複雑・ファジー小説
- Re: 題名つけるの難しいね ( No.3 )
- 日時: 2018/09/09 22:05
- 名前: 土高 (ID: n0SXsNmn)
生暖かい風が吹き、やっとクラスメートの皆の名前を覚えられた5月。
「ねえ、ちょっと、そこの一年生。」
「は、はい」
背後から声がして一応返事をした。私は一年生だし、すぐ近くで声がするし、背中をツンツンされてるから、呼ばれているのは私で合っていると思う。私は後ろを振り向いた。
後ろに立っていたのは長い黒髪の女子だった。制服のリボンが赤ということは三年生だ。そして私に三年生の知り合いはいない。まだ入学して1ヶ月、三年生と関わるイベントはなかった。もちろん私が学校で有名になるほど目立つこともしていない。三年生が私を呼ぶ理由なんて見当もつかなかった。
「私は金谷聖子。君、名前何て言うの?」
かなやきよこ。知らないし聞いたこともない。というか、かなや先輩は名前も知らない赤の他人に声かけたのか。
私と三年生がいる場所は校門前だった。私は少し学校に早く着きすぎて、誰もいないと思いながら昇降口に向かおうとしていた時だ。
「浜辺海です。」
「浜辺海ちゃん!あのね、いきなりで悪いんだけど、私の推薦責任者になってほしいの。」
すいせんせきにんしゃ。推薦責任者。って、生徒会役員選挙のことだろうか。確か昨日HRで先生が、5月は生徒会役員を決める選挙があるって言ってたな。立候補したい奴は推薦責任者を決めて先生に言えとも。私はそれを他人事のように聞いて頭の片隅に入れた。
改めて考えてみよう。私の推薦責任者になって、か……え、この私になれと?
「わ、私がですか?」
「うんうん」
いやまあ、今までの会話の脈絡からしてそりゃそうだよね。え、本当に?
「何でですか?」
私は純粋に疑問に思ったことを質問した。正直、やりたくない。面倒くさそうだし、責任重いし、目立ちたくない。
「5月ってさ、一年生はやっとクラスの皆の名前覚えられたような頃でしょ?」
この人はエスパーか何かか。
「はい、まあ…」
「でさ、三年生との交流なんて全然なかった訳じゃん。でも生徒会に立候補するのは殆どが三年生なの。一応演説はするけど、よくわからない人に演説されてもどの人も同じように見えると思うんだよね。特にこの人がいいって思う人がいないのに投票しろなんて言われたら適当に投票するじゃない。そういうのって私悔しいからさ」
「はあ…」
「でも、自分と同じ一年生がいたら変わると思うの。候補者のことなんて全然知らなくて、自分達には関係ないやって思ってるところに一年生がいれば、きっと興味を持つし、ちゃんと考えてくれると思う。」
「へえ…」
私は一年生を推薦責任者にする理由じゃなくて、どうして私にしたいのかを聞きたかったんだけどなあ。まあ、知っておいて損はないだろうけど。それに先輩の言っていること自体には納得できるし説得力もある。この人頭良さそうだな。
「でも何でわざわざ私にしたんですか?」
「私一年生に知り合いいなくてさ。だから今日朝一番に学校に来た子にしようと思ったの。」
「は?」
いけない、先輩には?なんて生意気なこと言っちゃった。でも仕方ない気がする。先輩のそんな意見を聞けば誰だって言うよ。知り合いいないからって、そんな適当に決めていいのか。さっき先輩のこと頭良さそうって思ったのに……この人、もしかしたら天然っぽいところがあるのかもしれない。
「でも私」
「海ちゃん真面目そうだし、よかったあ。」
先輩は私が話そうとしている途中に無理矢理割り込んできた。私はそれに負けじと言い直す。このままだと私が推薦責任者に決まったような雰囲気になる。負けるな私。
「でも私、頭良い訳でもスポーツできる訳でもないですよ。他の人より特別できることなんてありません。」
「いいんだよそれで。むしろそっちのほうがいい。今日は運がいいなあ。」
なんか断り辛くなってきたな。私がまるで推薦責任者になることを承諾したみたいな雰囲気だ。
「じゃあ、よろしくね、海ちゃん!」
「え、あ……はい……」
かなや先輩はそう言って昇降口に向かって走って行ってしまった。私は今の現状に頭がまだあまり追い付かなくてただ呆然と立ち尽くすだけだった。なんか、台風みたいな人だったな。ばっと現れてばっと去っていく。かなやきよこ先輩、か。
「おはよ、海。」
「わっ」
後ろを振り向くと、みこちーが笑顔で立っていた。しまった、今日も驚いてしまった。くそう、こいつ嬉しそうだな。もう引っ掛からないぞってかなや先輩に会う前までは思ってたのに。むしろ私がみこちーを驚かしてやろうと思ってたのに。かなや先輩が色々と強烈過ぎて忘れてしまっていた。
「誰?あの先輩。」
みこちーがそれを尋ねるということは見てたのか。ふと周りを見ると既にたくさんの生徒が来ていた。そろそろ私達も教室に行かないと。私はみこちーと歩きながら話した。
「かなやきよこ先輩っていう三年生。」
「金谷聖子先輩ってあれじゃん。有名人じゃん。」
「え、そうなの?」
私知らないんですけど、そんな有名人。何故なんだ、同じ小学校から同じタイミングで入学したのに。何故みこちーの方が私より先輩のことを知ってるんだ。恐るべし、みこちーの情報収集力。
「そうだよ、知らないの?頭良し、運動神経良し、性格良し、見た目良しの四拍子揃った完璧人間だよ。次期生徒会長は金谷先輩で決まりだって噂されてるよ。」
「へえ…」
そうだったのか。全然そんな風には見えなかった。というかそんな完璧人間、この世に本当に存在するんだな。だから私みたいな人間が生まれるのか。
改めてかなや先輩を思い出してみる。確かに頭良さそうだなとは一回思った。一回。性格もまあ、悪そうではなかった。断れない雰囲気をつくられたけど。見た目も、そう言われると美少女に思えてくる。あまり顔は覚えていないくて記憶の中のぼやぼやと霧がかかったかなや先輩の顔が、とたんに美少女になる。
「で?金谷先輩と何話してたのよ?」
「あー……」
そんな有名人の推薦責任者に私がなった、なんて言ったらすぐに噂が広まりそうだ。私は目立ちたくない。それに普通の、もしかしたら普通以外の私が、完璧人間金谷先輩に釣り合う訳がない。嫌味を言われること間違いなしである。ここは言わないでおこう。
「…秘密」
「えー!何で!?」
「いいから秘密!秘密って言ったら秘密!」