複雑・ファジー小説

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.12 )
日時: 2018/07/24 23:46
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)


【 夏の殺し屋 】


 聖くんが、死んだ日はとても暑い暑い日のことでした。

 「なんで、ひーくん死んじゃったの?」
 「知らねえ。世界に絶望したんじゃねえの。俺たちと一緒じゃん」

 聖くんは四十度を超えた室内で熱中症で亡くなっていたところを近所に住んでいる主婦に発見されたそうです。

 「ひーくんはどうしてお水を飲まなかったのかな?」

 脱水症状が酷かったらしい、何でそんなに苦しくなるまで聖くんはお水を飲まなかったのだろう。ちょっとでも体内に水分を摂り入れていたならばもっと違う結末だっただろうに。

 「ひーくんは、死にたかったからお水を飲まなかったの?」
 「じゃねえの。あいつはそんな奴だ」

 あたしたちは友達じゃない。あたしたちは仲間じゃない。あたしたちは運命共同体だ。生きるのも死ぬのも一緒に、って約束をしていた。もちろん聖くんも。死ぬなら言ってほしかった。そしたら彼を一人で逝かせなかったのに。

 「お前は聖のことが好きだったんだろ。だから勝手に旅立ったのが許せない」
 「ひーくんは、苦しんで死んだのかな」
 「夏の熱気と湿度の籠った電子レンジの中で、きっと泣きながら死んだんだよ」

 きっと、次は俺たちもだよ、とベンチの隣に座った山ちゃんはため息をつきながら首筋の汗をぬぐった。今日も気温は三十五度を超えている。あんまり外に出ないほうがいいと天気予報のお姉さんが注意を呼び掛けているのを思い出して、何でかちょっと笑ってしまった。あたしたちにとってはきっと室内でいるほうが苦痛だから。

 「ひーくんは殺されたんだよ」
 「俺たちも殺される」
 「今年の夏に殺される」
 「誰も救ってはくれない。俺たちは」

 エアコンも扇風機も何もない。窓を開けても熱で温められた温い風がやんわり入ってくるだけ。そんな部屋にあたしたちは閉じ込められる。暑いよ、熱いよ、泣いても誰も助けてくれない。なら、あたしたちはきっと外にいたほうが安全だ。

 「コンビニ、行く?」
 「お金ないよ」

 聖くんは死んだ、聖くんは殺された。
 あたしたちと同じ薬物中毒の親によって、見殺しにされた。あたしたちはお互い手を取って生きようって決めたばっかだったのに。今年の夏はどうにもできなかった。暑くて苦しくて、どうにもできなかった。
 お水が欲しい。体内が水分を欲する。でも、与えられない。飲めない水道水でもいい。あたしたちに生きる希望をください。