複雑・ファジー小説
- Re: 題名つけるの難しいね ( No.2 )
- 日時: 2018/09/12 18:47
- 名前: 土高 (ID: nZxsmZ3d)
桜は嫌だ。桜を見ると、私の心の奥底にある小さな何かがずきんと痛む。
しかし、今は春だから。二駅と徒歩15分先にある学校に通うまでの道のりにはたくさんの桜が咲いている。ひらひらと宙を舞って地面に落ちる様は、儚いと思った。桜が嫌だけれど、なくなってほしい訳じゃないし、見たくない訳でもない。綺麗だと思う。ただ、何となく、嫌なのだ。
『あははっ!』
脳に残る耳障りな甲高い声。まるで漫画に出てきそうな笑い方であの子は笑っていた。いつも、笑っていた。形のよい口を大きく開けて、本当に心の底から楽しそうに、愉快で仕方がないと言わんばかりに、あの子は独りで笑っていた。
あの子の笑い声とともに、視界が急に、一面真っ青になる。空のように清くもなく、湖のように静かでもない。サファイアのような高貴さもなく、ネモフィラのような可憐さもない。
ただ、ただ、青いのだ。無機質な絵の具のように。目の前の舞い散る様を鮮やかに魅せていた桜の花弁は、とたんに薄桃色から青へと変わる。青い桜。
私は脳内の映像を頭をふってもみ消す。だんだん視界が晴れてきて桜が薄桃色に見えるようになった。こんなこと考えるのはよくない。せっかくの入学式が台無しだ。
電車ががたんと揺れる。窓から見える景色は初めて見るものだった。大都会とまではいかないが、私が住んでいる場所と比べると、まるで未来のSF映画のワンシーンみたいだ。緑の田んぼと少しのコンクリートが顔を出しているような場所ではなくて、銀色の高くそびえ立つビルとコンクリートの上を走る大小様々な車が日常的な場所だ。
アナウンスと共に電車を降りて15分程歩くと、それは見えてきた。
二酸化炭素と灰色で埋め尽くされそうな場所にも、ほんの一握りだが自然を壊さず調和した建物が存在するのだ。それが私が今から通う学校である。
眩しいくらいの白い壁の校舎は汚れや損傷が少なく、建ったばかりの学校なのだとわかる。校門をくぐって昇降口に向かう途中、数人の教師に会った。軽く会釈をするぐらいだったが、あまり感じの悪そうな人はいなかったので少しほっとした。都会という言葉に少し緊張と警戒心を持っていたが、そこまで身構える必要はなかったようだ。
「海」
「わっ」
背後からいきなり声をかけられてびっくりした。後ろを振り返るとみこちーがいた。入学式だからだろう、髪型がいつもよりだいぶこっていた。
「おはよ、海。」
「おはよう。もう、びっくりしたじゃん」
「だってそれが目的だもん」
「髪、可愛いね。」
「おっ?ほんとほんと?」
「嘘」
「ええっ、ひどいよぉ」
「嘘だよ」
「え?嘘?じゃあ…」
「これも嘘」
「んん?そしたら…嘘の嘘でそれも嘘だから…あーもう!わかんない!」
よかった、いつも通りのみこちーだ。みこちーはこういう入学式とか、一大イベントに少し弱い所があるから心配したけれど、思ったより元気そうだ。
今はまだ、青春とはあまりにも呼びがたく、薔薇色とは程遠い、高校生活。漫画のような展開には必ずしもなるわけではないし、映画のような結末も迎えない。それでも中学生の頃の悪夢のような日々から抜け出すために、塗り潰すかのように私はこの高校まで来たのだ。せめて平凡で普通でまともな学校生活を送りたい。