複雑・ファジー小説

Re: 君は地雷。【短編集】 ( No.19 )
日時: 2019/06/21 15:55
名前: 脳内クレイジーガール ◆0RbUzIT0To (ID: sc915o9M)

 【 ぷろろーぐ 】



 きみが恋に溺れて、消えてしまいませんように。





 もうすぐクリスマスだね、と私の隣にいた佐那くんが白い息を吐きながら言った。
そうだね、と街中を彩るイルミネーションを見ながら私は相槌を打った。
 サンタさんの格好をしたおじいさんが子供たちに風船を渡している。
喜んで受け取る子供は、それがまるで自分のために用意されたものであるかのように、大事そうに紐を握りしめた。
 
 「ねえ、佐那くん」

 私の右手を、佐那くんの左手が包み込んでいる。いつも、こんな、変な手の握り方。
 佐那くんはいつも言わない。私と「手をつなぎたい」そんなことは、言わない。
 私がゆっくりと手を摺り寄せると、佐那くんの指が少しだけ絡んできた。冷たい、佐那くんの指と掌が、私の皮膚に絡みつく。

 「やめようよ、こんな関係」
 「なんで。上手くいってんじゃん」

 佐那くんがぶっきらぼうにそう言った。確かに全部上手くいっているけれど、絶対、綻びがあるんだ。私はどうしようもない未来しか待っていないこの関係に終止符を打ちたかった。佐那くんの足が止まって、私はぐんっと後ろに引っ張られる。

 「俺にはお前しかいないんだよ。お前しか、いないんだよ」

 どうして二回も言ったの、と聞きたかったけれど、ほんの少しだけ泣きそうな顔をした佐那くんに同情して私は何も言わなかった。
 佐那くんが私のことが好きじゃない現実に、心臓を抉られるような感覚を味わって、握られた手の温度を私は壁のように感じる。
 中学三年の冬、私は私のことを好きじゃない佐那俊介という男と付き合っていた。