複雑・ファジー小説

〜前日譚〜 ( No.1 )
日時: 2018/05/02 23:17
名前: 林檎川 (ID: KE0ZVzN7)

「もし世界が俺達二人を拒んだら、その時はどうする?」

 少年は問う。
 無慈悲に降り注ぐ雨で涙を隠しながら。

「そんな事よりお腹すいた、何か食べよ」

 少女は答える。
 掠れた声を精一杯誤魔化しながら。


 二人は黒く淀んだ空を見上げた。
 血に染まった大地から目を背ける為に、太陽がいない空を見つめ続けた。
 少年が握る錆びた刀が、少女が浮かべる哀しい表情が。
 残酷な世界を、残酷たらしめていた。

 それでも少年は刀を手放さない。
 それでも少女は笑顔を繕う。

 二人なら大丈夫。そう信じてーーーー。



* * *

 人を喰らい生きる妖、生きる為妖を滅ぼさんとする人。
 数百年にも及ぶ争いの歴史は、血と憎しみで溢れている。それでも両者はお互いに分かり合おうとしない。生きる為には、奪うしかないのだから。

 そして時は巡り、今に至る。
 そこには、時代の終わりを告げる二人の姿があった。


 人と妖。
 彼らは、希望の架け橋となるのか。
 それとも、戦争の火種と化すのか。


 物語が、始まる。
 終わりを迎える為に。