複雑・ファジー小説
- Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.11 )
- 日時: 2018/07/19 21:00
- 名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)
【 君のいない夏に溺れる 】
夏は嫌いだ。日照りが強くなっていくたびに、日傘をさすおば様が増えていくたびに、蝉の鳴き声が煩くなるたびに、あたしは思う。首筋を伝う汗が地面に落ちて蒸発していく。吸い込んだ空気も熱くて、じわじわとゆがみ始めた視界が、あたしの気持ちをゆっくりと握りつぶしていく。
ほら、今日も。
いないじゃん、と浜辺を見渡しながらあたしは大きくため息をついた。待ってる、なんてあいつの言った言葉は嘘ばっかり。ペテン師だ。あたしの恋心を弄んだ詐欺師。糞野郎と大きな声で叫んでサンダルをはいた右足で白砂を思いっきり蹴り上げた。あたしの暴言は波音で消されちゃって、きっと誰にも聞こえてない。きっとあいつにも聞こえてはいないのだろう。
俺、待ってるから。お前のこと、いつまでも、いつまでも、
待ってるから。って、あいつがあの夏の日、今にも泣きそうな顔で無理やり笑ったくしゃくしゃの顔で、言ったから。だから信じた。あいつも信じてくれてたのかな、あたしが帰ってくるって。
あれから十年の月日が経ったよ。もうあいつが待ってるわけもないのに、わかってるよ。あたしだけがずっとずっとこの約束に囚われて、あいつのことを思い続けて、あいつの思いを殺したことを後悔し続けるって。
大きな声を上げてあたしは泣いた。十年前はこんなんじゃなかった。いつもあいつの隣で太陽の下、ひたすら走って海に飛び込んで、びっちゃびちゃになってひたすらに笑った。大好きだった、あたしもあいつも。きっと夏が好きだったんだ。
「好きだよ、好き、なんだよ……ばかあああああああああああ」
あたしの気持ちはこの夏と一緒に、きっと消えていく。
さよなら、あたしの初恋。と自分勝手に吹っ切って、きっと傷つけたあいつのこともあと数年で忘れちゃうんだろうな。じわじわと熱気が波風に運ばれてあたしを包み込んだ。サンダルを脱ぎ棄てて、裸足になって、あたしは熱の籠った砂の上を走る。青春は、あいつと一緒に過ごした夏とともに溺れて死んだ。