複雑・ファジー小説

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.13 )
日時: 2018/07/26 15:21
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)

【 スイートポイズン 】


 マカロン、シュークリーム、ザッハトルテに、ショートケーキ。パフェにクレープ、クッキー、ワッフル。生クリームとカスタード、チョコレートがふんだんに使われた甘い甘いスイーツはあたしたちの心を満たす最高の毒である。
 

 「うげ、気持ち悪い」
 「そんなこと言わないでよ、食欲落ちるじゃん」

 あたしが文句を言いながら口の中に宝石のような真紅の苺を含むと、真ちゃんはうげっと今にも吐きそうな表情でこちらを見た。

 「見てるだけでも、今にも吐きそうなんだよ」
 「美味しそうって言いなさいよ」
 「いや、もう胃がむかむかする」
 「うるさいな、真ちゃんは黙ってこれでも食べてなよ」

 真ちゃんの口の中にむぎゅっとシュークリームを押し込んだ。生クリームとカスタードの二重構造。シューのサクサク生地はあっという間に彼の口の中に消えていき、益々顔色は悪くなっていった。

 「真ちゃん、ほら、頑張って、あとちょっとだよ」

 大きなモニターに映し出されたパラメーターは90%と表している。あと一割であたしたちの目標は達成される。あたしは次は何を作ろうかと、大きな業務用の冷蔵庫を開けて中を見る。溢れんばかりの甘ったるい匂いは痛いぐらいにあたしの喉をぐっと鳴らす。ああ、もうすぐ終わりが見える、と思ったら寂しいような嬉しいような変な感覚に陥った。

 「真ちゃん、これが、ゲージが、100%になったらさ」 
 「先生は大喜びだろうな」
 「あたしたちは、死んじゃうのかな」

 甘いものは毒である。先生が望んだ結末はどうしようもなく馬鹿らしいバッドエンド。いつか世界を滅ぼすための、予行演習。あたしたちは実験用モルモット。先生があたしたちに摂取させる甘いものの中に入った「毒」はゆっくりあたしたちを蝕んでいる。
 実験が成功したら先生は喜んでくれるだろう。毎日死にそうになりながら吐き続けたかいがあったって、本当はあたしたちも一緒に喜びたいのに。もうその場所にあたしたちはいないのだ。

 「世界は甘いものによって滅ぼされるんだよ」
 「不幸だな」
 「……ううん、幸せだよ」

 あたしたちはモルモット。今日もゲロ甘なスイーツを無理やり口に運んで、先生のために生きている。