複雑・ファジー小説

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.18 )
日時: 2018/09/20 01:24
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: BBxFBYlz)

 【 秘密を飲み込む 】


 僕だけが知っている。僕だけが君の秘密を知っていた。
 絶対に誰にも言わないでね、と君が人差し指を鼻の前に立てて「しぃーっ」って軽く笑う。僕はどうすればいいのかわからずに、ただ「うん」と頷いた。
 空から降ってきた花びらが、君の髪の毛に絡まった。僕がそれをとってあげると、君は過敏に反応して僕の手を払いのけた。

 「秘密を僕が絶対に喋らないって、君はそう信じてるの?」

 君は僕をじいっと見て、こくんと首を縦に振った。花びらは雪のように降ってくる。降り積もる花びらは、まるで雪のじゅうたんのようだった。君が馬鹿だってことを僕は知っていた。
 僕を信じる愚か者な君が、僕の細い腕をつかむ。君の詰めが僕の皮膚に食い込んで、痕が残る。赤く筋のような傷。君が僕を否定するためにつけたその傷は、僕の呼吸を荒くさせた。

 「喋るつもりなら、お前の喉を潰せばいい」

 君は静かに、小さな声でそう言った。ゆっくりと君が両手を僕の喉にのばしてくる。親指が僕の喉仏に触れて、そっと力が入る。一瞬、息が止まるかと思った。
 冗談だよ、と君が目を伏せる。こんなことをしたって無駄だって分かってるんだ。僕が「秘密」を僕ロしようが、しまいが、もうどうしようもないから。君が抱えてしまった時点でその秘密は。君を永遠に束縛して苦しめて、いつまでも君を不幸にする。

 「君がもっともっと苦しんでいる姿をさ、僕は、見たかったんだ」 
 「最低だな」
 「君のほうが最低だよ。さいてー」
 「違う。どうにかしたかったんだ、どうにかしなきゃいけなかったんだ」

 君は君の秘密を、君の罪を認めることができないのだ。頭を抱えた君が、泣きそうな顔でこちらを見る。君の唇は「助けて」と動いた。だから僕は「嫌だよ」と唇だけを震わせる。君がもっともっと苦しめばいいのに、と密かにそんなことを考えていたんだ、僕は。

 「君は思い出すよ。赤い血を見るたびに、鮮明に。いっぱい殺しちゃったあの日のことを、思い出すよ」

 しぃ、と君と同じように僕は満面の笑みで人差し指を鼻にひっつけた。
 地面にひとつの水たまりがあって、僕が蹴った石がぽちゃんと中に落ちる。太陽が水を消すまで、もう石はこちら側には表れない。君とおんなじだよ、って僕はごくんと言葉を飲み込んだ。