複雑・ファジー小説

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.15 )
日時: 2018/08/08 23:04
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)

【 友達以上、 】



 好きにならないって、簡単なことだと思ってた。宮野は大きなため息とともにお茶碗をもって、キッチンの流し場に行った。あたしとの会話を遮るようなその一言に、あたしはむず痒いような苦しいような、よくわかんない感情で胸がいっぱいになった。

 「簡単なことだよ。好きがラブじゃなくて、ライクだって、そんなどうでもいい話じゃない」
 「お前は俺のことが好き?」
 「ラブじゃなくて、ライクだけどね」

 戻ってきた宮野は机の上にお茶を置いて、あたしにも飲むように勧めてきた。湯気の立ったお茶をあたしは軽く口に含み、そっと目を閉じる。ふわりと抹茶の苦みが広がって、ゆっくりとそれは消えていく。あったかい、とあたしが言うと、宮野はにかっと歯を見せて笑った。

 「あたしは幸せだよ。宮野と一緒に居られて」
 「……俺はきっとお前の幸せの生贄になるんだろうな」
 「ふふっ、じゃあ宮野は永遠に幸せになれないね」


 あたしは彼のことが好きじゃない。きっと宮野もあたしのことを好きじゃない。たとえほんの少しでも「好き」の感情があったとしても、でもそれはラブじゃなくて、ライク。あたしたちのつながりは友情以上のものにはならない。あたしたちは世間的なしがらみで今日も上手に息ができない。

 「好きになりたかった」 
 「無理だよ。あたしたちは人を愛せないんだから」


 あたしたちは不良品だ。あたしたちには他の人みたいな自然に芽生える感情がない。欠落している。
 誰も愛せないあたしたちは、今日もこの生きにくい世の中を、理不尽な世の中を、必死に生きている。二人で支えあいながら生きている。




 「あたしのために、宮野が生贄になるの……本当はね」
 「その言葉の次は」

 言っちゃだめだよ、宮野が黙らすような濃厚なキスであたしの口をふさいだ。泣きたくなる感情を必死で抑えてあたしは彼に身を委ねる。好きだ、ラブじゃなくて、ライクだけど。それの何が悪いのか、あたしにはわからなかった。
 この世界には異性の友情は成立しない。あたしたちはどうしたって「友達」にはなれないのだ。