複雑・ファジー小説

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.16 )
日時: 2018/08/16 23:16
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)

【 世界の上手な愛し方 】

 「世界」があたしを愛してくれたら、それ以上は要らない。

 「ねぇ、世界。今日も雨だよ、寒いよ」
 「うるせえな。ぐだぐだ文句言うなら、出てけよ」
 「やだよぉ、世界と一緒にいたいもん」

 あたしがぎゅっと世界に抱き着くと、鬱陶しがるように世界はあたしを引っぺがした。地面とご対面したあたしは、ぐっとこみあげてくる涙を我慢して、ゆっくりと立ち上がる。世界を上から見下ろすと、何でか心がすっきりした。

 「世界はあたしのこと、きらい?」
 「ああ、嫌いだ」

 ぶっきらぼうに世界はあたしを撥ね退ける。こんなにもあたしが世界のこと好きなのに、世界はあたしのことを一ミリも好きになってくれない。こんなにも大好きなのに。

 「ていうか、何で俺がお前のこと好きになるんだよ」
 「あたしが世界のこと、こんなにも好きなのに」
 「好きなら、何でもしてもいいのかよ」
 「そうだよ、好きなら、何したっていいんだよ。世界を、殺したって、いいんだよ」

 世界が見つめるのはあたしじゃない。あたしの手に握られた一本の包丁。あたしがこれで世界の皮と内臓を抉り取って、世界が泣きながら、悲鳴を上げながら、死んでいくのを見たい。世界の最期はあたしだけが見ていたい。






 世界って君のことを呼ぶのが、いつの間にか当たり前になった。世界って、君を呼ぶたびに苦しくて泣きたくなった。
 あたしのことを全部忘れた君が、あたしを愛してくれてた君が、もういないって分かって、叫びたくなるくらいに壊れかけの心をあたしは必死で隠す。

 ずっと、好きだよ。なんて嘘じゃないか。あたしを全部忘れた世界が、あたしをもう一度愛してくれることは絶対にないから。あたしの知らないところで、あたし以外の誰かと幸せになる未来を想像して、あたしはきっと泣くのだ。泣きじゃくって、死ぬほど後悔するのだ。それなら、




 「世界はあたしに殺されないように、必死ここから逃げる方法を考えればいいよ。頑張って、あたしに殺されないように、頑張って」



 あたしを忘れた、あたしのことを好きじゃない世界が、
 あたしのことをいつか、殺してくれますように。って、そんな馬鹿なことを考えて、あたしは今日も世界の隣で眠った。