複雑・ファジー小説

Re:     縹渺の路    ( No.1 )
日時: 2020/10/02 09:35
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: YhMlOecY)

 私は、他人の言葉を消費して生きている。

 どこかで聞いたようなフレーズ、誰かが言っていたような響き、昔の常識。とうに中身が失われた「言葉」という器に、どうやって中身を入れようか考えているだけなんだ。

 器の大きさは変わらないけれど。

 そうやって消費しつくされた言葉は、道端に転がる石ころのように見向きもされず、ただ、そこにあった。空っぽな響き、綺麗なだけの言葉は三日で飽きるとはよく言ったもので、流行り廃りに振り回され、「死語」の烙印を押されたらもうおしまい。物書きは、それを知っているのだろうか。消費しつくした言葉を手に取って、いつしか零れ落ちた中身をもう一度入れ直す。

「言葉」という器に新しい価値を創るために。

 忘れられた意味と、見落とされた常識を探す旅に出よう。曖昧で漠然とした、縹緲ひょうびょうたる路を進んだ先には、きっと、私の言葉が見つかるはずだから。