複雑・ファジー小説
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.3 )
- 日時: 2018/05/25 22:03
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: CSxMVp1E)
【 酸素不足。 】
ななちゃんの首にはいつも赤い手形が残っている。思いっきりぎゅーっと首を絞められたときに残るだろうその手形を、ななちゃんは隠すことなく今日もあたしの部屋のベッドで寝転んでいる。
あたしの好きな漫画の最新刊を読むななちゃんは、ふああと欠伸をして、こちらの様子を窺うようにじっと視線を送ってきた。
「なあに、ななちゃん」
その視線に耐えられなくなって、あたしはななちゃんに声をかける。まだレポートの途中なのに、パソコンを閉じて、ななちゃんのいるベッドに向かった。彼女が寝転ぶ近くに腰を掛けて、そのままゆっくりベッドに倒れこむ。となりでにこやかに笑うななちゃん。首の後ろには虫刺されみたいな赤いあとがある。それが何か、あたしは知ってたけどなにも言わなかった。
「あんたは、優しいね」
「どうしたの、急に」
「わたしのこの首絞められた痕を見ても、あんたは何も言わない。そういうとこが好きだけど」
ななちゃんはその傷痕に触れてほしいみたいに、あたしの手を自分の首に近づける。その手形はあたしがつけたものじゃない。あたしより大きな男の手のひら。きっとななちゃんの彼氏だ。
「嫌なら嫌って言えばいいじゃん」
「嫌じゃないんだ。わたしが求めてるの、彼に息を止めてもらいたいだけ」
ななちゃんは嬉しそうにあたしの手のひらを使って自分の傷痕を優しく撫でるように触った。呼吸が止まる感覚が好きなんだ。酸素が足りなくなって、脳が悲鳴を上げて、死にたくないと必死にもがく。その感覚が大好き、ななちゃんは思い出すように呟いた。
ななちゃんの冷えた皮膚はやわらかく、あたしが少し爪を立てると、すぐに赤く傷が残った。
ああ、この綺麗な首を絞め潰して、酸素不足にしてやりたい。そしたら、ななちゃんはあたしなしでは生きられなくなるだろうに。
ななちゃんは、思考回路がぶっ飛んでいる。あたしと同じだ。