複雑・ファジー小説
- Re: 題名つけるの難しいね ( No.4 )
- 日時: 2018/09/10 11:17
- 名前: 土高 (ID: n0SXsNmn)
私が誰にも先輩とのことを言わなくても、選挙活動をしていればそりゃばれてしまう訳で。今私と先輩はポスターを各階にいくつか存在する掲示板に貼るという活動をしていた。
丁度皆が帰る頃、私と先輩を含める生徒会役員選挙立候補者や推薦責任者は学校に残って選挙活動。これがあと3日程続く。
確かに面倒だが、それはまだ我慢できる。何より一番辛いのは皆の視線だ。皆は帰らずにポスターを貼っている私と先輩をじろじろと見ている。視線が痛い。
何であの金谷先輩にあんな一年生が…そんな風に思われているのだろう。自分でも思う。三年生の教室がある四階にポスターを貼りに行ったとき、学年別テストの順位が書かれた紙が壁に貼ってあるのを見た。金谷先輩は堂々の一位だった。それにいつも周りの人に囲まれていて、まさに人気者だった。
だというのに、何故私がそんなすごい人の推薦責任者をやっているんだろう。今からでも辞められないかな。でも今辞めたら周りは、やっぱり金谷先輩にあんな子釣り合わなかったのよ、辞めてよかったわ、身の程を弁えることね、みたいな風に思うのだろう。それはそれですごく悔しい。
いっそのことやりきってやる。皆をぎゃふんと言わせるような──なんて、できるわけないか。
「先輩、やっぱり私」
「海ちゃん、画ビョウ」
先輩はポスターを掲示板に貼りつけるための画ビョウをくれと手を差し出してきた。本当にこの人、人の話聞かないな。私はケースに入った画ビョウから出来るだけ形のいい画ビョウを選んで、丁寧に先輩の手のひらにひとつのせる。
「ありがとう」
「先輩、私」
「嫌?」
「へ?」
先輩はポスターを貼り終えると、私の目を見て言った。
「私の推薦責任者になるのは嫌かな」
「嫌……というか、私にはちょっと荷が重すぎるというか……」
「大丈夫だよ、私がほとんどやるし」
「そういうことじゃなくて……」
先輩のその寂しそうな、捨てられる直前の子犬みたいな瞳を見るとどうしても断りきれない。はっきり言えない。
「ダメ?」
「えっと……」
「お願い!海ちゃんしかいないの!」
「うっ……」
この人断ったら本当に泣きそうだな。そんな熱のこもった瞳で見つめられても困るよ。その懇願するような手はなんなんだ。胸の前で手を組んだって、上目遣いの濡れた瞳だって、全部、どうでも、いいん、だから、な……
「わかりました!やりますよ!やればいいんでしょ!」
「やったー!海ちゃんならそう言ってくれると思ってたよ!」
この人私が押しに弱いのわかっててやったな。全く、油断も隙もないったらありゃしない。なかなか侮れないぞ。
すると先輩はいきなり私に抱きついてきた。人懐っこいなあ。懐に入るのが上手いっていうか、愛嬌があるっていうか……確かにこんな可愛い先輩に抱きつかれたりお願いされたら男子も女子もいちころだ。人気者なのも頷ける。
「先輩、そろそろ退いてください」
触れ合うのはそんなに好きじゃない。ましてやまだ会ってから数時間しか経っていない人からなんて、いくら先輩だからって好きにはなれない。
「ご、ごめんね!えへへ…」
「さ、早く次行きましょう」
「うん、次は一階だよ」