別のクエスチョンを投げかけてみるとする。

 ──人間だけで空を飛べるか。

 聞かれてまた同じ答えを口にする者は、どれくらいいるだろうか。三度繰り返されたその問いに、寸分違わず回答できる者がどれほど存在するだろう。バカバカしいと怒り出す者や、何か意図があるのではと勘繰る者、呆れて問いを無視する者だっているだろう。仮に先の答えを再度口にしたとして、全く同じトーン、同じ意図で言える者は少ないのではないだろうか。

 一言一句変わらない言葉であっても、何度も何度も繰り返されれば、それを受け取る者は勝手に解釈を始める。どれだけ機械的に無機質に言ったとしても、その文字面の意味それ以上の意味を伴って、受け手側に届いてしまう。
 どうしたって言葉はそのままではいられない。

 俺は特にそうだ。意見を否定して自分の意見を押し付けてしまった。でも、死んで欲しかった訳じゃないんだ。
喧嘩なんて可愛いもので済むような話じゃない。最低でバカでクズのやる所業だ。悪いと思っている。後悔している。それでも人間だけでは飛べないと信じている。
 あいつが夕焼けに溶け込んだ、あのときの光景は、おぞましいくらいに綺麗で、おどろおどろしいくらい美しかった。





 世界の終わりは穏やかに可視化される。恋い焦がれるように紅蓮に燃える夕映え、鮮血でしとどに濡れた赤い月。空から落ちてくる機械仕掛けの神。種が死に絶えても、個が阻まれても。隣に立つ少女の美しさはいささかも否定されない。

 「飛べるもん!絶対飛べるもん!」
 「人間だけで飛べるわけねぇだろ!!」
 「じゃあ見せてあげるよ!本当に飛べるんだから!」

 そうじゃない。そうじゃないんだ。お前の意見を否定したけれど、言い訳がましく聞こえるかも知れないけれど、結果的にそうなってしまっただけで。人間だけでは飛べないから、落っこちて死んじゃうぞ。でもお前に死んでほしくないから飛ぶな。そういう意味なんだ。そう教えたかったんだ。だから、お願い、飛ばないで。飛んで逝かないで。
 夕焼けに溶け込むあいつの小さな背中だけが、俺の記憶に焼き付いた。